視聴者として、志摩や伊吹よりも、久住の顔も動向も見てきているはずなのに、それでも得体の知れない存在を見ているようで。
MIU404 第10話〈Not found〉
わかり合う気が相手に毛頭ないという意味で、会話が成立しない存在を前にした時の、恐怖。
第9話ラストの
「おまわりワンワンをー BAN!!」
エトリを、ではなく“おまわり”をと言ったよなと、ふと振り返って怖くなった先週の終わり。
それが今回の冒頭でも、リプレイするかのように流れた。
やはり運転席にいた警察官 2名が負傷していて、内1名が重傷。炎を避けようとした志摩の腕も火傷を負っていた。
エトリはついでかのような爆破に、この悪意は何なんだと、思考を働かせることすら拒みたくなる。
エトリの本名は「鴻上悟(こうがみさとる)」
久住と出会って、面白い奴だと利用していたつもりが、どんどん広がる久住のクモの巣に捕らえられて、あっけなく喰われてしまった。
志摩の勘がついに発動して、「それ、志摩の勘?」と嬉しそうな伊吹が可愛かった。
勘に頼るなと口では言いつつ、伊吹の勘には信憑性があることを認めていた志摩が、影響を受けている。
シェアオフィスへとやって来て、久住を探す場面では、もはや麻薬犬としての特技まで発揮する伊吹。
でも香りで分かると聞くから、伊吹の行動も不思議ではない。
見た目がポップで、何かわからないうちに手が出せて。そんな撒き餌からズルズルと引きずり込まれる恐ろしさ。知識を持ってほしいという願いが伝わる、伊吹の言葉だった。
会う人、会う人、懐にすっと入り、俺もそうやったと共感を上手いように使う久住の怖さ。
好奇心があって、吸収力のある菅田将暉さんに、この役を演じさせる凄さ。別の存在、これは役だと理解していても、見事な化学反応にゾッとせずにはいられない。
赤色と青色、それぞれはとても美しい色を魅せるのに、一つの試験管に合わせて入れた途端、毒々しい紫色が表れるような感覚。
言いようのない気味の悪さを感じている伊吹の表情。言葉にはできなくても、見ていればその感覚はわかる。
志摩も同じように感じていて、“ムフィストフェレス”のようだと例えた。それを「メケメケフェレット」に変換してしまう伊吹。どこまでも直感型。
わざわざ久住本人にまで言ってしまって、素直に検索する久住。そこでコミカルな感じ出して来られると!憎みきれないから!と、気持ちがとっ散らかった。
羽野麦をようやく助けられたのに。何もかもをぶち壊すVチューバーRECの暴走。
一度出た情報は収集がつかない。そのやるせなさに、見ていて悔しさばかりが募った。
人は見たいように物事を見る。志摩の「点と点を強引に結びつけているだけだ」という言葉が自分自身にも重くのしかかる。
伝えようとしていないことを、創作してはいないだろうか。お気に入りの点と点があった時、これを線にしようと、無理なルートで結び付けてはいないだろうか。
書くことを選択している以上、これからもずっと問い続けないとならない。
「コウノドリ」などで共演は見ていたけれど、二人がバディとして並んだ時、それぞれ別の漫画連載誌から1つの画面に入ったような、空気感の違いから起こる良いデコボコを感じていた。
第10話を見て、作画が似ていくってこういうことかなあと思った。いつの間にか同じ連載誌になっている。
なっているけど、完全に混ざり合う訳ではなくて、それぞれの色は保ったまま。
機捜で学ぶことの芯を見つけはじめていた、九重が機捜ではなくなった時。
キャリアとしてそこにいる以上、移動や昇進は珍しくないと理解しながら、見ていてシンプルにショックだった。
でも九重がちゃんと戸惑っていて、納得いかないと直談判するほどに機捜への思い入れが生まれていたことが嬉しかった。
陣馬さんと九重の場面が印象に残っていて、当たり前のように受け入れていたけど、九重、陣馬さんと飲みに行ってるじゃん…!と後になって気づく。
氷を陣馬さんに足してもらって、きっつい焼酎をカァーっと飲む九重。
「陣馬さんまでそんなこと言うんですか」といじける九重に、
「その分、お前は俺らと違うことが出来る。」
と話す。キャリアは短所ではない、活かせば長所に出来るんだと伝えるような陣馬さんの言葉が、勤続35年の重みを持って響いた。
そしてきっと大事なのは、九重が今感じている現場での感覚を手放さず忘れないこと。
上に上に行く間に、何を目指していたのかを忘れて見失っていく人を、陣馬さんはこれまで見てきただろうなと思った。
「俺って、うんざりするほど、恵まれてますよね」
そのことを自覚している。価値と、当たり前ではないことがわかっている。それが大きい。
九重が自覚していて、そう言葉にしたことにある種驚いて、そこに気づいていたら機捜を離れたとしても、陣馬さんや桔梗さん、志摩、伊吹のことを通り過ぎたものにはしないはずと思えた。
404ではなく、アクセスが集中した時は503エラーが出るはずだった画面。
現場で起こる事件と、さらにサイバー空間で起こるトラブルが絡んでくる構図に、より一層引っ張り込まれていく。
好き放題。言いたい放題。
憶測推測が断定にすり替わり、まるで事実かのように広まる。それを見た人はそのままに飲み込み、さらにフィルターは強まっていく。
ここは私のスペース、呟きだから、好きに書いていい、とは思ってはいけないと、その凶暴性を常に自覚していなくてはと肝が冷えた。
頭に浮かんだことを直結で言葉にはしないで、頭の中の話と言うよりは、心の中の話をしたい。心だと思うと、乱雑には言葉を置けなくなる。そんなふうに思った。
桔梗さんが家に帰って来て、職場での「志摩!」ではない「志摩ー?」の声が柔らかくて。
隊長として働く。だけどその前に、1人の人である桔梗さんに暮らしがあって、リラックスする時だってあるに決まっているんだと感じた。
到底分かり合えない他人の暴走した心理。それが可視化できてしまうSNS。
惨い、やるせない感情に飲み込まれそうになって、悲しさというよりも悔しさで涙になる桔梗さん。見ていて言葉が無かった。
「馬鹿なの…?」と溢した声が耳に残る。
「ゆたかの父親まで変えんな」という言葉が、書かれていたことのエグさを表して、目を背けたくなった。
なぜ伝わらない、どうして。相手という存在に想像を働かせて、語らずにいることと話すこととを選択できないのかと泣きたくなる気持ち。
伊吹とゆたかのやり取りも印象深い。
「悪いやつはルールを守んないズルだよ」と、ゆたかが言う。確かにズルい。ズルいと感じてからどう考えていくかが、どっちに行くかの分岐点になる。
ゆたかがお母さんの桔梗さんを家に1人にするのは嫌だと駄々をこねて、伊吹がひらめいて、ハムちゃんもそれに乗ったことで出来た、
初めてかもしれない、桔梗さんと志摩さんが2人で落ち着いて話す時間。
「ほら、志摩だよ」と旦那さんと会わせる桔梗さんが全力でお茶目。ちゃんと正座で向き合う志摩も可愛い。
久住との通話の場面で、後ろに出前太郎が見えた時、出前太郎だ!と発見できたのは、あの特徴的なユニフォームのおかげだった。
リモートでの通話が、嫌と言うほど音を拾うことを熟知したストーリー展開に、ほあー!となった。
自分自身も、日々実感しているからこそ、あるあるとして見ていて共感することができる。ほんっとに、ちょっとした音を拾うから神経を使って仕方ない。
「うせやん」
ぽかんと言う久住が、おかしくないけどおかしくて。
でもそんなに驚いても焦ってもいない感じがまた怖い。
その少し前の場面で、久住が通話を繋いで声を出す前に、口を動かしている動作が妙にリアルだったのも見ていて居心地が悪かった。
何が起きているのか、そんなことを軽々しく出来てしまうのかと見入っていると、
全部が…
ぽかーんとなった、それから、えっっ?!!もしかしてまさかそんな!!と全力ジェットコースターで振り回された。
リアルタイムで見ながら、“#MIU404”をハッシュタグに使って呟く自分にブーメランで、つぶやく手が躊躇いで止まった。
放送後、トレンド1位になっている“#MIU404”の文字が怖かった。その一部は自分なのに。
「手段を選ばない相手と、どう戦えばいいんだろう」
桔梗さんの問いは、立ち尽くすやるせなさと、それでも立ち向かう諦めていない温度を感じる声として届いた。
「正義はめちゃくちゃ弱いのかもしんないな」
「だめじゃん」
強くなくても、めちゃくちゃ弱くても。
何なら、めちゃくちゃ弱いことを自覚している方がめちゃくちゃ強いのではと思う。
明日、最終回の第11話。
手段を選ばない相手に、透明であるかのように姿を掴ませない相手にどう向き合うのか。
サブタイトルが〈 〉で、何も無いことに恐怖を覚えながら、金曜の夜10時を待っている。