甘いケーキを口にした後には、ビターなコーヒーを飲みたくなる。
そうでしょう?とコーヒーカップをそっと差し出されたような気分になる、なにわ男子の歌う「君だけを逃がさない」
なにわ男子「君だけを逃がさない」
作詞:玉谷友輝さん
作曲:Erik Lidbomさん
編曲:石塚知生さん
(シングル「初心LOVE」初回限定盤②に収録。)
ラグジュアリーにダンディーに響いたメロディーの後で、
君だけを逃がさない 君だけを見つめたい 君だけを奪いたい…
メンバーの重なる歌声。
指のスナップ音と共にすこしハスキーな歌い方がギャップを生む。
ミステリアスな雰囲気やグルーヴィーさからは、嵐の「復活LOVE」や「I'll be there」から繋がる風を感じる。
わかりきってた 気が付きゃ 君だけWatching
明白な真実ほど 認めたくないでしょ?
文字にしてみればなかなかの雰囲気を含んだこのパートを歌うのは、グループ内では年下組になる長尾謙杜さん。
“明白な真実ほど”と文学的な言い回しをしているところに惹かれる。
繋がっていく歌声のバトンは、長尾謙杜さんから道枝駿佑さんへと渡り、大西流星さんへと渡される。
マイルドさをつくる道枝駿佑さんの歌声からは、Sexy Zoneのマリウス葉さんと通じていそうな包容力の声質を感じた。
まもなくメンバー全員が20歳を越えようとしている現在。
年下組であっても大人は大人だけれど、ハリのある声をどんなふうに落ち着いた雰囲気へと色を染めていこうか考えた先で歌っていることがわかるこの曲は、聴き込むほど楽しい。
位置としては間の年齢になる高橋恭平さんの歌声も、ほかのカップリング曲とはさらに一味違う表情を見せる。
大橋和也さん、西畑大吾さん、藤原丈一郎さんの年長組の歌声も、曲のテーマの中で見せることのできる表現を楽しんでいるように感じる。
音程どこですかと驚くような、大橋和也さんの高音の“触れてたい”からのフェイクが、歌詞に秘められた情熱を具現化させた。
余白が魅力を生む曲は、いつの間にかくせになる。
ビートが刻まれているところよりも、休みの拍にあるノリ感が心地良い。
Going crazy 迷宮入りさせないさ
と歌う高橋恭平さんの声。
“さ・せ・な・い・さ”で、1音ごとに休拍が入るようなスタッカートの効いた発音がいい。
わかりきってた 火が付きゃ2人 Labyrinth
淡白な Attitude そそられるMy heart
このパートの高橋恭平さんの歌声に酔いしれる。
“わかりきってた”の『た』が、『たぁ』と微かに息が抜けていく。はっきり発音して聴き取りやすく歌うことも出来るけれど、意識的に息多めの声質に切り替えていることが伝わってくる。
“Labyrinth”(ラビリンス)“Attitude”(アティテュード)の落ち感のある発音もいい。
“Attitude”は特に、『アティテュー』と発音して、『ド』を消音にしているところが好きだ。
長期的な過程で魅力になる、グループとしての成熟で表れる声色ということも含めて、
「初心LOVE」のカップリングにダンディーさを表現する「君だけを逃がさない」が収録されていることは興味深い。
差し出されたコーヒーカップは、いつかちびちびと楽しむお酒へと置き換わるかもしれない。
歌う年代によって変わっていく曲の印象。
それはワインのようで、デビューの年に仕込んだ初々しいワインが、これから年月を重ねて風味を増していく。
いつか木目の美しいカウンターテーブルで、お酒を嗜むような大人の時間を思い描きながら、
今、なにわ男子が表現するダンディーさに酔いしれたい。