映画「ダンスウィズミー」歌とダンスに彩られる快感 [ネタバレなし]

[ネタバレは無しで書いています]

 

ミュージカルが大好きだ。

歌に心情が重なって、ダンスに思いが表れる。

日常を生きながら遠慮して、押さえ込んで、殻に殻を築き上げて“感情”のありかを見失う窮屈さの中にいる時、オンリーパッションで突き抜けて気持ちの高ぶりを表現する姿を観ると、嬉しすぎて涙が込み上げてくる。

 

だから、ミュージカルなんて、突然歌い出して踊り出す。変な人。と言われると、シンプルに落ち込む。

なにをー!とかではない。なぜそんなことを好きで観ている人に言う…?と、悲しくなる。そもそも、“突然”ではないのである。セリフがあり、セット展開があり、登場人物の心の動きに寄り添って歌がある。なんて説いても、苦手だという人に好きになってもらえるわけではない。

人の好きなものは人の好きなものとして、否定しない。その距離感でいいのではないかなと、これまでずっと思ってきた。

 

映画「DANCE WITH MEダンスウィズミー)」は、どちらの気持ちに近い作品なのだろう?と気になっていた。

主人公の静香は、催眠術によって急に踊り出す身体になってしまっただけで、望んで踊っているわけではない。少なくとも、始めのうちは。

いきなり歌い出す人が白い目で見られる世界。ミュージカル映画!楽しそう!と思っていたけれど、予告映像やインタビューを見るうち、ミュージカルが好きな自分が観ても大丈夫なのだろうか…とドキドキしていた。

 

映画を観終えた今、「ダンスウィズミー」は、確かなミュージカル映画だったと確信して言える。

楽しくて仕方がなかった。イヤホンを耳につけて、内心ノリノリになってしまうあの感覚を、解き放ってくれる映画だった。

 

主演の三吉彩花さんがとことん魅力的で、開眼した瞬間からの歌声。ダンス。一瞬にして心奪われた。

三吉彩花さんの声は、どこまでものびやか。美しい。

話しているシーンの声は落ち着いたトーンで、歌い始めるとたちまち青く透き通る海が目の前に広がる感覚。

ボイストレーナーとして参加された内川佳子さんは、映画「舞妓はレディ」の歌唱指導もされていた方で、上白石萌音さんのあの映画での歌声が大好きな私には、三吉彩花さんの声を好きになるのも必然的だったと今になって知った。

宣伝のメイキング映像で、ダンスシーンはアクロバティックなシーンもとことん本人による実写。ダンスは幼い頃から習っていたと話されていて、この映画の楽しさはそれが大きな柱になっていると感じた。本気の魅せ方を追求した先で、歌と踊りに戸惑う主人公「静香」を演じているからこそ、ミュージカルシーンは本物で、観ている側もワクワクすることができる。

懐かしの名曲がいきいきと披露されるのも楽しいポイント。歌謡曲や邦楽が好きな人にとって、たまらない映画のはず。

ザ・ピーナッツのような雰囲気を感じるデュエットにも心ときめいた。オリジナル曲の魅力も存在感たっぷり。

 

作品全体の雰囲気を例えるなら、映画「ヘアスプレー」で表現されていた、テレビと音楽が密接に繋がっていた時代の懐かしさが、映画「ダンスウィズミー」にある。

日本の年代で言うと、ドラマ「トットてれび」や朝ドラ「ひよっこ」で感じた、音楽に漂う空気の心地よさをこの作品からも感じた。渋く、情緒があり、かっこいい。

さらには歌だけでなく、聴こえてくる“音楽”が立体的で素晴らしい。

ジャズサウンドの厚みが凄く、ブラシで叩くドラムの音や、サックス、クラリネットの存在感。なぜこんなにグッとくるのだろう?映画館の音響だから?と思っていたら、答えはパンフレットにあった。

本作での楽曲演奏を担当しているのは、「Gentle Forest Jazz Bandジェントル・フォレスト・ジャズ・バンド)」

感動の正体は、スウィングだった。のらずにはいられない音楽のうねりは、映画館で体感できる最高のライブ体験。

 

 

「ダンスウィズミー」を観たい!!と強く思ったのには、さらに理由があった。

はじまりは増田貴久さん主演の舞台「フレンド-今夜此処での一と殷盛り-」から、劇団扉座での舞台、安田章大さんが主演をしていた「俺節」などに出演し、ずっと注目している俳優の松本亮さんが映画館のスクリーンに映る姿を、なんとしても観たいと思った。

ハマケンさんこと浜野謙太さんとの共演でもあったため、一刻でも早く映画館へ駆けつけようと決めていた。

探さなくとも分かった出演シーンに、わああ!とジタバタ歓喜したい気持ちをぐっと抑えて、コンマ1秒も逃さず目で追った。舞台で観続けた俳優さんを、映画館で観るという経験は初めてのことだった。

エンドロールが流れて、そこに松本亮さんの名前をしっかりと見つけた時の嬉しさは、言葉に変えるのがもったいない。

 

舞台、特にグローブ座での舞台を観る機会の多い方には、サプライズの多い映画だと思う。「フレンド-今夜此処での一と殷盛り-」や「泥棒役者」にも出演していた、後藤剛範さん。同じく「泥棒役者」で不審なお隣さんを演じていた川島潤哉さんも出演していて、ああ!おお!と次々に声が出そうになる口を押さえるので精一杯だった。

映画「海猿」の初期の訓練生メンバーだった、深水元基さん田中聡元さんがそれぞれ出演していて、海猿ではバディだった二人なこともありテンションが上がった。

 

 

「ダンスウィズミー」に出てくる曲はどれも魅力的で、マジシャンであるマーチン上田を演じている宝田明さんの歌声も渋くて素敵。

いい声だなぁなんて思っていたら、ディズニー作品「アラジン」のジャファーの声をされていた方だとは。驚きばかりのこの映画。パンフレットを読んで後から知るおもしろさも盛り沢山だった。作品を気に入られた方は、ぜひパンフレットを購入することをおすすめしたい。曲の解説など内容が充実していて、印刷も凝った一冊になっている。

ミュージカルナンバーとして歌われる曲の中で、「Happy Valley」はとても印象に残る。

かろやかで清々しく、三吉彩花さんの歌声が最高にマッチしていて、心の重力まで軽くしてくれる。

 

歌にダンスだけがこの作品の魅力ではなく、三吉彩花さんの演じる静香と一緒に行動することになる、やしろ優さんが演じる千絵がすごくいいキャラクターで、二人のコンビネーションさらに歌声のハーモニーが素晴らしかった。

歌にかける時間があるなかでも登場人物たちの個性が豊かに描かれていて、説明過多にならないからこそ、この人普段は会社でどんなふうに働いているんだろうとか、この人何を目的にこの行動をしたんだろうと想像することができて、“人の面白み”が楽しく表現された作品だと思った。

 

一歩外へと出ただけで、世界はこんなにも音と音楽に溢れている。

それは歌詞のついたメロディーに限らず、スマホの着信音から電子看板の宣伝など、あっちからもこっちからも音の雨のごとく耳へ降ってくる。

歌とダンスに彩られる人生の楽しさを、ミュージカルとコメディと共に観せてくれた映画「ダンスウィズミー」

映画館で観ながら、リズムを取りはじめてしまう指を隠すのに一生懸命だった私の身体はすでに、催眠術なしでも踊りだしてしまう身体なのかもしれない。