雪が谷大塚を訪ねた日。「‪いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう‬」のあの坂へ

 

いつか訪れたくて。

でもそのいつかはちゃんと大切にしたくて。

今だな、と直感できた時に、訪ねようと決めていた。

 

ドラマ「‪いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう‬」坂元裕二さんの脚本作品。

音ちゃん、練くん、木穂子さん、小夏。ドラマの中で、静恵さんのお家に向かう坂として何度も歩いていたあの坂。

音ちゃんが唯一聞いていた、練くんの手掛かり“雪が谷大塚”を忘れずにいて、はぐれてからも会えるかもしれないと探し待っていた、雪が谷大塚駅

そして、二人の行き違いを見守りつづけたコインランドリー。

 

練くんを見つけた橋や、音ちゃんが暮らしたアパートの建物も見たい気持ちはあったけど、今回はこの3つの場所にした。

2016年に放送をリアルタイムで見ていても、ここへやって来るまで、8年。私には必要だった。

 

初めて見る駅と、初めて見るマンションが次々と流れる景色を眺めながら、電車を乗り継ぎ乗り継ぎながら、音ちゃんは都心から雪が谷大塚を目指した時にこの街並みを電車の窓から見ただろうかと想像した。

戸越銀座を、音ちゃんが「それは…通り道なんで」と伊吹さんに言った土地感も掴めた。

徐々に小さめの素朴な駅が続いてくると、その場所が近いのがわかる。

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ついに目にした雪が谷大塚の文字。

それがもう嬉しくて嬉しくて。こんなにも自分の中に大切な場所として在り続けていたんだと気づくほど、本物だ。本当にあった。やっとここに来られたと気持ちが弾んだ。

 

改札を出て、右が左か。

わからないままに左へと進んで、階段を降りて行く。

見えてきた、音ちゃんが仕事の後に練くんと再会できるかもしれないと待っていた踏切近くの電信柱。

ここ!とわかる。多少、看板が違っていても、降りてきた階段と駅とを一緒に眺める景色は、あの空気感のままだった。

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平日の午前に行ったものの、人通りは多めで、細い道を車がよく通るのもあり、ご迷惑にならないタイミングを探り探りで、間合いを見て撮る必要のある場所だった。

バス通勤の練くんを知らずに、ここでなら会えるかなと待っていた音ちゃんを思った。

 

事前に調べていた時に、駅からすぐの場所にたこ焼き屋さんがあると気がついて、

たこ焼きを思い切って買ったのに食べられずしょんぼりしていた音ちゃんと、練くんが作ったたこ焼きを思い出した。

しかもこちらのお店は、柔らかい大阪のたこ焼きに近そうな感じだと見て、それなら食べなきゃでしょと予定に入れた。

「たこ焼き あほや 雪が谷大塚店」11時開店。

ソース、しょうゆ、塩、ポン酢から選べて、トッピングに七味があったのが嬉しかった。

大阪の流儀で塩にしたいと思いつつ、ソースマヨ。青のり以外を全部トッピング。

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開店の少し前から待って、出来立てだったのもあって、あっつあつのトロットロで美味しかった。一人でも12個食べられると思うくらい。

 

お腹を満たし、Googleマップを頼りに、練くんが使っていて音ちゃんも後々使っていたコインランドリーを目指して歩く。

雪が谷大塚の駅から細めの道も歩きながら、おおよそ14分。

「明神湯」というお名前の立派な銭湯のお隣にあるコインランドリーが、撮影地だった。

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練くんが来ていた場所だ。椅子がぷうと鳴いて、冊子を手に取ったあの場所だ。

椅子は別の物だけれど、空気感はそのまま。

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お客さんのいらっしゃらないタイミングだったのでしみじみ眺めていると、思いがけず銭湯「明神湯」のご主人が声をかけてくださって、ドラマで見て来たかったんですとお話しできた。

すると銭湯のお話でも盛り上がり、私が首からカメラを下げていたのを見たからなのか、薪で湯を沸かしていることを教えてくださって、見る?と案内してもらってついて行くと、

釜の蓋を開けて、中でメラメラと燃える薪を見せてくれた。

眩しいと感じるくらいの炎と、迫力ある熱風。

この炎がこの大きな銭湯の湯を沸かしているんだと考えると、壮大な心臓部分を見せてもらっているありがたさがあった。

「写真撮っていいよ」とどこまでも優しくて、こんなことってあるんだろうかと感動しながらシャッターを押した。

ブログの写真掲載の許可はお聞きしていないので、言葉で書き残したいと思う。

 

コインランドリーにきゃっきゃしていたけれど、

銭湯も様々なCMや、映画「テルマエ・ロマエ」パート2の際の会見で使われていて、多くの撮影が行われていることをお聞きできて楽しかった。

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1957年から続いている銭湯。外観から壮観さは伝わってきて、威風堂々が流れてきそうなほど風格に満ちた銭湯の表情がある。

大人になってから、こうして見学の機会をいただけることはそう無い。来て良かった。お会いできて嬉しかった。

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コインランドリーを見つめたのち、Googleマップの導くままに、あの坂を目指して歩く。

途中に、多分ここが音ちゃんと練くんとで子供たちにおじいちゃんおばあちゃんからのプレゼントを届けにきた幼稚園なのではと思われる場所の前も通った。

8分ほど歩いて行くと、これかな?と思う坂を見上げる。でもマップではハッキリと指し示してくれない。一度通り過ぎる。

でもあれだよな…戻る。登ってみる。


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あの壁の穴を塞いだ跡は、撮影後に変わったと言われていた箇所では…?さらに近づく。急な坂をまあまあ登って、振り返ってみる。

 

ここ!!遥か向こうに見えるビル群の抜け感と、空。坂がぐわんと降りていて、道が続く感じ。道路の丸いぼこぼこ。電信柱。

ここ。ここです。

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自分が立っているのが、目の前に広がるのが、何度も何度も画面越しに見てきた、音ちゃんの。練くんの暮らす街。

ひたすらに感慨深かった。やっと。

 

今日ここに来ようと決めた日から、今一度最後まで見た「‪いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう‬」

何度目になるとしても心が動く。そう感じられる自分のままでいたいと思う。だけどここに来るには、自分の納得できる自分になれた時だと、なんとなく思っていた。

すべて完璧なんて状況に自分になれたわけではないけど、私は私を大切にしながら今ここに居られていると、あの坂に立ちながら認めることができた時間だった。

 

いつまでも居られるなと思いながら、心にそっと刻んで坂をゆっくり下る。

雪が谷大塚駅へ戻ろうと歩きつつ、途中に気になった商店街を少しお散歩して、

パン屋さんに魅惑的なクリームパンが並ぶのを発見したり、見つけたコーヒー屋さん「MASS coffeeroaster」に“雪が谷ブレンド”のドリップパックがあって迷うことなく購入したり。

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なんだかんだ線路を目印に、時折マップをあてにしながら雪が谷大塚駅へと帰って来た。

名残惜しいけど、また、いつか。

 

どこかでカフェにも立ち寄りたいなと思い、マップから見つけた洗足池駅から徒歩4分の「AOI COFFEE」へ。

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洗練された外観と店内で、丸三角四角から作られたロゴが素敵なお店。

光をいっぱい取り込むコンパクトな店内に、一人でもそっと座りやすい席とミニテーブル。

ホットカフェラテと、プリン、さんかくパウンドケーキを頼んだ。

 

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コーヒーの風味がしっかりありつつ、後味でミルクがマイルドに包んでくれるカフェラテだった。マグカップの持ち手が握りしめやすくて、やたら重いこともなく、持ち上げやすいのが印象的だった。

プリンは弾力ほど良くしっかりと、バニラビーンズがカラメルに贅沢に入っていて、上にのるホイップとはちみつ?と合わせて美味しい。

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さんかくパウンドケーキは頭のところがサクッとして、あとの部分がガトーショコラのようにチョコレートの美味しさがぎゅっとなっていて、コーヒーと合う濃度だった。

お店の名刺やコースターが活版印刷で、好みにシンパシーも感じた。素敵な名刺は本の栞にしようと思う。

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調べたところによると、このカフェからわりと近い所に静恵さんのお家として撮影したお家があるようだったけれど、

なんとなく、お家は暮らす方もいるだろうし、ドラマの中でだけ見られる場所があるのも自分にとってはいいかなと思って、このままを選んだ。

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家路に着いて、この文章を書きながら、漂うような安心したような不思議な感覚でいる。

ずっと辿り着きたかった場所に訪れることができたんだという実感と、時が経って撮影当時とは変わっていったものもありながら、やっぱりあの場所に変わらず在ってくれたことへの感動。

約束などしていないのに、いつかを待ちつづけてくれていたような感覚にさえなった。

 

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音ちゃんたちが見せてくれた年月の先を生きるようになった私だけど、放送を見つめる時間の中で胸に待った心強さは変わらない。

優しいことは弱さじゃない。穏やかでいながら、時に打ちのめされても、ちょっとくらいやさぐれても。大切にしたいものが何かをわかっていることができたら、歩いていける。

いつか。が今日で、よかった。

 

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