好きなのに言えない、というより
好きだけど言わない、と心に決めているようにも見える主人公。
映画「僕の好きな女の子」
ミニシアターかピンポイントな映画館でしか上映されていないのがもったいないほど、好きな空気の作品だった。
又吉直樹さんの短編エッセイとして書かれた4ページの文章が、映画に。
クラウドファンディングを募っていたのを知らなくて、完成したものだけを美味しくいただいているようで、すこし申し訳なかった。
完成させてくれてありがとうの気持ちと共に、外出に注意を払いながら観ることで受け取りたいと思った。
僕(加藤)を演じているのは、渡辺大知さん。
キミ(美帆)を演じているのは、奈緒さん。
“主人公”と呼ぶより、“彼”と呼ぶ方が合うかもしれない。
スクリーンの中で目立って映っているのは彼で確かだけれど、周りを巻き込んで空気を変えていくということでもく、むしろ空気を読んで、自分の言葉を押し込める場面も多くある。
ここ数年、リアリティーではなくリアルの人肌と言えるような温度感を見せる映画が増えている気がして、
恋愛においては特に、ヒリヒリと一種の居心地の悪ささえ敢えて見せる表現が今なんだなあと感じていた。
関心はあって、これは自分に合うかなどうかなといくつか観た。この感覚…!とぴたっとくることはあまりなくて。ようやく見つけたかも…と思えたのが「僕の好きな女の子」だった。
半分と半分、自分の中にもある感覚。
彼の心情はわかりすぎるほどにわかる。彼女の動機もうっすらわかる。一人二役でまさにそれをしているのかもしれない。
どちらかに比重を傾けての共感ではなかったことが自分でも意外で、うわ直視したくないものを見たかもという戸惑いと、ここに同じような人がいた…という少しの嬉しさ。
お互いに相手がいない前提でも。好きでも好きと絶対に言わない。見せない想いを持って、過ごす時間の苦しさと大切さは簡単に片付けられない。
彼の行き場のない手のひらに、ああ触れないようにしているなあとわかって。
写真を撮る女の子。個展に、ひとりで行くほどの関心が彼の中で確実にあるのに。手土産まで用意して持っていくのに。
依存でもなくて、それぞれ個と個でいて。ある種お互いがいなくても大丈夫だけど、出会った今は、一緒にいたい。そういうことは、ただただあるなぁと思った。
ポスター写真に惹かれて映画を観たところもあって、あの写真は特別に好き。
そしてあのシーンが好きだ。りんごジュースを飲みたくなる。
彼(加藤)はドラマの脚本を書いている。
制作側と相容れないことに悩む彼に、分かり合えないんだよ見えてるものが違うんだもんと話す“3Dメガネ”のシーンは真っ直ぐに胸に刺さって、発見だった。
わかることもあるけど、わからないことも勿論あって、
泣いた女の子と、睨むような目だけはわからない…と立ち尽くした。映画の中の彼そのままに。
劇中、歌われる「友達じゃがまんできない」という歌がいい。作詞・作曲は前野健太さん。
この歌が彼の心に響いている時点で、彼の心情は明らかなのにと第三者視点で見れば言えるけれど、そう容易くない。
神戸出身の渡辺大知さんが、芸人さんの児玉智洋さん(サルゴリラ)とのシーンなどで、どんどん関西弁が行き交っているのにつられずに、言葉のイントネーションを保っているのを見て、がっがんばれ…!と応援したくなった。
渡辺えりさんの出演もとてもうれしくて、ストーリーとしても、彼女の存在と視点は大きい。
このお話は吉祥寺が舞台になっていて、井の頭公園はばんばん出てくる。
それも嬉しくて、「愛していると言ってくれ」も「いとしのニーナ」も「僕の好きな女の子」も、この場所が持つ空気が、この場所に人が抱く理想の色がとても好きだなと思う。
そして同時に、番組の「タイプライターズ」でだったか、又吉直樹さんが井の頭公園の後ろに佇む物件に住むのが夢だけど叶えたくない気もする…と話していたことを思い出す。
監督・脚本は玉田真也さん。
映画を見終えてから、パンフレットを当たり前のように欲しくなり、売り場に行ったら「元々お作りがないんです」と。
ポスターデザインも写真も、スチール写真もすごく良かったから、パンフレット…欲しかったなと思いながら、元々クラウドファウンディングで実現したこの作品。企画があって、撮影から公開に辿り着いたことが貴重だと噛み締めた。
…噛み締めていたら、書きながら何気なく検索をかけた公式サイトで、クラウドファウンディングのページがまだあることに気がついた。
でも締め切っているでしょう?と見ていると、“残り日数 2日”の文字。
しかも、特典に「プレスシート」と書かれていて、これは…!と読み進めると、映画の本編DVDと劇中の「友達じゃがまんできない」の音源まで付く。奇跡的に支援可能な金額で、まだ残りがあったのを確認した私は、すかさず参加。
初めてのクラウドファウンディング支援になった。12月に届くプレゼントを、楽しみにしたい。
恋が実らなければ、その人との人間関係は終わり…?
問いが映画を見終えた後の心に残る。
そんなことないと言いたいのは、彼に寄り添う気持ちからなのか、彼女の都合に合わせた気持ちからなのかは、わからない。わからないままにしたい。
“思い通りにならない君だけど、君と言う存在が
僕の期待を裏切ったことは一度もない。”
映画のフライヤーに書かれた言葉。
なんというフレーズを綴るのだろうと立ち尽くす気持ちになった。
期待は独りよがりな感情も混ぜ込んで、でも無関心ではないことの表れでもある。
穏やかな雰囲気に包まれながら、届かない視線にいたたまれなさを覚えて胸が苦しくなる「僕の好きな女の子」大切にしたい映画と出会った。