映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」 - 視点によって気づくこと

 

コンシェルジュになりたいと、考えたことがある。

お客様の必要とすることに気づき、ご要望に速やかに応対し、送り出した後もお客様が楽しい時間を過ごされるよう計らうお仕事。

どんなご要望が飛んでくるかわからないなかで、観察し、考え、動く。

そういう働きをしたくて、ホテルの専門学校と空港のグランドスタッフの専門学校を見学に行くほどだった。

 

NHKの「あさイチ」を見ていたら、紹介していた「北極百貨店のコンシェルジュさん」

はじめはテレビ放映のアニメーションかと思っていたら、映画館での公開作品だった。

コンシェルジュとして働く、新人さんの秋乃さんのことが、一目で好きになった。

そして、北極百貨店に訪れるのは様々な動物たち。

それも、絶滅危惧種ではなく、“絶滅種”のお客様もお迎えするというお話に、心湧かずにいられなかった。

 

原作は、西村ツチカさんが描く漫画「北極百貨店のコンシェルジュさん

2巻まで出ていて、1巻の試し読みができたおかげで、漫画のタッチから伝わる空気感の魅力と、それがどんなふうにアニメーションになるのかというワクワクを同時に受け取った。

 

70分間のコンパクトさの中で、自分も北極百貨店を歩く1人になったような充実感があった。

それぞれの動物の個性、傾向、フォルムが魅力的に描かれていて、ウミベミンクの娘さんに「猫の恩返し」のユキちゃんを連想して、2人がここで出会ったらどんな会話をするだろうと思ったりした。

ぷっくりと立体感のあるアニメーションというよりも、色鉛筆のような線画が動く様子が美しく、それでいて北極百貨店の景色が見えるひとつひとつのシーンでは奥行きと壮大さが表現されている。

スクリーンいっぱいに広がる絵がどれも1枚絵としても飾りたくなる素敵さで、空間デザイン、色彩の点でも素晴らしく心惹かれる作品だった。

 

映画が公開されてからこの作品を知ったので、第1弾のフライヤーも第2弾のフライヤーも貰うことが出来なかったけど、

グッズのクリアファイルに、第1弾でのデザインと第2弾でのデザインをそれぞれ用意してくださる優しさのおかげで、部屋に飾ることができる。

グッズのセンスも素敵で、パンフレットは少々厚みもあり、アニメーションのラフ絵などが好きな方にはたまらないはず。表紙の装丁も模様にでこぼこがあって丁寧な作り。

中は買ってからのお楽しみというアクリルチャームをつい買って、お迎えしたのはワライフクロウご夫妻だった。

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動物たちの声を担当する声優さんたちも、耳から聴いてワクワクする方ばかりで、

大きなマンモスは津田健次郎さん。重厚感と、もそもそ感がマンモスのウーリーの魅力をさらに生み出していて、よくよく考えながら話すウーリーの様子を見ているのが楽しかった。

 

声優さんや、この作品に携わったクリエイターさんやスタッフさんのお名前とメッセージが公式サイトに丁寧に載っているので、ぜひ開いてみてほしい。

エンドロールで、音楽をtofubeatsさんが担当なさったと知って、

手描きのような風合いの絵に重なる、tofubeatsさんの音というクリエイティブな楽しさもいっぱいだと感じた。

 

どの動物たちも愛さずにいられないなかで、

ニホンオオカミの繊細な心理描写と、その様子を見ながらあくせくする人間スタッフさんたちのコミカルさに笑ったり、ベルについてのお話にハッしたり。

バーバリライオンの彼の今にも泣きそうな一生懸命さに胸がぎゅんとなったりした。

そんなそれぞれの魅力を受け取りながら、私の心のMVPは、ネコに掴まれた。

諸星すみれさんが声を担当する、ネコ。観てほしい。抱きしめたい。この気持ちがきっとわかる。

 

北極百貨店という店内で巻き起こるお話でありながら、季節の移り変わりがわかる演出も素晴らしかった。

 

相手が本当に望んでいることを、どうしたら汲み上げることができるのか。

北極百貨店へやって来る動物たちは、どんな気持ちで、ここでの楽しい時間を過ごすのか。

エンドロールの最後の最後まで、丁寧におもてなしをしてもらったような余韻に浸る。

コンシェルジュとして懸命に駆け回る秋乃さんの魅力は、この作品を観て「北極百貨店」に訪れたらわかるはず。