これまで服屋さんでどの色展開が並んでいても、紫の服を手にすることは無かった。
それが、紫のニットを前にして、思わず手に取り試着までしたことに自分で驚いた。
4人それぞれが着ている服のコーディネートへの関心と、夜々さんの魅力が私の記憶と心に浸透してるんだなあと思う。
4人が集まりし大切なお家。に住みたいと申し出ている元主人(あるじ)
名前も始めは分からず。音だけで呼んで、名前の漢字が分かってからも、姿形と性格が分からず。
第7話をまるっと覆う存在感で居続けた“美鳥さん”。
椿さんと紅葉さんの会話のリズムが早まって、それからゆくえさん、夜々さんと、
心のざわつきが会話になって忙しなくなっていくところに、面白みとミステリーを感じていた。
会う人によって。時期によって。人物像が一致しない。
印象が違って、そんな人には見えなかった…となるたびに掴めなくなって、だけど存在感だけは紛れもなくあのお家のようにどしんと見えている。
4人のもはや日常と化してきたやり取りにほっこりしてから、新たな展開に4人の集まるお家が無くなったらどうする…と思っていたら、
あれよあれよと、閑話休題とばかりに美鳥さんがすべてを持って行った。
今しかないかもしれない時間なのをどこかで少しわかっていて、
お鍋を囲めることも特別に思って大切にしているから、空気が悪くなってしまって取り戻せないやるせなさも含めての、
夜々さんの「4人で食べたかったのに」なのかなと思いながら、漂う悔しさにシンパシーを覚えていた。
この展開が第5話でのひっくり返しではなくて、第7話に置く構成の興味深さも感じた。
オリジナリティのある持って行き方に転がされながら、残り3話としたらどう着地していくのだろうと、見ながらすっかり居心地の良さを抱いている4人が行く道の先にそわそわしている。
ゆくえさんが家に帰ってから、黙々と4人掛け席をシミュレーションしてみる様子が健気だった。
それでもやっぱりという感じで、しっくりこない。妹のこのみさんも腑に落ちてはいない。
序盤にあるシーンでの、椿さんの「ん?僕?なんで」の“なんで”のニュアンスがなんともどうにも良くて好きだった。
椿さんが話す時、一定のトーンを貫くのではなくて、あっそういう発声もするんだ。その言い方もするんだ。と、まだよく知らない相手への発見のようなものがあって楽しい。
劇伴がながれるなか、閉じた玄関向こうの紅葉さんに届けるようにそっと「おやすみ」と言って。
部屋へとぺとぺと歩いて、“明日には枯れる花”を遠巻きに眺めている椿さんの様子が印象的だった。
おそらく休日ファッションの椿さんが、紺のベストにモコモコめなブルーのシャツを着ていたのが素敵な服選びだった。
ボトムは主張は薄めだけど秋を感じるチェックを履いていたのも良い。
膝カックンした椿さんには、見ているこちらも意表を突かれた。
アクションとして新鮮すぎて反応が取れない紅葉さん。自分でしておいて、ん?!あれ?あ!とくるくる瞳の表情が変わって謝る椿さん。よいチグハグさだった…
以前、自分の職場で新人だった頃に、チャーミングなおじさまから職場に馴染めているか気遣って一声かけてもらった後で、
「膝カックンとかされたら報告するんだよー」と和やかに言われて、斬新な気配りを受け取りつつ、そんな状況ある?と思った。
これはおじさまに報告案件だと蘇って、面白かった。
夜々さんには夜々さんの出会いとして椿さんが前にいて、紅葉さんに合わせるでもなく、
今言いたくなった気持ちに動かされて素直に言えて、冗談にはしないで、本当にその気持ちがあることを伝えられた姿はとびきり素敵だった。
椿さんの反応が椿さんなのも、いい。
それでも、あの時ばかりはレジ袋がいるタイプの夜々さんも。好き。
CMのクレジットの向こうでカラオケ熱唱のゆくえさんがいて、aikoさんの「ボーイフレンド」でがなりの上手いゆくえさんが見られた。
そして向かいの部屋からうっすら赤田さんの歌う、尾崎豊さんの「I LOVE YOU」が聴こえる。
帰宅後の赤田さんと妻の峰子さんのやり取りは、ユーモアと掛け違いの切なさだった。
「私では補えない」寂しさは少し、理解できる。
赤田さんのこと、むっちゃ植物として見てる峰子さん。栄養を与えたい峰子さん。ぽかーんが顔にしっかり書いてある赤田さん。
2人がそれでいいなら、それでいいことなんだなと思いながら見ていた。
紅葉さんにも状況の変化があった。
紅葉さんのイラストが、本の表紙になる。
本当にうれしい。紅葉さんが追いかけるものが身近に考えられるからこそ直視できずにいたけど、その分あの紅葉さんのうれしさと不安が相まっている感覚が、ひしひしと胸にきた。
推理が弾む椿さんと紅葉さんの会話。
紅葉さんが言った「2ヶ月前に別れた元元カノとかあるもん」への「なにそれ」の言い方がよかった。
『な』の前に『ん』がつく感じの、んなにそれ。
端々にある会話の音が楽しかった。
ゆくえさんの家での会話は、夜々さんが椿さんと一蘭に行った話をするところがいいなと思った。
ドラマに映る時間軸が全てではない。こちらに見えていない時間もそれぞれに行動して、生きているのを感じる。
4人の空気感を眺めながら、居心地の良さを見い出し始めて、ソファーに深く腰掛ける…どころかぐいーんと寝っ転がり始めた頃に、
ソファーカバーを、でえーんと剥がされて転がっている。今そんな感覚でいる。
姿の見えぬその人に圧倒的な存在感を感じながら、どうするんだ…どうしたらいいんだ…と茫然としている。
そして、精神安定パンは、カロリーこわいこわいパンでもあると思っている。