Sexy Zone「夏のハイドレンジア」 - 降りだした夕立ちのそばでそっと傘をさす

 

雨の降る季節を知らせるアジサイの花。

葉がいきいき緑を増すと、まだ咲かないでいいとさえ思っていた。

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ハイドレンジアは、西洋アジサイのこと。

花言葉は様々あるけれど、【辛抱強さ】と【冷淡】が並んでいるのがいい。

 

眠る前、起きてから、TBS「音楽の日」で歌われた映像を何度も何度も見ている。

メロディーがいいなと第一印象に思いながら、ここまで8月4日のリリースも待ちきれない気持ちで繰り返し見るとは思っていなかった。それでもここ数ヶ月の、なだめ方の分からない心のざらつきを静めてくれたのは、Sexy Zoneの歌声で聴くバラード。

降りだす雨と、傘と、雨上がりの日差しを感じさせてくれる「夏のハイドレンジア」だった。

 

ハイドレンジア こぼれる涙さえも綺麗だ

雨の街に咲く花 ヒロインなんだ 君は 

 

キザなようにも思える歌詞でありながら、すっと浸透していくのは、切実さが胸に迫る中島健人さんの歌声と、サビの歌声が合わさったユニゾンの爽やかさから来ていると感じた。

“こぼれる”から“涙さえも綺麗だ”とカーブを描くメロディー。“雨の街に”の“街に”でフワッと上がる音の可憐さ。

そこから過度に盛り上がっていくメロディーを選ばずに、山なりのカーブで下に着地していくのが心地良い。

無意識のうちにギターで言うセブンスのコードに惹かれていく傾向が自分にあるので、この曲の中にもあるのではと推測している。

 

 

まるで時計の針 すれ違ってばかり

その笑顔が見たいのに 今

バラードでさらに活きる菊池風磨さんの湿度の高い歌声が、対でありながら切なさという同じベクトルで中島健人さんと層になって線を描く。

音楽の日」での歌い方が、“まるで時計の針”でニュアンスを控えめにするところと、“その笑顔が”でグッと熱を込めるところとバランスのいい抑揚になっていてとても好きだった。

“今”で感情を高ぶらせ過ぎずに、すっと落ち着ける声色が素敵だと感じた。

 

歌詞に添うように、歩き進める菊池風磨さんの両側をすれ違って歩いて行くメンバーの演出もいい。

表情を大きく変えるわけではないけれど、だからこそ一貫して切々と胸に積もる思いがあることが伝わる佐藤勝利さんの佇まい。

“傘”などの歌詞に合わせて動きをつけていて、曲の中に入って登場人物として表現をしているところが好きだと思った。

松島聡さんの笑顔は人の心を和らげる。切なげな表情を全員でするのもいいけれど、微笑むことで一際伝わる切なさもある。

 

そして印象的に感じたのは、歌詞にある倒置法。

文の最後に、ぽんと言葉をひとつ置く表現の美しさ。菊池風磨さんのパートでも、“その笑顔が見たいのに 今”と歌って、“今”がぽつりと残る。

今その笑顔が見たいのに、でも、その笑顔が今見たいのに、でもない。力無く届かない距離へと離れてから最後に本音を溢すかのような日本語の使い方に、胸がギュッとなる。

 

 

ハイドレンジア そう 雨に綻ぶ 花に誓おう

 

綻ぶとは、【こらえきれずに涙が流れる】こと。

加えて【花の蕾が少しずつ開きはじめる】様子も意味していて、どちらの意味を重ね合わせても繊細に情景を映す言葉になっている。

メロディーにのせて音として聴いても美しく、文字として見ても、一文字の漢字と間に収まるひらがなのバランスが素晴らしいと思った。

 

守りたいよ 小さな この温もり

その温もりではなく、“この温もり”

相手の存在の事とも受け取れるし、自分の胸の中に生まれた想いとしても受け取れる。

雨の街に咲く花 ヒロインなんだ 君は

序盤サビの歌詞でも、“君は”が文の前には来ず、最後に“君は”となる言葉並びが美しい。

その後に変わるサビでは、“幾度 時が巡っても”という歌詞が登場する。何度や何回と言い回すのではなくて、“幾度”と語るところに魅力を感じた。

 

 

ハイドレンジアについて調べたときに、一人の名前と、そこにある史実を知った。

ドイツの医師であり博物学者だった『シーボルト』という男性。彼の愛した日本人の妻『お滝さん』の名を、彼は帰国してからひとつのアジサイの学名につけたそうで、

国を隔てた想いのなかにひとつのアジサイがあったことを知り、この曲が主題歌になっているドラマ「彼女はキレイだった」でのパズルのピースを大切に持ち続けながら海外から帰って来た宗介にほんのりと重ねて思うものがあった。

ぜひ要約した話ではなくて、しっかりと解説されているホームページもあるので、シーボルトさんのお名前で検索して読んでみてほしい。

 

アジサイは知れば知るほど謎めいている。

植っている土の養分によって青に咲くか赤に咲くかが分かれること、その境目に咲いたのか青と赤が混ざった一株になる場合もあること。

逞しい枝をしているけど、乾くとカラカラになって、中には綿のような白いクッションがあること。

あんなに大輪で堂々と咲きながら、実は毒性があって、猫や犬には注意が必要なこと。

 

近くに寄って見るより、遠目に見てポップコーンがカラフルに付いているみたいな咲き方をしているのを眺めるのがいいなと思う。

そんなあれこれを考えても、雨を運んでくるかのようなイメージを持っていたアジサイに親しみを抱くことは今までになかった。

だけどこうして、「夏のハイドレンジア」という曲の世界観を通して雨や傘のイメージを重ね合わせて、梅雨を越えた夏の季節のなか聴くメロディーは、切ないけれど夕暮れの穏やかなオレンジに包まれている。

 

CDTV ライブ!ライブ!」での歌唱で、秦基博さんが提供した曲だと知って、サプライズだった。

倒置法などを使った、日本語への丁寧さ溢れる歌詞と、そう考えればアコースティックギターのアレンジも似合いそうな繊細なメロディーに、ますます愛着が湧いた。

 

Sexy Zone夏のハイドレンジア

作詞・作曲:秦基博さん

編曲:トオミ ヨウさん

 

止みそうにないと思った騒がしい気持ちのそばで、傘をさすように静けさをくれたこの曲とSexy Zoneの歌声に、今とても感謝している。