リキュールをひめた甘いボンボン - King&Prince「Moon Lover」

 

三日月の夜 窓を開けたら

片目を閉じて薬指で

満月になるように 優しく書き足せたら

どこへでも駆けつける 君の元へ

 

月夜に用意された二人きりのパーティー

かろやかに優雅にいざなうその歌声。King&Princeが歌うジャズの魅力に酔わされている。

心弾まずにはいられないメロディーと、ボーカルの際立つジャズの世界観。

 

はじまりの歌詞で、すっかり心を掴まれた。

美しい言葉で、一編の詩を読んでいるよう。月をなぞるなら人差し指でもいいはずなのに、薬指でと言われるところにドキッとさせられて、三日月が満月になるという描写は“指輪”の比喩なのではと感じられる。

薬指に降りた満月は、恋人の証なのか約束の証なのか。

そう考えはじめると、“優しく書き足せたら どこへでも駆けつける 君の元へ”の言葉がより一層紳士な言葉になる気がして、素敵だと思う。

 

髙橋海人さんの歌声が光る曲だと感じたのもこの曲を好きになった理由で、“どこへでも駆けつける 君の元へ”のパートは“君の元へ”の弾み方がとてもいい。

髙橋海人さんの歌声には、ダンスの振りが想像できる音の動きがあって、バックステップを踏むように踊る様子が思い浮かぶ。

 

King&PrinceMoon Lover

作詞:亜美さん 作曲:山本玲史さん

この曲が収録されたアルバム「King&Prince」には、「シンデレラガール」にはじまり「Memorial」から「Naughy Girl」と、プリンス感溢れる曲から、セクシーな曲調も成立することを早々に見せつけたKing&prince(キングアンドプリンス)の可能性が満ちている。

その中でも、私はこの「Moon Lover」をどうか一度聴いてみてとすすめたい。

 

 

その甘さを例えるならば、アルコール入りのクリスタルボンボン。

ブルーにホワイト、ピンクのまあるいアメが敷きつめられたきらびやかな小箱。

僕と淡い甘い恋をしよう

夜が明けるまでそばにいるからさ

流れ星集めてグラスへと

どんな味の夢を見よう

ロマンスはたっぷりだけど、どこか夢のように消えてしまいそうな儚さが漂う。

私がこの曲を聴いてイメージしたのは、異国で暮らす絵描きと女の子の恋物語だった。 ジェントルマンな振る舞いも、“描くよ”と出てくる歌詞も、そして“忘れないように”と語る意味深な言葉も、パリのような街並みのなか、とあるアパルトマンでキャンバスを前につのらせる恋心と照らし合わせるとぴったりくる気がして。

 

夜更かしばかり させられないね

たまに問いかけるかもしれない 

このパートを歌う髙橋海人さんがさらに最高で、音の弾みのつけ方、クレッシェンドの作り方が素晴らしい。

あえていたずらっぽくするような質問に、“かもしれない”と付け加える描写がたまらなくて、見透かされた微笑みで翻弄される掴めなさがいい。

 

「Moon Lover」を知ったのは、フジテレビの番組「RIDE ON TIME」のKing&Prince密着で映ったライブ映像で、ほんの一瞬見えたこの曲の演出に釘づけになったからだった。

聞こえてきた楽器の音色はジャズの雰囲気で、ステッキを手に持ちダンスを踊っている…!しかも脚を交差させて優雅に踊るステップはチャールストン

ジャズの雰囲気の曲を歌うからといって、ライブ演出がその雰囲気に合わせたものになるとは限らないとわかっているから、よくぞここで王道を貫いてくれたと、惜しみなく観せてくれてありがとうございますという気持ちになった。

この演出の素晴らしさに心奪われ、アルバムを聴いて、見事にハマりエンドレスで聴くことになる。

 

効いているトランペットにしっかり息を合わせるドラム。

落ちサビ前のベース(コントラバス)の効いたメロディーと声が際立つ演出に心ときめく。ジャズの曲調は、その人が持つ声質がくっきりと浮かび上がるものだと感じるからこそ、ジャニーズでも各グループがジャズ調の曲を歌うたび、注目せずにはいられない。

 

「Moon Lover」はまさにKing&Princeの一人一人の声がジェントルに響く。

神宮寺勇太さんはストレートに紳士な声色。聞き取りやすい発音によって、曲のはじまり物語へのエスコートが美しい。

髙橋海人さんの声が無邪気さとかろやかさを表して、岸優太さんの声が霧をも晴らすような風を吹かせる。1番の歌詞の神宮寺勇太さんのパートから高橋海斗さんのパートへの移り変わりがあまりに自然で、聴き分けが難しいほど2人の声に段差がなく、ぴったり合っていた。

平野紫耀さんの声が、前に通るというより広がり浸透していく落ち着きのある声なことで、曲の空気感はグッと大人っぽさを増す。永瀬廉さんの声はシックな声質でありつつ、高音になってもキンとならない丸みのある声。ラストの平野紫耀さんのパートには、東山紀之さんイズムが感じられた。

神宮寺勇太さんの声がバランスをつくり、高橋海斗さんと岸優太さんの声が爽やかさで突き抜けていく高音域を担って、平野紫耀さんと永瀬廉さんの声が落ち着いた雰囲気を作り出す低音域を担う魅力を味わえるのが「Moon Lover」

ここに岩橋玄樹さんの声が合わさったら、どんなふうになるのだろう。

ジャズのボーカルはあまり声を張らないからこそ、低音をキープしたままで雰囲気を出して歌い上げるのが難しいはずだけど、それぞれに魅力の溢れるボーカルになっている。

そして全員揃って歌うユニゾンでは、すっとひとつの線になる。

 

「Moon Lover」を聴きながら歩くだけで、一気にイルミネーションの世界に満たされた気分になる。

甘いお酒は酔いやすいから気をつけてと言うけれど、可愛いふりしたクリスタルボンボンをひとつ、またひとつ口にはこんでしまう。そんな魅力を感じる一曲だった。