ほぐれた気持ちでスクリーンに映るエンドロールを見つめていると、始まるセッション。
映画「461個のおべんとう」の主題歌として、井ノ原快彦さんと道枝駿佑さんが、劇中の一樹と虹輝として歌う「Lookin' 4」という歌。
映画館では、フルで聴くことができる。
何日経っても、また聴きたい。次いつ観に行けるかなと思っていたら、
歌唱シーンの映像が、このために再編集された予告と共に解禁された。
歌詞まで表示されていて、ショートバージョンではあるものの、TwitterかYouTubeで何回でもあの声に触れられるのが嬉しい。
初めて触れた 愛だから
井ノ原さんの声がストレートに響く歌い出し。
ピアノで刻まれはじめるジャジーなメロディーに、サックスが加わる。
ジャズ!と気づいた時の嬉しさ。裏打ちで、スーチチッっとブラシの音でリズムが鳴る。
ピアノとサックスの掛け合いというだけでも好きなのに、途中サックスの目立ちパートがあるのがたまらない。
井ノ原さん演じる一樹が弾くのはエレキギター。だけどエレキギターの音色も穏やかに。
歌詞の入りが重心後ろめで、でもリズムに乗り遅れている訳ではなく。ジャズのぐっとくるところを掴むような歌い方がすごく良い。
メロディーに沿って歌うのとはまた違った、ピッチの取り方の難しさがあったのではないかなと感じた。
それでも二人、のびのびとおおらかに歌う。
それが素敵で。一音も聴き落とすことなく見つめていたくなる。
映画本編の撮影が完了してから二人の歌のシーンを撮ったのか、撮影のタイミングは分からないとしても、「461個のおべんとう」で役を重ねて身体に入った上でのセッションが実現したこと。形に残ったことがうれしくて。
朝のアラームにすると、その曲を苦手になってしまうと言うけど、朝が来るたび聴きたい。
“初めて”の【は↓じ↑めて】と来る、“じ”の上がり方。同じように、“沢山”も【た↓く↑さん】で抑揚をつける。
一旦下げてからの急上昇は、音を当てるのも大変そうに見える。しかもハモりは、幅を揃えて上をいく。
2回目の“初めて”の入りが、1拍あける、溜めの魅力を発揮していた所もすごく良かった。
“思い出は”の【お】が、わりと声を張る音程で、だけど過剰でもなく、押し引きの塩梅にも感動する。
そして、“愛だから”のハモりライン。“いつの間にか遠い所まで”の音運びの美しさに癒される。
井ノ原さんが主メロだとすると、上ハモを歌うのが道枝駿佑さんで、一緒のメロディーラインを歌うユニゾンもあるかなと思いきや、わりとパート分けがはっきりしている。
ずっと上をキープするのは難しいだろうなあと思った。それこそ、道枝駿佑さんは10代の今の喉だからこその声のトーン。井ノ原さんも、今の年齢だから出る声の厚み。
いつか歳を重ねてまた歌うようなことがあったら、それぞれ深みも厚みもさらに増して、渋くかっこいい井ノ原さんと道枝駿佑さんのセッションにきっとなる。
ブレることのない包容力を声にして歌っていく井ノ原さんの歌声の魅力に、道枝駿佑さんの澄んでいながら温かみを感じる歌声のハーモニー。
井ノ原さんの、空気を多く含んでから喉を通る声の柔らかさに聴き惚れる。
映画館での暗闇と音響も相まって、ライブハウスで二人のステージを観ているような感覚になった。
映画本編の中で、バンド活動をしている一樹。
音楽が日常として馴染んでいて、映画の始まりを優しく導くのも井ノ原さん演じる一樹の歌声。
その曲も、劇中での曲もエンドロールの「Lookin' 4」も、作詞・作曲は渡辺俊美さん。
「Lookin' 4」は渡辺俊美さんが、当時4歳だった息子さんのために作った曲。渡辺さんのライブで親子で歌っているのを見た、監督の兼重淳さんの思いから、今回のセッションが実現した。
この映画の原作者が、渡辺俊美さん。
音楽監修もされていて、今回の「Lookin' 4」レコーディングもディレクションをされている。
90年に「TOKYO No.1 SOUL SET」を結成。
並行してソロユニット「THE ZOOT16」の活動もしながら、福島県で「猪苗代湖ズ」という名前で県人バンドも組んでいる渡辺俊美さん。
猪苗代湖、と聞いて、何かまた繋がったような気がした。
大好きなドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」でも出てくる、猪苗代湖(いなわしろこ)
いつかこの景色を見に行くだろうなと直感している。
シンプルなステージの上、明かりに照らされて歌う一樹と虹輝。
二人ともホワイトシャツだけど、一樹は襟のないノーカラーシャツ。虹輝は襟つきシャツ。
その対比もまた、肩の力を抜く術を身につけた一樹であり井ノ原さんの雰囲気と、これから吸収していくこともきっと多い、虹輝であり道枝駿佑さんでもある二人の雰囲気に合っている気がした。
歌で、主メロの層を進む一樹と、上ハモの層を進む虹輝。重なりつつ並行していく関係性。
子の人生を親は生きるわけにはいかないこと、親の人生を子は生きられないこと、
同一視し過ぎると曖昧にしてしまうそのことを、大切に優しく、本編と「Lookin' 4」のセッションから感じていた。
ほんのすこしぎこちなく、お互いに距離を見つめ合う空気が、役柄に重なるように演じている実際の二人も見え隠れする。
タタンッと静かにスネアの音で締め括る「Lookin' 4」
丁寧なおじぎで暗転は解けて、映画館にいる自分の日常を思い出す。
ほのかに軽くなった心が明日を進ませてくれる気がして、二人の歌声はいつまでも私の耳から離れない。