第1話「いちばんすきな花」 - 静かに沈殿していく解せなさ。

 

私の目の前にいま、ガーベラが、花瓶とすることにした瓶に飾られている。

オレンジ、ピンク、黄色、紫、白。

太い茎だけど繊細で、水の吸い上げと茎が腐らないように気を配る。花の部分もお花屋さんから持ち帰る時にはエリザベスカラーのように囲いがつけてある。

扱いにはひと癖あるイメージ。

それでも、私のいちばんすきな花。

 

ドラマ「いちばんすきな花」第1話

インナーチャイルドをいつまで抱えていようか?と思うことがある。

だけどこれが抱えているんじゃなく、吸収したのちの自分なら、どうしたらいい?と思う。

そんなことを思ううちに、大人として進む間の課題は課題としてあって、ますますどうする?と迷路が出来上がっていく。

その感覚に近いものを持つ人たちと、会ったような気持ちになった第1話だった。

 

「まるかバツかじゃないの。途中式ここまで合ってるよとかさ」

多部未華子さんが演じる、潮ゆくえさんが言った。

2回目の再生で、今この一言が残っている。

 

カラオケにファミレス、演者さんも、坂元裕二さんの脚本のなかで馴染んできた場所や人がいるのは、脚本を書いている生方美久さんが尊敬する方が坂元裕二さんだからなのが伝わる。

仲野太賀さんの出演と、「大豆田とわ子と三人の元夫」で同じマンションに住むオーケストラ指揮者さんを演じていた方の出演がうれしかった。

カラオケルームで、コブクロの「永遠にともに」を聴くと見せかけて歌い出すシュールさは仲野太賀さんの真骨頂だと思った。

「しょーもな」をあのトーンで話す多部未華子さんの役柄が見られる嬉しさも噛み締めた。

 

“ペアの契約破棄”、あったなあと思い返す。

体育の時間にねと約束していたのに、しれっと無いことになったりする。

奇数になる可能性を、なぜもう少しセンシティブな事象として考えてから、ペアを作るようにというお達しを出してくれないのだろうと思ったりもした。

今の自分は今の自分で、また4人とはニュアンスが変わってくるかもしれないけど、結婚の知らせを突然に聞いて呆然とした経験が少し前に立て続いたこの心に、

友達ではもういられないという感覚は、引っ掻き傷みたいに鋭く滲みた。

 

美容室のシーンで、松下洸平さんの演じる春木椿さんと、今田美桜さんの演じる美容師の深雪夜々さんが反転になる鏡に向かって会話する様子が映る。

鏡向きのカメラで映し続けたところに、反転すること、向き合わずに二人が話すことの演出を勝手ながら感じて、

しかもそれが映像として綺麗に映っていたところがよかった。

 

夜々さんが職場の先輩から「やめなー」と言われているのを見た時に、

俳優さん、必ずどこかで見たんだ!とセンサーが反応してずっと考えていた。ドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」で、練くんが見つけた柴犬の子犬!の元飼い主!

ハマカワフミエさんが演じている、谷本杏里さんが役名。

練へ向けたあの目、一言、すっごく覚えてたから、今回感じた直感が確かに繋がっていたことも嬉しかった。

 

見せ方の点だと、「silent」と同じチームで作っていることがわかる雰囲気と色味の魅力もある。

ゆくえさんが持つバッグのこっくりとしたグリーンの色味だったり、長いスカートだけど印象が軽やかなチェック柄のコーディネートだったり。

それぞれの部屋のインテリアにも、居心地の良いセンスがある。

特に、椿さんの家でキッチンの壁のモロッカンタイルを、モロッカン感が強まる縦の並びではなくて、横に並べた美術さんの計らいに感動した。

ベージュにグレーと白の配色なのも良い。

「silent」では白のモロッカンタイルがテーブルにあって、すごく素敵だと思ったから印象を変えてここでも見られてうれしかった。

 

登場人物たちがスマホを持つと、なぜだかぐっとくる。

これは生方さんが築いている、生方さんの書く脚本の魅力に感じる。

耳に当てて、電話をかける。電話にでる。話をする。

話を進める連絡手段のためだけにスマホが出てくるのではなくて、言葉を届けるものとしてその道具とシーンがあるのがわかる。

神尾楓珠さんの演じる佐藤紅葉さんがスマホを使ってコミュニケーションを取ろうとするシーンは、どれも苦しさで息が浅くなった。

椿さんの電話や、ゆくえさんの電話、夜々さんの電話。

通じ合わない言葉も、電話の先に受け取り手のない通じ合わない言葉として浮かび上がる。

 

相関図を見ると、年齢は思うより上めだったり下だったりで、その印はこの話のなかで重要なことではない気もしている。

それでも、キャスティングと演じ方の絶妙さだと感じたのは、若々しく見えるほど役柄としての感性の瑞々しさが際立ちそうになる雰囲気のなか、

松下洸平さんが椿さんとして居ることが、おぼこく若く見える表情をする時もあれば、空気の重心を低めにする時はして、哀愁とコミカルから“人”を感じ取れる、バランサーになっているところだった。

 

アイスが溶けるのも構わず、すぐに置いて迎えに行こうとする椿さんを見て、パルムなのに…アイスなんてほんとにどうでもよかったんだろうなと思うと、その後の会話に心が痛い。

自分だったら冷凍庫に入れちゃうなと思う。その数秒を投げてでも駆けつける人なのに、一番になれないのかと苦しくなる。

 

4人がテーブルを囲んで、なにがどうしてか話すことになった場で、

お湯を沸かす時、ざっくりでポットに水を入れずに、カップ一杯分で計るところ。春木椿さんがそこにあるなあと感じた。

ピンクのマグカップを置く瞬間に迷ったのは、色と性別を意識することを意識したのか、妻になる予定だった彼女が使うはずだったものを、ほかの女性には…と思ったのか。

意図を汲みきるなんて出来ないけど、行動の余白が楽しい。

 

1話の最後の最後のカットで、ピントもぼやけていく向こうで椿さんが微かにすうっと肺に息を吸う動きが見えるのが、とても好きなシーンだった。

つかれたことを自分で受け止め、ひとまず1人になれたことへの深呼吸なのかなと考えたりしている。

 

めぐる思考回路と、4人であり1人1人の心理バランス。

1話だけでも充実しているここから、それぞれの思いは見方はどうなっていくのかわからない。だから気になる。


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切実だけど日常で、面白みを感じるシーンではくすっと笑ったりする。

木曜日の22時に会いたくなる人がここに現れてくれたから、これから毎週を進めそうな気がしている。