女々しいけど、憎めない。 関ジャニ∞「マイナス100度の恋」

 

これまでも聴いていたのに突然、曲の良さに気付く瞬間ってあるもので、「マイナス100度の恋」がそうだった。

この曲が収録されているアルバムの曲順が、後半全て冬の曲でまとまっているところが好きで、ズバ抜けて聴き込んでいるのは「冬恋」なのだけれど、バラードと冬の切ない曲が好みな自分にはたまらない要素が「マイナス100度の恋」には盛り沢山なことに気がついた。

 

寒い冬の季節、恋人が去って行ってしまうその後ろ姿を見つめる未練いっぱいな男性の心境を歌う曲。

何度でも言いたい。関ジャニ∞の失恋曲はどうしてこんなにしっくりくるのか。関ジャニ∞は明るさと同居して、“憂い”がしっくりくる不思議な魅力を持っている。

  

曲を聴いていてふと、タイトルになっている“マイナス100度”とは一体何のことを指しているのか、考えたくなった。

歌詞のなかにヒントは二つあると思う。

 

まず、一番の歌詞に

最後に君がそっと置いてった

マイナス100度の辛すぎる思い出

という部分がある。

“そっと置いてった”と表現しているから、それは物で、大きな物ではなく小さな物なのだと分析。

恋人同士にあるもので、思い出が込もるような物…と言うと、指輪だろうなと考えた。

シルバーのリングは寒い時期に部屋に置いていると、そこだけ凍えるように冷たくなる。彼女がそっと置いてった指輪に、温もりがないという意味でも、彼女の冷えきった気持ちが重なっているのだろうな…と感じた。

 

二番の歌詞には

寄りを戻したいと説得を試みるも、

君はそっと時計をのぞきこんだ

とあるから、やはり彼女側には未練がない。

なのでタイトルの「マイナス100度の恋」は、置いていかれた指輪と二人の間に流れる空気のことを指しているのだろうと思っている。

直接的な表現をしないで、比喩のように歌詞がつくられているのが素敵で、なんとなくで馴染んでいたタイトルの意味を考えてからの方が、もっと好きになった。

 

久々に会った君はとても“大人”で

目を見れぬほど綺麗になってた

という詞もすごくいい。

大人という文字が囲われていることから、文字通りの意味というより、彼側から見た皮肉混じりの寂しさが表れた“大人”という言葉のような気がして、自分だけが立ち止まり置いていかれている彼の劣等感も感じ取ることができる。

「目を見れぬほど綺麗に」という表現からは、彼と別れた後の彼女はどんどんと変化して行っていることが分かるし、彼女の性格はサバサバしていて、現状維持でも落ち込むでもなく綺麗になっていくあたり、恋愛にあまり執着しない女性なんだなと感じた。

この曲の歌詞は常に男性視点で、女性の心境が歌詞の間に挟まれたりはしないけど、彼の心境を通して相手のイメージが浮かんで、どんな人なのかが見えてくるのがおもしろい。

 

そして「マイナス100度の恋」は、歌詞だけではなく、メンバーそれぞれの歌声が魅力を活かしていて素晴らしい。歌い方も、歌い上げるというよりも、そっと歌う感じが優しくて、穏やかさがある。 

特に横山裕さんの歌声は、普通の男の子っぽさという魅力があると思っていて、その良さがこの曲で表れていると感じた。

外は雪 思い出さないのかいあの日のこと

というパートを横山さんが一人で歌うのだけど、声の必死さが、曲に出てくる男性の焦りや葛藤といった心境に重なって聴こえて、すごくいい。そこまでの歌詞は綺麗に流れるように進んでいくのだけど、ここで男っぽさが強くなるというか、切羽詰まった男性の気持ちが色濃くなる気がしてハッとする。

7人いる関ジャニ∞の歌声で、低音が得意だったり高音が得意だったりとそれぞれに濃い個性がある。その中で、横山さんの歌声は“普通っぽさ”という味があって、関ジャニ∞が庶民的なイメージや泥くささを持つ曲とマッチするのは、横山さんの声の力が大きいと思っている。全員が歌を上手く歌えるだけでは、聴き惚れることは出来るけれど感情移入が難しくて、親しみを持ちづらいと思うから。「ズッコケ男道」などを聴いていると特にそう感じる。

  

そして、さらにこの曲で注目して聴いてほしい歌声が、丸山隆平さんの歌声。丸山さんの声の良さを聴くなら、「冬恋」と「マイナス100度の恋」のサビ前、最高にいいところでくるソロパートを全力でおすすめしたい。

 

女々しいと笑われそうだけれど

あのままずっと 愛しちゃったままさ

メロディーが静かになり、スナップ音が微かに鳴るなか聴こえてくる、丸山さんのウィスパーボイス。しかも歌詞がこれ。とんでもないな。

“愛しちゃったままさ”という表現が、単純に「今も愛してる」と言うよりも切なくて、弱気に笑う表情が浮かぶようで。

丸山さんの歌い方がまた、前半の“女々しいと笑われそうだけれど あのままずっと”の部分まではトーンを保って歌っているのに対し、“愛しちゃった”のところにきて急に、ふっと引いて声を弱くするのが本当にずるい。高めの声の良さが最大限に発揮されて、物凄い威力になっている。緩急が巧みで、自分の声をよく知っているのだろうな…と思う。

 

曲はアルバム「8EST」のディスク2に収録されていて、ウィンターソング括りの中には「One day in winter」という丸山さん作詞の曲も入っているのでぜひ聴いてみてほしい。

メロディーへの歌詞のはめ込み方が秀悦で、自身の声を把握している特性からもそんな気がするけれど、丸山さんは音程を掴む耳を持っていると思う。絶対音感とも違う、音に音を当てはめる能力。

ツアーメイキングで横山さんと錦戸さんのユニット「バナナジュース」のメロディーに合わせて「せーみばっか とってったころの はなっしー」と丸山さんが口ずさんだのを見た時から、それが確信に変わった。一度聴いたら耳から離れない。しかも語感ぴったり。

 

そういうわけで「マイナス100度の恋」が大好きになった2016年、冬。 

関ジャニ∞には冬の曲や雨の曲が多いのがとても素敵な魅力だと思うので、どんどん増えていってほしい。