WILD BLUE「Our Magic」 - 僕らが染めていく空の色は

 

時間帯を感じる歌だった。

夕陽が沈んだあとのわずかなマジックアワー。空のグラデーションが目の前に広がるようで、柔らかな声の起伏が耳心地良い。

 

歌に季節を感じることがあるように、朝の空気や夜の空気を感じることがある。

星を眺めながら、都会を歩くなら、この歌を選びたいと直感で再生することもある。

でも時間帯をメロディーと歌声から受け取るのは、メッセージやストーリーを受け取るよりもめずらしいと思った。

 

WILD BLUEOur Magic

作詞:Satoru Nakagakiさん、UTAさん

作曲:UTAさん

編曲:UTAさん

 

言葉数は多くないように思う。

だけどいろんなことを物語っているような。

 

歌詞の始まりを読むと、

Feels like a fairy tale

Oh I'm on a magic ride

Me & You ,You & l, soaring through the sky

とあって、この歌のメッセージがぎゅっとここにある気がする。

「アラジン」の『ホール・ニュー・ワールド』で耳馴染んだキーワードも出てくる。それによって、【soaring】からフワッとカーペットが浮かび上がるあの情景が思い描ける。

せっかく英文にしてある言葉を意訳するのは、無粋かもしれないと思いつつも、紐解いてみたくなる。

(感覚はまるで おとぎ話のよう)

(ああ いま魔法に乗って)

(僕と君、君と僕、舞い上がり空を飛んでいく)

というような雰囲気で私は受け取った。

 

Aメロがふわりふわりと漂う雲なら、サビで雲の間からオレンジの陽の光が差し込む感覚。

僕らだけの世界で

のサビに入るフレーズが、ひとつひとつの音が美しい。

今回の「Our Magic」は、歌謡曲と70、80年代のシティポップの良さが重なっているような、温かみとノスタルジーがあって落ち着く。

ギターのカッティングが、シティポップと呼ばれることもある趣きを生み出していると思う。

疲れた1日の終わりはあまり音楽を聴かなかったりするけど、この歌声とメロディーは聴きたい。

すべてがファルセットでということでもなくて、低音が響く部分もあるところに今回特に良さを感じた。

 

音について話すと、最初のチリチリチリチリ チャーン!の鳴り方が開けていく感じに聞こえるのはなぜだろうと考えて、イヤホンで聴いて片耳ずつでも聴いてみた。

そうしたら、左から音が近づいて来る感じがして、チャーン!で両耳に響く。

始まった!という印象になるマジックが、ここからもうスタートしているのかもしれない。

ビートが心地良く、ダンスのメリハリがぴたっとハマっていく楽しさ。

電子音バリバリに聴かせるわけでもなく、はじめと終わりのギターの音色に温もりがあったり、アコースティックギターも一瞬聴こえる?と思うところがあったり。

さらにベースが入った瞬間からの、メロディーの重心と安定感。

ドラムの躍動に、序盤のストリングスや、その後にくるフルート?の可憐さも耳に届く。

 

歌詞のなかで好きだなと思ったのは、

本当の君の“好き”だけを見せて

という語りかけ。

歌の中の人称が“君”と“僕”なのがすでに好きのツボを押さえているのだけど、そこに“本当の君の”と言葉が合わさっていて、見えることだけではなくもっと君を知りたいというニュアンスが伝わってくる。

それも、好きを見せてではなくて、“だけ”とあるのが印象深い。

 

穏やかな声と言葉で語りかけながらも、

儚い言葉では

足りないから

と確かに届けたいことがある、くっきりとした意思が見えるのが素敵だと感じた。

タイトルがMagic hour(マジックアワー)ではなくて、「Our Magic」であることによって、僕らのマジックになるところもいい。

 

ダンスパフォーマンスビデオでは、夕陽に照らされて踊る光の美しさに見入る。

空のオレンジとヘリポートのオレンジ。

“世界”を記憶の写真に収めるように、両手の親指と人差し指を伸ばしてフレームを作っていく動き。

“続く”のフレーズで、時計の針のように指し示した指を動かしていく振り付け。“Just”の前に肩をくっとバネにするところ。ステップはかろやかで、ターンは静かに無駄なく。

何度撮ったのかはわからないけれど、刻一刻と沈んでいく陽のなかで一度きりに近い緊張感で踊る姿から、歌にある儚さが際立ってくる。

隔てる物がない場所で、風も強いはずで、撮影のタイミングと魅せ方の両方の努力で完成していることを想像した。

 

ハモリで合わさる声、細やかなフェイクのひとつひとつがやすらぎの周波数で、綺麗だなあ落ち着くなあと耳を傾ける。

そして感動する歌声があった。

夜空に電球くらいにはっきりと光る星や、まんまるの月を見た時みたいな、見つけた嬉しさを抱きしめたくなる輝きが、すっと音が静まってからくる落ちサビにあった。

優斗さんの歌声だった。聴いて、心がぎゅーんとなった。

その時はまだフルで聴けていなかったのに、公式によるショート動画の投稿で曲の刺さりどころを見つけやすくする作りになっていたマーケティングで、見事に心を捉えられた。

 

またこの場所で明日待ち合わせよう

ファルセットが、見たことのない輝きかたをしていた。聴きながら、もはや見える輝きだった。

歌声、歌い方はもちろん、作曲をしてこの音階を選んだことへの感動が止まらない。

耳を澄ますと、うしろに鳴る音も繊細に見事なメロディーラインを描いている。

オパールのように光の角度で色の反射が変わる、柔らかさを持ちながら、かき消えそうでも消されはしない、薄っすらと広がる雲の美しさ。
表情と手のひらの滑らかさが、さらに儚さを生んでいて素敵だった。

 

歌を聴いてぱっと思い浮かんだのは、日が沈みオレンジがわずかに残る夕暮れだったけど、本来のマジックアワーは夜明けも意味すると知った。

聴くほどに、日が沈んで青みがかり紫も混ざり夜になっていく空、夜が明けていく何層にもなる青や白の明瞭度、雲の形、

この一瞬だけ見られるパレットなのではと感じる、空の移り変わりのどれもが当てはまる気がした。

そう考えると、マジックアワーはどの時間帯に見る空の色であっても、心に留まる景色ならマジックアワーとして受け取れるのではと思った。

 

早くに目が覚めてしまった時、夕暮れを見ることができた日、一日の終わりにも。

思わず再生したくなる「Our Magic」を感じた。