甲子園の空に弧を描く - なにわ男子「夢わたし」

 

白球が飛ぶ空の景色は、どこから見上げるかで大きく変わる。

高校野球を、今まで本腰を入れて見てこなかった。

感情移入をしはじめたら、果てしなくのめり込んでいきそうで、夏の終わりを感じ始める頃「熱闘甲子園」のダイジェストの後ろ数分を見かけては、ちょっストップ!と距離を保っていた。

学生の頃。卒業式が近づくと、今年はどのアーティストがどんな曲をリリースするんだろうとほのかに期待するあの感覚。

であるとしたら、テーマソングとして選ばれる歌は球児たちにとって、時間と季節の蘇る、思い入れのある歌になるのかもしれない。

 

関ジャニ∞が「オモイダマ」を歌ったのは、2014年

高橋優さんが「虹」を歌った、2017年 

嵐が「夏疾風」を歌った、2018年

Official髭男dismが「宿命」を歌った、2019年

甲子園を開催できなかった、2020年

 

そして今年、2021年は

なにわ男子が歌う「夢わたし

この歌をエールに、“高校野球応援し隊”を務める。

ABC夏の高校野球応援ソング、「熱闘甲子園」テーマソングになり、甲子園駅では駅メロとしてすでに流れている。

メンバー揃ってのタイトル会議の場で、様々な言葉とアイデアを出し合い、最終的にフリップに「夢わたし」と書いたのは、野球を、オリックスバファローズを愛してやまない藤原丈一郎さんだった。

夢と私であり、夢を渡すことでもある意味を込めた“夢わたし”

 

最初に聴いた時のインパクトは、嵐ような雰囲気を感じる!だった。

それを強く感じたのは、高橋恭平さんの歌うパートが訪れた時。これまでもなにわ男子の歌を聴いて、高橋恭平さんの歌声も話し声も何となく知り始めた気がしていたけど、初めて聴く音域の歌い方に感動した。

眩しく照らす太陽 雲一つない空を見上げて

空気を貫いて真っ直ぐに伸びていく爽やかさが、嵐の大野智さんの歌声とリンクする部分があると思った。

さらに後半、高橋恭平さんと大橋和也さんの声が主に重なって聴こえる“一人じゃないから”のパートで大野智さんイズムはぐっと増す感覚がした。

高橋恭平さんの歌声のさらなる可能性はもちろん、それぞれの声が二層になったり三層になったりと、様々な組み合わせで現れる色彩の変化にワクワクした。

 

I'll be there for you, You You

想い繋ぐ You With you

一人じゃないから 奇跡も掴める

 

重ねられる“you”の言葉に、届くようにと何度も投げかけられている気がして胸が熱くなる。

確かめるように掴みながら、一歩ずつ進める足。

 

“一人じゃないから”の『ら』の音程が、次にくる“奇跡も掴める”の『る』の音程と変化がついているところが印象的で、

『る↑』と同じ高さでも歌えそうなところを、『ら→あ↓』と2つの音程で下がり気味に歌う。

“一人じゃないから”とポジティブなメッセージを伝える時に、あえて落ち着いたメロディーを取ることで、明るさだけでない着実な想いが伝わってきて、好きだと思った。

 

音の重なりと、歌詞ではない所のフェイクのパート、歌の終わりに繰り返される“Wow”などの、耳で受け取る楽しさが魅力の歌になっていると思う。

『I will be there』を省略した、“I'll be there”の言葉。【そこに(側に)いるから】という意味と、“I'll be there with you”とした場合には【私はあなたと共にそこにいる】と将来的な視点で語りかける言葉になる。

実際にそばにいる意味と、想いをそばに置く意味とのどちらもを感じることができた。

 

一人じゃないから 奇跡も掴める 

チームで闘う野球も、グループとして進むなにわ男子も、 隣り合う存在によって掴めるものがあること。

今のなにわ男子が歌うことでさらに共鳴して、意思を持つ歌詞になっている。

 

歌の終わり、オーオーオーと繰り返すパートが印象深い。

歌詞の表記としては“Wow”なのだけど、何層にも重なる声でこだまするように聴こえる音の厚みは、球場に響く声援を思わせる。

メロディーが最後に残って、ピアノの音色が浮かび上がってから、そっと落ち着く締めくくりも穏やかで良かった。

このピアノのメロディーは、イントロでバイオリンなどの弦楽器と共に鳴りはじめてから、ずっと同じ旋律を繰り返している。

途中、一部にメロディーが移り変わる箇所はあるものの、ベースとして鳴り続けている音が同じであることに感銘を受けた。

楽器が導くメロディーではなくて、耳に残る歌詞とその音は歌声から奏でられている。主旋律の下で心拍音のように刻み続けるメロディーが記憶に残り、再び聴いた時の懐かしさと胸の高鳴りへと繋がる。

 

始まったばかりの夏の高校野球

しかしこの時を迎えるずっと前から、練習に試合と重ねてきた日々がある。

どうか暑さのなか体に気をつけて、球場のピッチに立つあなたも、ベンチから控えで見つめるあなたも、その場にはいないかもしれないあなたも、全力を尽くして想いを果たすことができるように。

「夢わたし」を聴きながら、今年は高校野球を見つめる夏を過ごすことにする。