向けた眼差し。通じる心と通じぬ心「MIU404 第8話」

 

見つめる眼差し。言葉以上に思いが溢れる。

MIU404 第8話〈君の笑顔〉

見終えた後、言葉を無くした。蓋をして閉じてしまいたかった。どうかそんなことは起きなかったと、すべてがもしもの話だと、ひっくり返してほしかった。

 

桔梗さんの家に仕掛けられた盗聴器。
自分がいた場で、怪しい動きに気づくことができずに、盗聴器を仕掛けられてしまった。

思う以上に落ち込んでいる志摩。無口。湿っぽい。

ボーダーコリーはもともと耳が垂れている子が多いけど、その垂れ耳がさらにシュンとしてしまっているみたいに見えた。

 

メロンパン号の中、テンションが下がりっぱなしの志摩に伊吹が話しかける。

どう浮上させようとしても、元はと言えば…こうだったからああなって…と責任は俺に帰結するんだと言う志摩。思考回路が完全にマイナスルートのスパイラル。

「だったらこの世の全部お前のせいでいいよ」「夏が暑いのも、虫がメロンパン号にたかるのも全部全部、志摩のせいだ!」と極論にボールをぶん投げた伊吹のおかげで、なんでだよ!と、ようやく反論した。

とことんまで落ち込むと、世界の全てが自分のせいです理論も、そんな気がしてきて跳ね返さなくなる。志摩が正気を取り戻せてよかった。

 

志摩に、と言うより全体的に当たりの強い、一課の刑事・刈谷

香坂のことは誤解で…と説明しようとする伊吹を止めて「いいよ。話すな、いいよ」と取り成す声が柔らかかった。

 


馴染みのサントラと共に、緑色のメロンパン号がやって来たのは「UDIラボ」

メロンパンにおびき寄せられたムーミン。いやちがう坂本さん。可愛すぎた。多分、ストロベリーメロンパンを選ぶのかと思っていたけど、ピスタチオが食べたかったらしい。

車の窓から志摩がメロンパンは無いんですと説明してるのに、めげない坂本さんの図が微笑ましくて。心なしか志摩の目尻も下がって、顔がほころんでいるように見える。

 

走り去ったメロンパンカーを見つめる坂本さんに、電話のコール音。まさか!と思ったら電話口から中堂さんの声!!

漏れ聞こえる声なのに、イラついているのが凄い威圧感でわかる。

字幕で確認したら、「どこだ!」「クソなのか?!」と表記されていた。そしてクソ一回につき1,000円の罰金が定まっているらしい。案外良心的な価格をつける坂本さん。

「クソが!」と言ったように最初は聞こえたけど、一応尋ねていたらしい。

 

中堂さん!また坂本さん辞めちゃうから!と懐かしい嬉しさやら何やらで、いやー…贅沢な夢の共演を見た…と噛み締めていたら、その後のシーンでは

コインの音と共に、神倉所長まで…!!

眼鏡も放送当時と同じものを掛けていて、完全に神倉所長だった。中堂系さんの悪口を所長から聞く志摩と伊吹の図ができるなんて誰が想像しただろうか。

“感じが悪い、口が悪い、態度が悪い”の三拍子が揃った中堂さんと、刈谷さんの言い合い。見たかった。見なくてもありありと思い浮かぶけれど。

「いや中堂はね、連続殺人と聞くと並々ならぬ思い入れを持ってしまうんですよ」

「アンナチュラル」と「MIU404」の世界が対等にそこにあることを感じたひとときに、心躍って、大切なことを聞き逃していた。

2度目に見て、ようやく気づけた。今回、違和感を見つけたのは三澄ミコトではなくて、中堂さんだったこと。事件の全貌がわかる前に、ここまでしっかりと明言されていたことを。

 

 

今回のお昼ごはんは、九重の調理で“福岡うどん”
「コシがねえんだよな」とぶつぶつ言う陣馬さんに、「コシがないんじゃなくてもちもちしてるんです。それがわからんなら食わんでくれん」と喰ってかかる九重。

気持ちはわかる。うどんはもちもちでも柔らかいのでも美味しい。卵とじうどんとかなら、むしろやわやわのがいい。


伊吹の部屋が初めて登場した第8話。

普段履いているスニーカーのお洒落さでイメージした通りで、自分の好きなものをわかっている人の部屋という感じがした。

サングラス、洋服、スニーカー。CD、DVDも大切そうに並んでいる。黒いスーツケースもあるってことは、旅も好きなのかな。

フローリングの部屋ではなく、和部屋で押入れの戸を外して収納にしている感じもいい。

伊吹という人のパーソナリティを見せる、美術さんの本気が凝縮されていた。

 

今回の伊吹は、なんだかすごく少年だった。

部屋にいる時は、特にぐっと若く見えて、あれ?若返った?部屋着だから?なんて思っていたけど、多分違う。

部屋ではない場所にいる時も、ガマさんの前にいる時も。伊吹の周りの時間だけが昔に戻ったみたいだった。

 

「俺と住む?」

「3人で」ハムちゃんを見つめた時の伊吹の瞳と、ガマさんを見つめている時の伊吹の瞳は、同じだったと思う。

そりゃあ多少のきゃっきゃうふふは気持ちの底にあっただろうけど、でもなんだろう。自分に出来る直接的な援助をためらったりはしない、行動で示す伊吹の本心だけがそこにあった。

 

気にかけて、寄り添って、向けられる“眼差し”が印象に残る。

誰かが誰かを見つめている様子なんて、普段まじまじと見ることはないけど、第三者の視点で見ると、こんなにも言葉以上の思いが溢れているとわかる。

でもきっと、向けられている方は大抵気づかない。その眼差しの切実さや優しさに。気づかないのか、見ないふりをするか。目を見られたらすべて気づかれるから、背けるしかないこともある。

隣にいる伊吹を見つめる志摩の眼差しは優しかった。


“許さない”

そう心が決めてしまった時、その閉じた箱はもう一度開けないのか。鍵を飲み込んで、開けることを放棄した相手に、どう寄り添うことができたのか。

 

途中からゾワゾワとする感覚にはうっすら気づきつつあったけど、おしぼりを取り出す時のガマさんの動き、表情は、認知症が事実であるように思えた。

見たくなかった。本当に。

ただひたすら狂気に振り切った描かれ方ではなく、完全に心が壊される瞬間を目の当たりにした上で、刑事であったガマさんが、伊吹を刑事の道に導いたガマさんが。

自分が何をしているのかも、それから警察がどう動き、自分がどう裁かれるのかも理解していて。

 

「俺は、どこで止められた?」

「いつなら ガマさん止められた?」

なんでこんなことを、じゃない。どう気持ちが動いていたかなんて、伊吹には伝わりすぎるほど伝わっている。

だからガマさんに言う言葉が、なんで、どうしてじゃなくて。

「俺は、どこで止められた?」

伊吹の大切な、大切な柱が崩れる。あまりにつらい。

 

「どうすればよかった?」

懸命に寄り添って、相手のつらさを誰より敏感に察知してきた伊吹が、その時できる最善を尽くさなかったはずがない。

ガマさんを慕い、家を訪ねて、話をする。

刑事として働く伊吹の話を聞いて、その成長を見ている時間が、ガマさんにとって大切でなかったわけではない。

ただ、その事と、この事は、別だっただけ。

悲しいことに。

 

許すことの意味なんて、刑事になって、奥さんのそばにいて。

頭にも心にも染みついていたはずだけど、あの時すべて壊れた。「絶対に許さない」その気持ちの怪物のような黒く広く飲み込む力に、どうなるかをわかった上でガマさんは飲まれにいった。

 

心が壊れるほどの絶望。

伊吹の隣に志摩がいる。負った傷も穴も伊吹の中にある。それは志摩も同じ。それぞれの部屋に戻れば、自分だけの世界がそこにはある。

だけど、休みの日は会わないと言った志摩が、伊吹の部屋に足を踏み入れたのは、あの時にもう伊吹が向き合うことになる事実を勘づいていたからではないか。

志摩も来た部屋、に伊吹は帰る。

寄り添う存在が何もかも救ってくれる訳ではないとわかっているけど、ただ一人、悲しみに飲まれるよりはずっと。

 


真っ暗な空を見上げたまま動かなくなった伊吹に「相棒」と柄にもなく呼んだ志摩の声。

伏せた顔。頬だけが見える角度で、つーっと伝う涙。人の心の痛みを、視覚で見た気がした。

 

のらりくらり、フワフワしてるように見えて、実直に刑事として走っている伊吹をここまで見つめてきた。

彼にとっての拠り所が崩れるのを見るのはつらかった。

せめて、心が壊れるほどの絶望のそばで志摩が立っていてくれてよかった。「全警察官と 伊吹のために」と抑えたやるせなさを伝えてくれる人がいて。

頼まれた伝言を、志摩は言葉通りに伝えるだろうか。ニュアンスを変えることはしないと思うけど、伊吹の耳にちゃんと届く時を待って、その言葉を伝えるのだろうと思う。