映画「今夜、世界からこの恋が消えても」好きなところ

 

何となく、伝わってくる雰囲気が心地いい気がすると思って観に行ってよかったと、今でも噛みしめる。

全体的なテーマカラーのような水色がじんわり広がる感覚で、真織と透の空気感や、それぞれの佇まいがしっかり記憶に残っている。

公開日から日が経ってきたので、大きなネタバレにならない範囲での好きなシーンについての話をしたい。

 

序盤に映る、絵に描かれた透に引き込まれていく感覚。

えんぴつで描かれた瞳に、道枝駿佑さんが透として放つ求心力が表れていた。

絵を描いていらっしゃるのは、島田萌さんだと漢字含めて確認できた。あともうお一方、まりえさんという方もエンドロールにお名前があった。

 

ここからは、好きなシーンをひたすらに。

真織がデートでサンドイッチを食べたあと、レジャーシートにごろんと寝転がる。

透と居て居心地が良いことを、「急かない」と言った。

その一言がとても好きだった。落ち着くとかほっとするとも、少し含む意味の違ってくる言葉選びに、思うよりも先に心臓が焦っていない深呼吸のできる空気感があるのは素敵だと思った。

寝転がりやすいように、そっとマグカップをずらしている透の自然な優しさもいい。

 

真織がデートに着て行く服に迷って、選ばなかった方の組み合わせも別の日のデートで着ているところに、日常の女の子を感じて可愛かった。

学校の制服がトップス自由なところも良くて、

「デートに行かない?」と言われる時の透のボトムと真織のスカートがグリーンのタータンチェックで揃っている二人の姿が、カップルのさり気ないお揃いコーデみたいで可愛かった。

泉ちゃんは制服アレンジでチェックの色が違うのも良かった。

 

2回目を映画館で観に行った時、

1回目は1週間前のことだったのに、映画の空気感がとても恋しくなった。

それほど、居心地が良かったのだと思う。

時間軸と様々な心情を受けた上で観ることができて、感じ取ることの幅も増した。特に綿矢泉ちゃんの表情の理由がわかってしまうことがつらかった。

あとはやっぱり、福本莉子さんと道枝駿佑さんの声が聞いていて本当に耳に優しい。

 

オリコンで古川琴音さんのインタビュー記事

福本莉子×古川琴音、『セカコイ』“親友”対談 「記憶」と「記録」について語る | ORICON NEWS を読んで、

大好きなシーンのひとつである、透に対しての泉ちゃんのあの行動がアドリブで、どうしてそうしてみたのかも含めて知ることができた。

その理由がチャーミングで、なおのこと好きなシーンになった。

私は大きな大きな猫が好きだから、泉ちゃんの家にメインクーンノルウェージャンフォレストがいる様子も最高に癒しだった。

特に電話中の時の、ほぼライオンみたいな“モンッ”とした口元が素晴らしかった。

 

そうしなくても大丈夫と分かっていても、ブレーキの音の悲痛さには耳が苦しく、目を閉じてしまう。

真織の直面した出来事の悲惨さが映像に映らずともその音でわかる。

毎朝、真織がその夢で目を覚ましているかもしれないことも。

 

3回目を観に行った時は、

映画館で上映開始が近づくにつれて、どんどんと席が埋まっていって、見た限りは満席になっていた。

ぐっと集中して、みんなで観ている時間っていいなと感じながら、落ち着く水色に染まってきた。

 

今回は透の気持ちがどう募っていったのかに着目できて、好きなシーンも増えた。

そして監督の映す“陽だまり”がやっぱり美しくて、日向ぼっこしてるみたいな感覚になるのが居心地いいのかもしれないと思った。

 

ひまわりの髪飾りを手に取る真織の、アクセサリーショップのシーン。

透の優しい表情にいつも引き寄せられて、映っていないと思っていた透が見つめる真織の様子がガラスに反射して見えると気づいた時、本当に感動して…

見えないと思い込んでいた物語のつづきが、ここに映っている!と思った。

反射で映っているのが透の胸の辺りだったから、透の心の中にいる真織を表すようで、なんて素敵な映し方なんだろうと、また胸打たれる思いだった。

 

真織が持ち歩くメモ帳には、透の1日の流れが書いてあって、

“洗濯”などのルーティンのあとに最後の方に、“→散歩”とさり気なく書いてあったのを見つけて、透、お散歩するんだなあとほっこりした。

家事が一息ついて、とくに鞄を持つでもなくそのままふらっと近所を散歩している、ちょこっと猫背な歩き姿が想像できる。

気に入っている植物のある場所や、空の様子、昨日は無かった花に、ひとり心和らいだりしているのだろうか。

 

真織に「血液型は?」と聞かれて、電車を待ちながら何の気無しに「AB型」と答えた透に、「…ああー(納得)」の感じで頷く様子とその言い方が絶妙ですごく好き。その後の透の「えっ?」も気の抜け具合がいい。

道枝駿佑さんと福本莉子さんの間で共演がこれまでもあったからこその温かみと、道枝さんが透を演じているからこそのニュアンスを感じるシーンだった。

 

モノレールの席で向かい合って話す会話はとても印象的で、

透が家事を覚えたと話した時、「食べてみたい。透くんの手料理」と、シンプルなそこに着目してくれたこと、透にとって特別だったんだろうなって言葉なしの微笑みから伝わる。

大変だったね、でも頑張ったんだね、でもなく。

お姉ちゃんが「犠牲にして…」と言ったのを真っ直ぐ訂正した透だから。

目の前にあることを、真っ直ぐに受けとめてゆく真織に、心許せるところが増えていったのかなと感じる。

 

真織の持つ着眼点という意味では、透がお母さんの話をした時も同様に。

「きっちりした人だったんだね」と言った真織の素敵さについて思う。

聞いちゃってごめんとか、寂しいねとかじゃなくて。うれしそうに微笑んだ透の表情から、親しみが深まっているのが伝わってくる。

そういう表情のひとつひとつから、真織へと募ってゆく想いが溢れていた。

 

 

三木孝浩監督は、映画を撮る際に演者さんに、お手紙と役柄イメージの曲を書いたプレイリストを渡すと聞いた。

曲という形で、形容し難い空気感を互いに共有するのは素敵な方法だと感じた。

なので、きっと明確な曲たちは演者さんや監督の胸にあるのだと思いつつ、自分なりにふと聴いて思い出す感覚も楽しむことができた。

三人の共通プレイリストになりうるのではと直感的に感じたのは、松任谷由実さんの「Hello, my friend」

どの歌詞が誰の想いと色分けしたい訳ではなくて、どうしてもなんだか思い出してしまう。

 

映画公開後のイベントごとは盛り沢山だった。

舞台挨拶だけでなく、SNSすべてで生配信をする企画、三木孝浩監督と脚本の月川翔さんと松本花奈さんがTwitterライブでお話もしてくださった。

Twitterライブでお聞きできたことも興味深く、お二人が参加されている脚本のどこがどう合わさっていて、それぞれに原作からどんな解釈を汲んで脚本描写に入れているのかなどのお話が楽しかった。

おそらく、三木孝浩監督のTwitterアカウントかSTARDUS DIRECTORSのアカウントからアーカイブで見られるはず。

 

さらに、三木監督のTwitterアカウントで、映画「今夜、世界からこの恋が消えても」についての質問コーナーを受け付けて答えてくださった時間があった。

突然の企画に驚き惑いながら、今は今しかないんだとツイートにリアルタイムで気がつけたことに感謝して、ドッドッと心臓が高鳴りながら文字を打った。

 

すると、恐縮で光栄なことにお答えいただけた質問があった。

言葉の権利は三木監督にあると思うので、Twitterの画面リンクをまず貼った上で、何かの手違いで消えていってしまわないよう、文字起こしの形で下に文面として残しておきます。

 

 

質問「教室で二人が話すシーンの日差しが印象的です。陽だまりの映し方でこだわったのはどんなところですか?」
#セカコイおかわり質問タイム

 

三木孝浩監督

「そのシーンが誰目線かで光の当たり方を変えるのですが、例えば教室のシーンは透目線なので真織を逆光に、浜辺のデートは真織目線なので透を逆光にしてます。そうすることで相手に惹かれていく感覚をビジュアルで表現できるのかなと思ってます。」

 

私は映画「陽だまりの彼女」も好きだった。

あの光を美しく映す映像と、上野樹里さんを暖かく映すカメラワーク。松本潤さんの眼差し。

CDショップで可愛らしくヘッドホンをつけてノリノリな彼女と、それをガラス越しの向こうから見つけて一目惚れならぬ何度目惚れをしているのがわかる彼の表情が大好きだった。

だから三木監督と陽だまりについての映し方の話をお聞きできて、本当に本当に嬉しかった。

 

 

質問「真織がアクセサリーを見ているシーンで、それを見ている透を映しながら、ガラスの反射で透のなかに真織も映っていることに3度目で気づきました。あのシーンは、映り込むように意図して撮影されましたか?」
#セカコイおかわり質問タイム

 

三木孝浩監督

気づいていただいて嬉しいです!

カメラマンの柳田さんが綺麗に映り込むように立ち位置とか計算して撮影してくれました。

 

そして言葉にならないほど泣くほど感無量だったのは、この質問への答えだった。

一番お聞きしたいことだった。

でも、まず聞きたいことを聞いていた後で、追いかけるようにどうか…!と届けたかったこの質問は、贅沢なお願いのような気もしていた。

それでも、観たばかりの3回目でようやく気づくことのできた素晴らしい映像について、あのシーンについてお話がしたかった。

答えの通知を見た瞬間、ベッドに頭を埋めた。

 

あのシーンは、物凄いと思っている。

監督、カメラさん、照明さん、制作スタッフさん一人一人が、すごい。

その撮影についてを、「カメラマンの柳田さんが綺麗に映り込むように立ち位置とか計算して撮影してくれました。」と三木監督からお答えいただけたことに、胸がいっぱいになった。

好きなシーンなんだと伝えることができた。「気づいていただいて嬉しいです!」が、こちらこそ嬉しいです!!!!!の気持ちになる。

そしてどう作られていったのかを、教えてもらうことができた。

映画やドラマで、ガラスや鏡が映るたびにドキドキする自分がいる。プロが作っていると分かっていても、映り込みやカメラワークは困難を極めると思っているから。

だからこそ、どの位置に映り込むか、どのくらいの濃さで映り込むか、相当な工夫があったと想像して、そのプロフェッショナルに感動する。

お店の外にいる透だけのアップのカットのみにしなかった、映像美と物語を伝えることへのこだわりを感じるシーンだった。

 

 

映画の撮影地となった、江ノ島も辻堂も横浜も、自分にとっても思い出のある景色がいっぱいなこともうれしかった。

映画を観ながら、この景色知ってる…確か写真も撮ったはずとパソコンから掘り出してみると、見つけられた。

2011年の自分が撮っていた辻堂海浜公園の景色。

「今夜、世界からこの恋が消えても」の透と真織もこの辺りの景色を見ていたのだろうかと思った。

 

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自分にとっても、写真は大切な記憶なのだと思う。

スマホの容量は写真がほとんどを占め、6万5000枚を超えている。

それプラス、一眼レフで撮った写真はデスクトップパソコンに詰め込んであるので、とてつもない。

 

だけど手でペンを持って日記を書くのも、

パソコンで文章を書くのも、

カメラで今見つめるものを撮るのも、

どれも大好きで、大切だ。

「今夜、世界からこの恋が消えても」は、自分が何を大切にしたくて、誰のために何を思っているのかを浮かび上がらせてくれた。