おばあちゃんの家で、孫が、コンサートのためのうちわを作った。
ある時から、演歌歌手の辰巳ゆうとさんのファンになったあーちゃん。
わが家では、おばあちゃんのことを“あーちゃん”と呼んでいる。
以前に会った時、よくYouTubeで見るようになったのよと聞いた。それ以来。久々に近況を聞くと、1度コンサートに行ってみたところ、「別世界だった」と話すあーちゃん。
今はもっぱらYouTubeで辰巳ゆうとくんのチャンネルを毎日見て、コンサートに毎月行き、写真を一緒に撮ることの出来るイベントなどなど、
楽しく忙しくしていて、「遅れてきた青春なのよ」といきいきしていた。
別世界でエネルギーをもらって、日々また進んでいけるんだよね。年齢差とか、性別とかそういことじゃなくて、観せるものに惹きつけられるんだよね。わかるわかると会話が弾む。
これまでは私の方が、関ジャニ∞のライブDVDを再生して見てもらったり、ライブに行ってきた話をする方だった。
それが思いがけないスピードで推し文化にダイブしてゆくあーちゃん。
うちわ、ペンライト、グッズ、コンサートの楽しさ。推しの前髪あるなしで分かれる好み。あらゆる話が通じる通じる。
映画「メタモルフォーゼの縁側」のデジャヴのような。今このタイミングで、年の差で、こんなに話が通じるとは。共感し合えるとは。
うちわを作ることになった経緯は、
“辰巳ゆうとさん”の名前を覚えていた私が、歌番組「うたコン」を見ていたら辰巳ゆうとさんが出演されて、新曲「星くずセレナーデ」を歌うのを聴いたからだった。
歌の前に「これまでにないポップな曲調で」と言われていたように、演歌の方として持っていたイメージとは変化のある、サックスの音色が効いた歌謡曲のような耳馴染みと、歌声に聴き入ることのできるメロディー。
心にだけ 触れたままで
そう歌う時の音運びが、とびきり切なくて良い。
夜空の王子を彷彿とさせる青の衣装と、自然な佇まいを保ちながら、曲の雰囲気に合わせた表現で立ち振る舞う姿。
この歌好きかも。パフォーマンス素敵だったかもと思い、そのまま録画を残した。
そのことをあーちゃんに話したのをきっかけに、会おう!コンサートDVD見せたげる!うちわ作ろう!となり、会う日が早々に決まった。
うちわはすでに作ったことがあるとのことだったので、追加で使えたらと裏面がシールになっている文字用の用紙を何枚か100均で買い足し、飾りになりそうなペーパークラフトを家のストックから用意した。
「うちわを入れるトートバッグがないの」と聞いて、すっぽり入って重くないから重宝していた、ダイソーの巾着型にも絞れる220円の布袋をプレゼントとして付け足した。
さらに、「近々行くイベントの場所が初めて行く所なんだー」と話していたから、遠足のしおりのごとく会場までの行き方をスマホで資料としてまとめて、
地図は全体図と拡大版、赤ペンではっきり分かるように線を引いて、
目的地の外観をルート別で2パターン、写真も載せた。A4印刷で文字も大きく、大事なところは太字にした。
いざとなれば、この資料を人に見せてくれれば、どこに行こうとしてるかが分かってもらえる。
それらのプレゼントを渡したら、とにかく喜んでくれて、トートバッグには早速グッズの缶バッジを付けていた。
うちわの前にお昼をと、あーちゃんの手料理で私の大好きな団子汁と、栗ご飯とポテトサラダを一緒に食べた。
その間も辰巳ゆうとさんの歌は流れ続けていて、辰巳ゆうとさんの魅力紹介もノンストップ。
新曲は曲調が様変わりだったからびっくりしたと言っていたけど、その親しみやすさのおかげでコロッと興味を引かれた私もいるので、
曲の路線のチャレンジは勇気がいるかもしれないものの、きっかけにもなるのだなと実感する。
歌謡曲のカバーや、ミュージカルソングも歌うことがあるんだよと教えてもらって、なんですって…!と前のめりになった。
実際、DVDで見せてもらった竹内まりやさんの曲のカバー「September」が素晴らしかった。
ひたすら低音ということでもなく、どちらかというと高音に強くて、だけど耳が痛くならない中間ラインの心地良さ。
さらに関西出身と知って、私がさらに惹かれないはずがない。こわいほど無意識に関西感に引き寄せられていて、後から知ることの方が多い。今回もそうだった。
あーちゃんはYouTubeを使いこなしていたものの、アカウントと紐付けされていなかったようで、
本名丸出しにならないようにアカウント名を考えて、写真フォルダからお気に入りの植物の写真はどれ?と聞いてアイコンに設定した。
応援になるならチャンネル登録もしたいと、嬉々として登録ボタンを押すあーちゃん。
私も登録した。
お腹いっぱいになり、工作の時間。
なんだかんだ私があーちゃんの好みと希望を聞いて、オーダーメイドで作ることに。
ハート型の黒うちわが土台。私がこれまでに作ったうちわの写真を見せつつ希望を聞いて、「ありがとうは何においても伝えたい」とのことで片面は“ありがとう”に。
ファンサービス系は?と聞くと、「お願いをしちゃうのはなんか申し訳ない感じがする」と、うちわを初めて作ったかつての私のようなことを言う。
頭をひねって、“ゆうと 王子”に決まった。
とはいえ、うちわを作り慣れている訳ではない私。
自分の字で作りたいのもあって、下書きをまず直筆で用意する。
トレーシングペーパーを忘れてしまったので、それを用紙に重ねて、仮止めもせずに指で押さえて切るという強行突破。
飾りの好みも聞いて、配置を決めて、完成した。
「星くずセレナーデ」を歌ってくれているうちに、コンサートに行きたい私。
近いうちに、二人で行くことは間違いない。
我が家は特殊で、おばあちゃんだからといって、ずっとこの距離感でいられた訳ではなかった。そういう期間もあったから、今、こんなふうに二人ではしゃげていることがうれしい。
もし、何かのイベントの形で少しでもお話しできるなら、「おばあちゃんがいつもお世話になってます」「こんなにいきいき楽しんでいる様子を見られてうれしいです」と伝えたい。