音が、ここで、鳴っている
そのことへの感動に、胸がいっぱいになった。
「ディズニー・オン・クラシック 〜まほうの夜の音楽会 2022」
テーマ “Infinity Love 〜輝きの未来へ〜”
2022.09.10 初日 プルミエ公演
メイン演目A「塔の上のラプンツェル」
「おかえりなさい」という言葉を、胸いっぱい抱きしめるステージだった。
20周年を迎えたディズニー・オン・クラシック。
私が初めて訪れたのはいつだったか。
毎年、秋がやってくると、少しおしとやかなお洒落をして会場へと訪れる。
ディズニー音楽の素晴らしさ、目の前で音が発されるオーケストラのエネルギー、指揮をしながらもステージに立つアクターのように伸びやかでときにチャーミングな姿、ヴォーカリストさんたちの表現力豊かな歌声とパフォーマンスに魅了されて、
ここがまほうの夜の音楽会であると、日常からとっておきのひと時に連れていってくれる、ささきフランチェスコさんのナビゲートで過ごす時間は、何にも変えられない、一年のご褒美。
そんな毎年がいつも通りあると思っていた。
だから、開催が危ぶまれた「美女と野獣インコンサート」の後、「ディズニー・オン・クラシック」がどうなってしまうのかと、心配だった。
オーケストラあってのディズニーオンクラシック。編成が変われば音も変わる。演奏していた一人一人は?どうなってしまう?
スクリーンに映るアニメーションもワクワクを掻き立てるものだけど、ボーカリストさんがその場でミュージカルさながらに魅せてくれるお芝居が魅力だったパフォーマンスはどうなる?
来日があって、開催されていた貴重なコンサートであったことを、こんなにも実感するとは思わなかった。
しばし時間がかかるかもしれないと覚悟をして、心に刻んだ「美女と野獣インコンサート」で、すべての演奏が終わったのちに場内に流れたのは、
実写版の美女と野獣から、「時は永遠に(How Does a Moment Last Forever)」
あの時、最後まで席について聴いた「時は永遠に」の歌詞を、歌が問いかけていることを何度も反芻する3年を過ごした。
海外旅行など夢のまた夢と思うしかない時期でも、音はきっと止まないと思えたのは、あの時受け取ったものがしっかりと胸の中に残り続けたからだった。
どうなるのだろうと待つ時間の中、届いた知らせは日本人ヴォーカリストでの「ディズニー・オン・クラシック」開催。
動いている!と湧き立つ心があった。どうしたら出来るか、どんな形で出来るか。
日本にいるディズニー・オン・クラシックのチームが、動き出そうとしている。
国際フォーラムで観た新境地の「ディズニー・オン・クラシック」に、これも楽しい!!と新たな発見をした感覚を覚えている。
2020年以降も、動き出した音楽は止まることなく、定期的な公演の開催が実現していった。
そして、2022年。
来日キャストでの公演が発表された。
本当に?夢じゃない?何度も思うくらい、念願だった。
そうして今回、秋の“まほうの夜の音楽会”が海外キャスト再開となった時。
日本キャストの歌声、パフォーマンス、日本語詞の魅力が伝わる演出たちは?と思うファンの期待に応えるかのように、
2023年 春公演で日本キャストの公演が決定した。
英語、日本語、どちらの表現の楽しさも両方味わえる、美味しさの増したディズニー・オン・クラシック。
ポストに届いた、招待状とも言える秋の音楽会のハガキに、本当なんだと実感が少しずつ湧いた。
指揮はリチャード・カーシーさん。
8名のヴォーカリストで、5名が出演経験のあるキャストで再来日という嬉しさ。そして3名が初出演。
プロデューサーのトニー・クレメンツさんもいよいよ来日が再び叶う。
いつ行こうと考えて、“プルミエ コンサート”と呼ばれる、初日のコンサートに行こうと決めた。
チケットを取れる気もしなくて、焦りすぎたあまり、進んだのに戻るボタンをミスタッチで仕切り直しになったりしながら、どうにか取れたチケット。
あとはもう、当日までの体調管理にひたすら努めた。
やって来たその日。
開場時間に合わせて行くと、まもなく開くところ。
ピシッと黒のスーツを着たスタッフさんたちが並ぶ様子は、初日の空気感をさらに増していて、時間きっかりにおじぎをして始まった入場は壮観だった。
場内で聞こえてきた、ささきフランチェスコさんのアナウンスに「ディズニー・オン・クラシック」に来ていると実感した。
今回は、1階後方の座席。段差がしっかりある分、ステージへの見晴らしが良かった。
プルミエ公演で配られた記念品は、今年のデザインとラプンツェル&ノートルダムのモチーフがプリントされた巾着。旅先などで使えそうな大きさ。
あっという間に開演時間がやってくる。
調べつつすべてを知ろうとしなかったので、曲目を把握していなかったのがサプライズになった。
幕開けは、東京ディズニーランドで1995年〜2001年まで夜に行われていたパレード「ディズニー・ファンテイリュージョン!」から、
“フェアリー・ガーデン”に合わせて、ディズニー・オン・クラシックが始まった1年目から、20年を振り返る映像がスクリーンに映される。
知らなかった、アリエルの声のジョディ・ベンソンさんや、ベルの声のペイジ・オハラさんがいらしていた公演。
ブラット・ケリーさんの指揮の姿に、観てきたステージを思い返したり、ささきフランチェスコさんの姿を見つけて嬉しくなったり。
小さかった子供の頃、親にだっこされながら見ていた記憶のある、ファンテイリュージョン!のメロディーに合わせて振り返るそのアルバムに、目が潤まないはずがない。
胸高鳴るその音を奏でているのは、THE ORCHESTRA JAPAN奏者のみなさん。
ファンテイリュージョン!のメロディーはなぜこんなにも、オーケストラの演奏でいきいきと色鮮やかになるのか。
音がキラキラしていく。人が鳴らしている、技術の凄さをまざまざと感じた。
ウィンドチャイムが鳴ってる時だけでなく、もちろんそれによるキラキラもありつつ、様々な楽器が音符を磨いて光らせるみたいに、輝き、弾けていた。
“20th セレブレーション・ルーレット”という企画が今回はあり、
プロデューサーズ・チョイスとパーク・セレクションのそれぞれで、ささきフランチェスコさんが差し出す赤い大きなポチッとなボタンを、責任重大でSo nervousになっている指揮のリチャード・カーシーさんが押す。
どの曲も、聴きたい!と思わせるものばかりで、そのタイトルが発表になる度に声にならない声で客席が華やぐ。
プロデューサーズ・チョイスは、
ティンカー・ベルから「フライ・トゥ・ユア・ハート」
ライオン・キング2 シンバズ・プライドから「愛の導き」
ハイスクール・ミュージカルから「みんなスター!」
この3択。
「フライ・トゥ・ユア・ハート」にわあっとなる気持ちがありつつ、ハイスクール・ミュージカルの写真が写った瞬間にこれ!これがいいです!!と言いたいくらいだった。
パーク・セレクションは、
東京ディズニーランド キャッスルプロジェクション「ワンス・アポン・ア・タイム」(エディット・バージョン)
東京ディズニーシー「ファンタズミック!」から“イマジネーション”
東京ディズニーシー 「レジェンド・オブ・ミシカ」から“レジェンド・オブ・ミシカ第6章フィール・ザ・ラブ”
東京ディズニーシー「ミステリアス・マスカレード」(エディット・バージョン)
この4択。
会場の熱でいうと、ミシカの湧き具合はすごかった。ミスマスもすごかった。
私はとても「ファンタズミック!」の“イマジネーション”ソングが聴きたいと思った。
そうして、ルーレットがスタートしてトリッキーな動きの後に決まったのは、
「みんなスター!」と「イマジネーション」
瞬間ガッツポーズで立ち上がらなかった自分を褒めてあげたい。
ハイスクール・ミュージカルを聴ける日が来ようとは、想像しなかった。しかも生演奏、英語ヴォーカルで。
マーチングバンドのあのリズムが鳴り響き、2人ずつ出てきてのダンスパートも有りで、しかもサビのダンスは本家そのまま。腕を組むポーズもそのまま。
ディズニーチャンネルをずっとつけて、テレビの前でひとり見つめていたハイスクール・ミュージカルの世界を、今こんなにも沢山の人と盛り上がれている嬉しさ。
手拍子も自然と、クラシックに合わせた形とは別の、ノリノリな感じになっていく。
シャイな気質と、脚の上に荷物とがあって、立ち上がってもOK…のアナウンスがあったもののそこに到達できず、もうワンコーラスでサビがあったら出来たかもと思いつつ。
これはこれで、この2年で馴染んだ静かな観賞方法でもあるなあと感じたりした。
ファンタズミック!から「イマジネーション」は、どこまで泣かせるつもりですかと言いたいほど素晴らしかった。
年パスを持って、ひとり通っていた頃のディズニーシーの空気が全部ここにある。
ぎりぎりまでショーを観ていたいと、エントランスの近くからイマジネーションソングだけを聴いて帰ることもあった。
以前に演奏した時とも違う、アレンジが今回の特別バージョンになっていて、構成から組み立て直しているんだと感動した。
「パート・オブ・ユアワールド」に、いつかあの世界へと胸焦がす憧れへの共感で、今でも心が震える。
「コンパス・オブ・ユアハート」には、父に連れ出してもらったディズニーシーで毎回乗っていた記憶が蘇った。
船で旅から帰るといつも、今日この時から何か新しい出会いが起こると期待できる自分がいた。あの頃は“友達”という言葉に親しみを持てなかったけど、今はその意味がわかる。
「スピーチレス」をあらためてこの場で聴いて、去年から個人的なことで強く意思表示をしなくてはならなかった時に「スピーチレス」を聴いて気持ちを奮い立たせていたことを思い返した。
怒らなくては伝わらないとはどういうことだろうと理解に苦しみながら、それでも意思を訴えかけ続けて、出口は今年9月まさにタイムリーに見つかった。
メリーポピンズからのメドレーは、親子で聴くのにぴったりだった。
家にビデオがあったメリーポピンズ。親が子供の頃に見ていた作品。
いつの間に“スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス”を唱えられるようになったのか、「2ペンスを鳩に」の風情を感じられるようになったのか。
すっかりと世界に浸ることのできる時間だった。再度盛り上がって奏者さんも並んでのステップダンスが楽しくて、青木さんやヴォーカリストさんの並びに心躍った。
こんなにも聴きたい曲が目白押しで、曲ごとに思い出があることのしあわせを噛みしめた。
幕間へ入り、第2部。ステージにはランタンのモニュメントが優しく灯る。
Aのメイン演目は「塔の上のラプンツェル」
Bのメイン演目は「ノートルダムの鐘」
今回は2つのパターンがある。選んだのはラプンツェル。
ささきフランチェスコさんの語りが、ラプンツェルの世界への扉を開く。
アニメーションの始めに、“ユージーン・フィッツハーバート”がこれは彼女の物語なんだと紹介する。背を向けていたところから、くるりとこちらを向くだけで誰なのかが分かるゴーテル。
ステージに登場した彼女を目で追ってから、はけて行くフリン。
ジャケットの襟元に手を添えて、ちょっと肩を上げ首を傾げる仕草がチャーミングだった。
「マザーノーズベスト」のコミカルさとダークさは何度聴いてもすごい。
歌いきった後のトリシアさんが演じるゴーテルが、“拍手をもっとちょうだい”と煽る手と表情が最高だった。
オーケストラまでダンダンと足を踏み鳴らして拍手に参加。満足げに行くゴーテル。ぽつんと取り残されるラプンツェル。
いつもなら、もうちょっと近づいたかもしれないシーンや、あえて再現をしない演出にしたシーンについても思いを馳せる。
「Best Day Ever!!!!!!」のラプンツェルを見られたのにはグッときた。あの場の自分の心境そのもの。
できれば、あの起伏の激しいラプンツェルを見守るフリンが好きなので、君は自分と戦っているんだね…的な台詞のところまでを聞きたかったのは贅沢な内心。
映像になるところと、静止画の工夫。ライティング。
ランタンのシーンは映像が選択されたところが流石だと感じた。ランタンを眺めつつ、頻繁に隣を向いてラプンツェルばかりを見つめているユージーンが可愛かった。
この状況でツアーを万全に続けるための努力で、それでいても見応えには十分さを感じられる演出が本当に素晴らしかった。
フリン・ライダーの醍醐味、色男な顔もしっかりある。ラプンツェル無反応。
前髪なであげの仕草を、癖のように何度もしていたのもよかった。
さらに、ダンスシーンの臨場感。バイオリンの活躍。
コンマス 青木さんのソロパートの凄まじさに聴き入るほかなかった。こんなに躍動感たっぷりに、音が跳ねるんだと感動して、バイオリンの音色の魅力をまざまざと耳に感じた。
チェロの音色の重要さに聴き入ったり、バイオリンやビオラの層の美しさに引き込まれていったりしながら、
弦楽器の弓を動かす“ボウイング”が生み出す、音の抑揚が今回特に目に見える形で理解できて楽しかった。
盛り上がっていくダンスの輪に入っていくように、客席の手拍子もいきいきと軽やかで、
フリンが横並びになったダンスの中、腕を引っ張り組まれて、巻き込まれていく演出が素晴らしかった。どんどん早くなる手拍子。オーケストラのみなさんがエスコートしてくれる。
アコーディオンの音が途中に聴こえた気がしたのだけど、弾いていたのだろうか。ハープの音は、ラプンツェルの髪の魔法を呼び起こす歌で活躍していた。劇伴を生演奏のオーケストラで聴くと、この音は何を使って出しているの?が解けるから興味深い。
高揚感からの、ジャンっと二人がたどり着いて手を取り合うタイミングの完璧さには、すかさず拍手が湧いた。
ラストは苦しいけれど、花の幻想的な光を照明で見事に表現していて素晴らしかった。
ユージーン!からの、ブルネットの方が好きだって。のシーンを目の前に見るときめき。
ハグの後に暗転で、完璧なタイミングでスクリーンに視線が移る演出になっていて、ハグしながら眉にシワが寄るユージーンの切実な表情に注目できた。
リチャード・カーシーさんが指揮をする姿は、いきいきと音符を導くようで、ミッキーみたいだ…とフィルハーマジックを思い浮かべていた。
2022年 秋のヴォーカリストは、
アーロン・ヤング(Aaron Young)さん
メリーポピンズから「凧をあげよう」を歌う声と姿。
ハーモニーがあまりに素晴らしくて、どの旋律をどなたが歌っているのかを考えるまでにたどり着かないほど、ひとつになったメロディーを奏でていてすごい。
アルマンド・ロンコーニ(Armando Ronconi)さん
2019年の公演を観ていたので、会場のボルテージをぐわっと持ち上げたアルマンドさんの演じ歌うジーニーの「フレンドライクミー」はしっかり覚えている。
今回はフリン・ライダーでありユージーン・フィッツハーバート。
ディロン・ヒープ(Dillon Heape)さん
ラプンツェルでの「誰にでも夢がある」の片手にフックがついた彼を演じる姿が印象的で、
衛兵に見つかりそうなラプンツェルとフリンの肩を抱いて、背中を向けて隠す動きも素敵だった。
パトリック・ブレイディ(Patrick Brady)さん
「ノートルダムの鐘」のB公演では、ガジモド役を演じた。
ステージに立っている時の歌声、舞台袖にいながらにしてコーラスを重ねる声。
オーケストラと共に左側の席に座って、マイクのみ口元に近づけて歌う声。
それぞれに環境が違っていて、特に座りながらの時と立ってでは、声の張り方と力を入れる箇所が変わってくるのではと思う。
あまりに伸びやかに、かろやかに歌って魅せるので、気づく間もないけれど、ヴォーカリストさんたちのパフォーマンスに注ぐ努力はすごい。
ケイティ・トラビス(Katie Travis)さん
アリエルとして「パートオブユアワールド」
メリーポピンズとして「お砂糖ひとさじで」
ラプンツェルで、危機的状況のフリンを助けるシーンの時に、扉を全然開けないおじいちゃんの役として声を当てていた様子がステージ左側に見えて、ケイティさんが担当なのね!と驚いた。
ケイリー・ルビナッチオ(Kaylie Rubinaccio)さん
ラプンツェル役。第1幕でヴォーカリストとして出ている時と、第2幕になってラプンツェルとして出てきた時の印象がガラリと変わっていたことが後ろの席からでも感じられた。
トリシア・タンガイ(Tricia Tanguy)さん
振り向いた瞬間に、ゴーテルの風格。トリシアさんも第1幕での雰囲気とは全く別人だった。
“ラプンツェル ノーズ ベスト!”と声を荒げる歌のシーンでの圧倒が凄くて、ラプンツェルへの皮肉がたっぷりでまさしくゴーテル。
モネ・サーベル(Monet Sabel)さん
ハイスクール・ミュージカル「みんなスター!」での弾け具合が最高。
「コンパスオブユアハート」で、シンドバッド役のアルマンドさんを中央に、ケイティさんと2人でコーラスをする人魚の歌声がアトラクションまんまで、
アトラクションのリニューアル後に優しく柔らかくなった人魚の声色だと嬉しくなった。
ヴォーカリストさんそれぞれの歌声、表現、仕草のチャーミングさに心を掴まれて、その表情!動き!好き!とひたすら思った。
コンサートツアーのために、飛行機に乗り、はるばる日本に。
距離だけではないこの状況のなか、こうしてまた再会できたことの意味を思うほど、胸に込み上げずにはいられない。
心の中に星を置いてもらったみたいな感覚になった。また会えて良かった。来てくれてありがとう。最高に楽しかったですと思いを届けたい。
オーケストラの音が、奏でる人が楽器にのせて生み出す情景が、楽しさも繊細さも迫力もステージから客席の後方までわあっと届ける勢いに満ちて、最高にかっこよかった。
ステージの隅々までフォーカスするのが大好きで、あの楽器が!とか、この音はどの楽器?と目で見られるのが楽しい。
今回は特に左側に注目できたから、オーケストラの一員にギターが!とテンションが上がって、どこで鳴るかを集中して見ていた。
管楽器が鳴った時の迫力に毎回わっと細胞が沸き立つ。
ティンパニの音も好き。パーカッションの奏者さんが沢山の動きをされているのも、ひとつひとつの大事な音のピースを奏でているとわかるから、音符のひとつたりとも聴き落としたくない。
最後に歌う、ヴォーカリストにとっては唯一の日本語歌詞になる「星に願いを」
コンサートマスター 青木高志さんのソロとリチャードさんのピアノという、夢のようなセッション。
演者さんたちが横並びになって、ライトを振るなか、目線の先がささきフランチェスコさんポジションだったので嬉しかった。
カーテンコールになった瞬間、スタンディングオベーションに。
公演が終わったとわかってからも、拍手は鳴り止まなかった。
なにかを期待した拍手というより、せずにはいられない拍手だった。目の前にいる奏者さんひとりひとりに贈りたい、楽しかった、ありがとうの気持ちを表す唯一の手段。
ほとんどの奏者さんが拍手のなかステージを後にして、手入れが必要で少し時間の必要なチェロの奏者さんがステージを後にするまで拍手は続きそうな勢いだった。
オーケストラの人たちも、暗がりのステージのなかグータッチや腕タッチをしている様子が見えてぐっときた。
オーケストラの音に、ステージからぶわっと音で包まれるこの瞬間を待ち侘びてきた。
ディズニー作品への思い入れに、カンパニーへの愛が重なった今日の日を、私はずっと覚えていると思う。
当たり前とは思えない今日の日の再会。
ここへ来ることの葛藤や、いつなら可能かという難しさのなか、それでも日本へ来るということを諦めず、忘れずにいてくれたことがうれしかった。ここで歌いたいと思ってくれたことがうれしかった。
オーケストラの人数が、2020年に国際フォーラムで観た時より編成を増やしているように見えたのもうれしかった。
管楽器やパーカッションの前にアクリル板があるので、奏者さんの動きを見つめるのには少し集中が必要だったけれど、最後にわっと自身の演奏していた楽器を持ち上げてくれたことで、誰がどの楽器を弾いて吹いて叩いていたかが分かって、ありがとうと思った。
大きく重たいチェロもすこし持ち上げていた。
距離と不安を越えて会いに来てくれたみなさんに、
どうかこの幕開けの喜びと楽しんでいるという気持ちが伝わってほしいと、客席からありったけの思いで拍手を贈った。
20周年、大切な月日と思い出溢れるステージ。
今回の約3ヶ月に渡って届けてくれた、魔法の夜の音楽会。
出発を心で見送り、どうかステージが毎回無事に幕開けるようにと願って、ここまでたどり着いたみなさんに、おかえりなさいの花束を贈りたい。
ありったけの思いを込めて、ここに私なりのファンレターを。
ティンカーベルも妬いちゃうほどのキラキラ輝く音符を降らせてくれた、みなさんへ。