ポインターが指し示す、今居る場所「MIU404 第7話」

 

いま自分は、どこにいるのか

MIU404 第7話〈現在地〉

そっと隠れて息を潜め、誰にも見つからない。でも見つからないことで、見過ごされる分岐点があるとしたら。


目線を持って行かれる注目どころがあっちにもこっちにもありすぎて、二度目をすぐに見たくなる。

りょうさん演じる、ジュリ。塚本晋也さん演じる、トランクルームに違法に住んでいる男、倉田。家出少女のスゥを演じるのは、原菜乃華さん。モアを演じるのは、長見玲亜さん。

ジュリと志摩のやり取りで、ハンドルネームは名前として扱えないという会話があったのが、なかなかぐさりときた。どんなに馴染んでも、確かに本名のような意味は持てない。

今回特に、赤ペン瀧川さんこと瀧川英次さんのゲスト出演が嬉しかった。

ランクルームの管理人を演じた、瀧川英次さん。声の良さはもちろん、佇まいの絶妙さと表情筋の細やかさが大好き。

 


指名手配犯の顔写真とメモを、常に持ち歩いている陣馬さん。

でも息子の結婚の顔合わせの場には、持って行かないことを決めて家の引き出しにしまった。

しかし会場へ向かう道中、前の車両に見覚えのある顔を見つける。

指名手配犯の顔を覚え続けている刑事さんの話を、以前にドキュメントで見た。街中で、人が行き交う中でもピンとくるほど頭に刻み続けている犯人の顔。

うどんを作るだけじゃない、陣馬さんの仕事の面でのかっこよさを見た、第7話。

あと、猫の「きんぴら」と相容れないドーベルマンな伊吹が可愛い第7話だった。

 

「なんでここにいるんだろう。いつまでこうしてるんだろう」

自分の中から湧き上がる疑問。

そう思った時、どう動くのか正解なのだろう。


志摩が言った「健さん健さん。あなたとは別の人間です」という言葉が、さり気ないながら心に残った。

それを忘れることがある。どうにもならない域を、感情移入のしすぎで見失う。

相手の立場を想像しない人にはなりたくないけれど、私と、あなたは、別である。という事実をない混ぜにすると、危ういことになる。

 


“048” 大熊の部屋を、ライトで照らして踏み入れる時の志摩の表情。

どんなものがあったとしても動揺しないよう、気持ちを固めたような瞳をしていた。

 

「10年あったら何ができる?」

伊吹が聞いた。

「英語がペラペラに」「プロの料理人」「世界中の刑事ドラマ全部見る」思いつくかぎり挙げてみて、「何でも出来そうだ」と志摩が言った。その声がすごく、すごく優しかった。

「プロの料理人」に対して、「いける」と答えた伊吹の返しが10年の価値を実感させた。

このシーンの、“時間”と“月日”というものへの未知数な可能性と、身動きの取れない虚しさが同時に押し寄せる感情に、ぐううーっとやるせなくなった。

 

「10年間 誰かを恨んだり、腐ったりしないで本当によかった」

そう言った伊吹の姿が、深く強く印象に残る。

それが大きな分岐点になることを伊吹は自覚している。そして今の自分を、伊吹は肯定することが出来ている。

 

「大熊の最大の不幸は、ここから一歩も動かず、誰にも見つからなかったことだ」


伊吹の過ごした10年。志摩の過ごした10年。陣馬さん、九重、桔梗さん、ハムちゃん…

虚偽通報をしていたマラソン部の学生たち。そして、成川岳くんも。

誰にとってもあった10年。

指名手配犯にとっては、恨みつづけた10年。その気持ちさえ誰にも見つからずに。

今いる場所から動けなくなることは誰しもあるはずだけど、一歩も動かず、

その時抱えている“気持ち”が誰にも見つからないことが、こんなにも道を分けてしまうのかと、黙り込むことの恐さを覚えた。

無いほうがいい感情は人に見せない方がいいと考えていたけど、見つからない不幸があるとしたら、自ら閉める扉の重さがいつまでも自分をそこに閉じ込めるのかもしれない。

 

「無茶言うな。完全に閉じちまった人間の手は、掴めねえんだ」

そう言った陣馬さんの言葉が重く残る。

 

 

絶対に逮捕する。見逃しはしないと目を離さなかった陣馬さん。

陣馬さんのラリアット、陣馬さんの体当たり。そして撮影日より前に稽古の日があったという警棒アクションシーン。


犯人を取り押さえて、伊吹の一声とアイコンタクトのもと志摩が陣馬さんに手錠を渡したのは、そのけじめを遂げてもらうためなのだと思うと、4機捜のチームワークが強まっているのを感じた。


顔を合わせてはいない九重も、陣馬さんからの捜査指示を受けてから、すぐさま対応。

陣馬さんと連絡がつかなくなってからも、今いる場所で出来る限りの協力をして。待ちぼうけになっている陣馬さんのご家族にまでフォローの連絡を入れている。

結婚の挨拶のために陣馬さんが着ているスーツが、九重のコーディネートなのも最高。

それを見た家族が、なにを着ても…なんて流れでは無く「イケてる…」と素直に褒めているところもいい。

 

 

ただ居るだけなのに、なんか居る感がすごい、出前太郎の配達員役を演じたのは、King gnu井口理さん。

メロンパンカーに乗って、ついにメロンパンを仕入れだした二人も面白い。

外に居ても車からでも、注文して受け取りが出来るのは、現代ならではだと思った。街中を数多く走る配達員さんたちがいるからこその展開には、テンションが跳ね上がった。

届けに来たのに置いて行かれた太郎。「メロンパンは?!」が哀愁を持って道路に響く。

 

ナウチューバーの特派員RECと待ち合わせをした成川岳にいい予感はしなかったけれど、「僕はやってないんです」の一言にはゾッとした。

目を背け続けているうちに、信じたいように事実を曲げ始める片鱗が見えて、恐かった。今はまだ自分が嘘をついていると自覚しているとしても、段々とそれを本当のことにしてしまおうとする。

そしてそれを肯定してくれる人しか周りにいなくなる。

 

 

「悪い大人もいるけど、ちゃんとした大人もいる」

これは「アンナチュラル」でも一貫して伝えようとしていたことだと感じる。

家には居られない女の子に、帰ることを諭すのではなく、信頼できるサポートセンターや公的機関を教えて、なんかあったら連絡してと自らの連絡先も伝えたジュリ。

諦めないで、頼ること。頼ろうとした先で打ちのめされることもあるかもしれないけど、それでも知識を持って活用することは、なにも躊躇うことじゃない。

 

悪い大人とちゃんとした大人。

前者だけを伝えるのでもなく、後者だけを伝えるのでもなく。前提があって、それでも、ちゃんとした大人はいるんだと知っていて探しつづけることが重要なのだと受け取った。

自分自身も、ちゃんとした大人として頼られる人でありたい。

 


楽しいライブ風景を、テレビ電話で中継する伊吹。「何やってんだこいつら」と言う桔梗さんの声が優しかった。

伊吹に「これから、もっと楽しいことしようぜ」と言われたハムちゃんの表情が…不安を安堵が覆った時の切実な涙で、どうか守られていてと願いたくなる。

伊吹は、相手の抱える一歩向こうの表情に気づきながら、君の傷はここだよね!気づいてるから!なんて手荒に触れることはしなくて、見えていないかのような振りでそっと寄り添う。

志摩に対しては荒療治をした辺り、どの人にどんな向き合いかたが適切なのかを測る精密なメジャーを持っていると思う。

 

 

時間が進むのだから、それ相応に変わっていかなければ。そう考えると、焦りになってじれったくて、現状の自分を許せなくなることがある。

だからできれば、時間を怖がって追い立てられるのではなくて、時間の持つ可能性に期待を抱くゆとりを持っていたい。

それぞれが過ごす時間の中。変わろうとわずかにでも気持ちが動いているときは、せめて隠すことはせずに、わからない時はわからない。助けてほしい時は助けてほしいと、ピンチもチャンスも、人の目のあるなかで経験していきたいと思った。

 

それぞれにある現在地。

ここからどこへ動き、目指していくのか。迷っても、道を探し歩いてみるのか。

自分のポインターは今どこを指しているのだろうと考えた。