ネーションズリーグの後半は、仮眠をとって朝とも夜とも言えない時間に起きて試合を観た。
そこまでするかと自分に驚いた。
家族がテレビでスポーツ試合を観ているのが好きではなかった。
話しをしたいのに、テレビに集中される寂しさもあったのかもしれない。
でもそもそも、テレビ越しに観るスポーツの楽しさが、理解できていなかった。
2024年の夏、
親善試合、オリンピックのバレーボール予選試合からテレビの前で釘付けなのは私の方だった。
試合の時刻をスマホのスケジュールに入れて、そそくさと準備をして観られることもあれば、後ろ髪を引かれながら録画容量だけはしっかりと空けて録った試合を、どんな情報が入るより先に観た。
今このチームのプレーを観られることの貴重さをわかったから、全て録画すると決めていた。
試合のない日に何もしないのは物足りず、「ハイキュー‼︎」を見始めた。
これまで実際の試合を観ながら、解説や感覚によって分かるような分からないような気がしていたバレーボールのポジションごとの働き、そのポジションについている選手の気持ち。
相手を前にした時の心境。試合中の心の動き。
全く同じことはないとしても、「ハイキュー‼︎」を見てから観る試合は、解像度が高くなったようだった。
サーブの意図、ピンチサーバーについて。ますます楽しみ方が身についていく感覚になった。
ずっと楽しい。そして気が抜けない。
正直、オリンピックってこんなにかと思うほど、ヒリヒリとして目が離せなくて面白くて、
25点がひとくくりではなく、1点の重なりなのだと痛感した。ボール1球がこんなに大切で切実なものだと知った。
ひとつひとつのプレーに釘付けになった。
相手チームがコート内で悔しさを顔に出していたり、コートを拳で叩いていたり、タイムアウトで言い合う様子があった後のプレーを見て感じるものがあった。
日本チームの攻撃の時、相手チームの選手同士がクロスするように翻弄されていたり、
レシーブするため腕に当てたボールが、予想外の軌道で遥か彼方に飛ぶのを目で追う様子にぐっときた。
「日本 × イタリア」
これでもかという力でクッションを抱き締め、いつも通りいつも通り…と呟いた。相手サーブには、拾う…拾う…繋ぐ、打つ!!と言葉になった。
選手がコートに立って、その空気を吸っているというのに、観ているのでさえ息を潜めて心臓をなだめるので精一杯で、素直に言うなら逃げ出したいくらいだった。
いたたまれないほど恐いのに、第1セットの入りから炸裂している日本チームの最高に心躍るバレーが楽しくて、いきいきしている姿にもう半ベソでいた。
石川選手が笑ってる。思いっきりバレーをしてる。
男子バレーボール日本代表選手、そしてネーションズリーグで活躍し帯同した選手について、合わせて個人的な印象を書き残したい。
石川祐希選手がいてくれるから、このチームの雰囲気があると、何度も何度も感じた。
素晴らしく実力と魅力あるキャプテンでエース。
自らのスパイクでは思い切り、仲間の得点に全力で、相手のサーブミスも大きな声で得点としてテンションを見せて勢いをつける。
熱く、清々しい。審判への意見も、様々な場面でのアピールも、真剣に主張しつつ紳士さを失わない。
関田誠大選手が見極め、瞬間的に相手側を目視してからトスをし、時にはジャンプしながら後方から前方へとトスを上げる。
動き回ってもなお上げて、ブロックに飛び、リバウンドをカバーするため両腕を出して屈み構える。高く飛んだボールを相手ベンチまで追いかけて、ジャンプで飛び込んだことさえあった。
表情を変えないように見えて、にかっと笑顔になる瞬間に心掴まれる。
西田有志選手が強打で圧倒し、冷静さでフェイントを折り込み、どこまでも拾いに走り、そしてやはり圧倒的スパイクで吠える。
宮浦健人選手が前衛に立つ頼もしさ、誰にも止められない攻撃力はこれまでの試合で幾度となく目に焼きついている。サーブの曲がり方が容赦ない。
深津旭弘選手がコートに入ると、どんな状況でもいくぞ!と勢いがあり、観ている側さえ士気が上がる。点が決まればパッションが溢れて止まらない。
大塚達宣選手が打つスパイクに相手チームが翻弄される爽快、にこやかにコート内でコミュニケーションを取りつつ、虎視眈々と燃える。
誰にも止められない深津選手と宮浦選手がベンチから飛び出さんとばかりにテンションが上がる時には、両腕でなんとか抑えようとする姿さえ魅力。
髙橋藍選手が前衛で左にいるとしても右に入っても後衛でも、どんなプレーを繰り広げるだろうとワクワクする。
解説の言葉から注目してみるとまさしくというように、石川選手と西田選手が乗りに乗る時には守備にスイッチして拾いに拾い、ここだという時にはスパイクで攻撃へと切り替わる。
富田将馬選手がコートに入る時はいつも、ここからここからと気持ちを上げてくれる様子を見る。どのタイミングだとしても、いつでもやってやるという覇気が溢れている。
甲斐優斗選手がサーブのためボールを弾いている時の、出てきたぞ!となる空気を背負いすぎず、ニュートラルを保つ姿。
スパイクを打った時の躍動感と反比例する柔らかな笑顔。コート内でもベンチでも、先輩たちからぐんぐんと吸収している様子が頼もしい。
髙橋健太郎選手がコートに駆けて入ってくると、雲間から陽が差し込むような感覚になる。
あの大きな手のひらを広げながら安心感のある笑顔でチームを鼓舞し、ミドルブロッカーとしての揺るぎない壁、叩き込むスパイクの迫力は、仲間に見せる表情とのギャップでもあり見入る。
山内晶大選手がサーブを打つ時、後方のプレートのようなものをちょんと触る。
それから打たれるサーブは掴みどころがないように見える。腕をしならせて打ち込まれるスパイクは鞭のよう。選手同士のコミュニケーションの取り方は不思議がいっぱい。
小野寺太志選手が決めるサービスエースは、相手選手からするときっと触りたくなるボールの軌道。
触らなければ落ちる。しかし触っても落ちる。なんというボールを打つのかと思う。ロセル選手の真っ向勝負を止めたブロックが今も記憶に鮮明にある。
エバデダン ラリー選手がどれほど魅力とパワーあるプレーをするか、ネーションズリーグで幾度となく目の当たりにした。
力こぶはラリーのL。あのポーズでどやあとアピールする姿、それに応えるベンチからのL返し。
小川智大選手が軽々と上げているように見えてしまうあのボールが、どんなスピードで来ているかを忘れずいたい。
全体をよく見て、ボールをよく見ていること、セッターポジションへと上げるコントロールの正確性は日々のトレーニングが着実に積み重なっていることを感じる。
山本智大選手が「Yamamoto is Everywhere」と英語実況される意味が、観ているとわかる。
どんなに続くラリーの先にも山本選手がいる。相手選手からしたら、どれだけやりづらいだろう。山本選手のパンケーキもとてつもない。チームの様子をよく観察して動く姿勢も印象的。
フィリップ・ブラン監督が一緒に作ろうとする日本チーム、築いてきた日本チームを大好きになった。
ブラン監督のコートそばで見つめる距離感が好きだ。選手と共に、コート内にいるかのような意識が伝わる距離で、過度に感情的に怒らない。かといって無表情なわけでもない。
指示で動かそうとするよりも、選手のナイスプレーには指差し微笑む。ミスと思われるプレーにはそのままでというように手のひらを伸ばし、回転のジェスチャーで切り替えていこうと意思疎通する。
だから試合中にも嬉しさを監督の元まで走って共有する選手とのやり取りを見られたり、手と手のタッチに勢いがありすぎてタブレットペンが吹っ飛び、おおっとリアクションするブラン監督を見られたりする。
ブラン監督と石川選手が一緒に生み出す空気のあるチームだったから引き寄せられたと、言い切れる。
勝てたらいいなではなく、勝つと思いながら観ることのできる試合は、最高の経験になった。
想像にないほど悔しくなって、茫然とした。勝敗、それもそうだけど、もう日本チームの試合が観られない。
それぞれが意思疎通を欠かさないことで成立するチームワークを、そして個々が磨かれ輝くプレーを、あの空気感を。新たな試合として観るのはここまで。
それが寂しくて仕方なく、選手の試合後の姿を見てますますどんな気持ちに落ち着けたらいいかわからなかった。
でも今は、このチームが出来てくれたこと。
途中からでも観てこられたこと。
藤井直伸選手、アナリストの方々、お食事を担当していたスタッフさん、見えていないところでも支えていた方々の存在。
ボールを目で追うだけでなく、相手コートにボールがある時のフォーメーションの変動、相手チームの構え、1度では足りない見どころばかりだと知った喜び。
「日本 × イタリア」という心滾る試合で、フルパワーのいきいきと弾けるプレーを観られたことに嬉しさが募る。
本人がそう考えて向き合っているならなにも言えることはないのだと知りながらも、キャプテンとしてもエースとしても最高なんだよ石川選手!!!!と両肩を掴んで揺さぶりたい。肩大事なので出来ないけど。
試合後の選手の背中に過度な荷物がのしかかるなら、ブルドーザー用意して遠めの所に運ぶ。まず免許取ってくるから待っててほしい。
試合のおおよそ2時間半が、いつもあっという間だった。
観終わると、家族にこのプレーが凄かった。あのプレーに驚いた。相手チームのあのプレーがさ!とノンストップで話した。
スポーツを観ることに関心がない様子を何十年も見てきた家族なので、あの貴方がね…と感慨深げに笑っている。
バレーボールの面白さを、これでもかと知った。
きっとまだまだ知らないことがある。石川選手が“バレーボールさらに極めます”と書くのだから。
こんなに面白いプレーをする力を持つ選手が日本で普段試合をしているんだと、はっとする。
SVリーグとVリーグのこれからも、注目を続ける。
だけど今何より伝えたいのは、
このチームとして、走り続け、ボールを繋ぎ、魅せてくれてありがとうございます。
私はバレーボールが大好きになりました。