Nissyのライブに行ってきた。Nissyのライブがそこにあった。
もし次にライブがある時には連れて行ってほしいと言われた父と一緒に、父と娘で行ってきた。
案内するんだという意気込みと、3年ぶりになるNissyライブへの緊張感とで不思議な感覚になりながら、Nissyのつくりだすライブ空間へ。
Nissy
「Nissy Entertainment 4th DOMETOUR」
東京ドーム 2023.2.17
18時開演
Nissyの歌声をこの耳に聴くことができて、
全身から溢れるダンスを目の当たりにできる。
今回はどんな世界を観せてくれるのだろうと開演を待つ気持ちは、何年目になろうと湧いてくる。
ドームへ向かう道で、BGMで「僕にできること」がふわっと聴こえてきた時に、あっNissyの声だ…と無条件に安心する感覚があった。
開演前からスクリーンに登場する、AI“THREE”
所々、制御が怪しくなるところに危うさを思いながら幕が開く。
演出のひとつずつに、今を観せたい気持ちと、今までを映したい思いが表れていると感じた。
順にエリアを周っているとしたら、トゥモローランドとホーンテッドなイメージ。
ユーモアと遊び心は変わりなく、楽しい!の要素もある。
どちらかというと、おとぎ話や可愛さ紳士という雰囲気よりは、ダークサイドに飲まれかけたり囚われたり操られるというテーマの印象があった。
NissyはMCで話しながら、アルバム「FOCUS POUCUS 3」の制作期間がここ3年間と重なる中で、詞が書けないと考え込んだ時間や、
“FOCUS POUCUS”(フォーカス・ポーカス)という言葉の『おまじない』の意味の裏にある『いたずら』の要素を含ませて、“上手くいっていない人”に焦点を絞りつつ作っていったと話していた。
それを思うと、明るさや楽しさと別の角度の苦悩や葛藤をどう表現に変えていくのかを、相当考えに考えたことが伝わった。
もちろんそれだけでなく、映像へのこだわり、照明、ステージ、バンドメンバーさん、コーラスさん、ダンサーさんが輝く観せ方のために注ぐ圧倒的気迫に見入った。
あまり見ないくらいの強い明かりで照らす照明が天井席の方から降り注ぎ、曲によってはステージ下から上へサーチライトのように照らす何本もの光線がドームの空間を包囲していて、
その中でダンサーさんのセンターに立ち踊るNissyは、この場を支配していると言っていい存在感だった。
ステージの床面は基本モニターになっていて様々なデザインを映し出す上で踊るので、上から見ていて楽しい。
特に「恋す肌」での曲調に合わせたプールサイドな映像で、二枚に分かれて少し段差のついたステージにNissyとダンサーさんが腰掛けるところ、その両サイドでは客席側に足を垂らす形で腰掛けるダンサーさんの演出が好きだった。
別の曲だったか、波打ち際の砂浜からサーッと引く海の映像も綺麗に音と合っていた。
バンドメンバーさんの配置も遊び心があって、
メインステージのスクリーンを挟んだ両サイドに、三階建の縦に長いセットが組まれていて、三階にコーラスさん、二階と一階にバンドさんとそれぞれにお部屋がある感じになっていた。
上の上の方からもよく見えて、うわ好きなだけ見られるこれは嬉しい…と思いながら何度も眺めた。
見える演出であり、今振り返るとディスタンスも保たれる造りだったのかなと思ったりもする。
お一人お一人の顔にもう馴染みがあって、あの方が弾いてる…あの方が歌ってる…とまた会えたことが嬉しかった。
最高の演奏、最高のハーモニーで、ふとした拍子にアドリブでジャジーに弾き始めた時のムードが大人も大人ですごくよかった。
いつか、いつかNissyのJAZZなムードのライブが実現なんてしたら、Nissyの歌声とバンドメンバーさんの演奏に、一つでは足りない心臓を鷲掴みにされるはず。
ダンサーさんたちとNissyの群舞としての美しさも素敵だった。
息が合うという次元ではない、ビートに乗るそれぞれの感性と、徹底して合わせていく緻密さ。
Miuさんのダンスと表情を観られたことにも心躍って、目で追い続けた。
二人組になってダンスを披露していくセクションでの、お客さんのボルテージの上がり方はすごかった。アクロバットを直前に披露されて刺激されたNissyが見せた、ローリングからのブレない足上げストップ。
腰を心配せずにはいられなかったけど、すごい体勢維持だった。
衣装が今回はスタイリッシュかつナチュラルな印象で、
白Tシャツをインして黒スキニーだったり、「Get you back」でのナポレオンジャケットな雰囲気のトップスだったりして、引き算の格好良さなコーディネートで好きだった。
映像の中に登場する傘に「どうしようか?」の始まりを思ったり、
ライブの中での見事なまでの噴水のウェーブにあのハグを思い出したり、光る傘に「トリコ」のときめきが蘇ったり。
もう一度観たくて、連れて来た父にも観せたかった噴水のウェーブを再び目にした時の感動。
その演出で歌う「Don't Stop The Rain」が、かつて水の演出で歌った「Aquarium」に交差するアンサーソングのようにも感じられた。
USJからのお客様で登場した、セサミストリートの仲間とピーナッツの仲間。クッキーモンスターやスヌーピーとの再会に、トロッコの上でわちゃわちゃしているNissyの姿。
スクリーンに映る過去のライブ映像に重なって、時間旅行をしているようなサプライズで満ちていた。
今回、映像の中で進むストーリーに、全貌を見通せないまでも重ねて思ったのは、Nissyの存在とそれを見つめてきた記憶のことだった。
いつまでもを思いながら、いつまでもと言いきることのできない有限の切なさは、逃げきれない所にある。
そのことを憂う思いが、彼の瞳にはどこかいつも滲んでいるように思ってしまう。
今回開催できたライブは、そこにもうひとつの歯痒さを抱え込んだ時間を経て今ここにある。それが伝わるステージで、エンターテイメントでどうつくるかを追求したことも伝わってきた。
状況がうねり大きく変わった時から、
一つ一つリリースされる曲とMVを見ながら、怒っているなと感じる曲があったり、悲しんでいると感じる曲に切なくなったり、それでもステージを目指す灯りが消えずにあることも感じてきた。
事象そのものだけでなく、そこから引き起こされる人の心理の刺々しさや、分かり合えなさに傷ついていると思った。
紛れもなく自分もその渦の中にいるけど、人の機微を見て、真摯に向き合って吸収してしまうひとだと思っているから心配だった。
だからこそ、一曲一曲をライブにする時にどう繋いでいくのだろうと知りたい気持ちもあった。
“ない”世界線ではなく、“ある”世界線で創り出すことを決めた意思を受け取った。
Nissyのエンターテイメントで、楽しさもワクワクもあるなかで、どう表現するかを受け取りながら、自分の時間を振り返ってもいた。
無かったみたいに有った時間があって、でも時間は進んでいて、しっかり傷ついていたことも思い知る。
どうしようもないから、やり過ごすほかないから、これはもういつも通りのことだからと必死に言い聞かせてきたことに、どんなに戸惑って寂しさを感じていたのか分かった。
思い返したからといって落ち込んだ訳ではなくて、自分の感じていたことに自分がようやく寄り添えた。
「I Need You」を聴けたことと、「まだ君は知らないMY PRETTIEST GIRL」を歌ってくれたこと。
終盤にくる「ワガママ」も心に染みた。
その場で即興のように歌うコーナーでは、「First Love」「接吻」を歌って、客席からの喜びのどよめきがすごかった。
Nissyのステージを築き上げるなかで、ゲストの出演はザ・ピーナッツの仲間以外にあまりない印象で、芸人さんのチョコレートプラネットの映像出演は意外だった。
「静かにしろ」のコントをNissyが仲間入りしてひたすら共鳴する映像で、沢山笑った。
MCの時に、以前からこのコントはしていたかもしれないけど、“静かにすること”をこうしてエンタメに表しているのがすごいと思ったというニュアンスで西島隆弘さんは話していて、
心に生じたこと、これまでを含んで生み出した今回のステージなのだと実感した。
初めての親子でライブ参加で、東京ドームも初めてだった父を速やかに案内しなくてはと頑張った。父も楽しんでいた。
バンドさんたちがジャジーに弾くのが好きだったようで、Nissyの行動に笑ったり。
前もって曲を聴けていなかったから、歌詞についていくのが大変だったみたいだけど、リズムを習得して乗るのは早かった。
親子で来ることがあるとは…と感慨深さを噛み締める。大切な思い出をNissyのライブで作ることができて良かった。
最後の方でNissyがスマホで録画しながらイェーイ!と煽った時には、親子共々イェーイ!だったし、「My Luv」では繰り返す歌詞をお互い口ずさんだ。
「My Luv」で、“寂しくなるけど”で音程が高くなる部分がくるとNissyが歌声を重ねてサポートしてくれていて、優しさだな…と思いながらいた。
最後の最後に始まる、エンドロールを眺める時間。これが好きだと噛み締める。
今回はあるかな、あるよねとソワソワしていたら、ちゃんと始まってくれたことが嬉しかった。
s**t kingzのNOPPOさんのお名前を見つけてテンションが上がる。
Nissyのつくるステージが、エンドロールを含めてそっとラッピングのリボンで結ばれたような静けさの後で、客席から拍手が起こる。
また会えたことが奇跡だと、いつもいつも思っている。
何もなくして起こる奇跡ではなくて、Nissyとしてライブをすると決めてからの西島隆弘さんの1日1日と、ライブ開催を心待ちにそれを知ってから進んできた自分の1日1日が、ここに辿り着かせてくれたんだと実感する。
いつまでもとは言えない。でも、今回のライブでセットリストとして「どうしようか?」を入れずにいたこと。スーツにハットは見せなかったこと。
この2つに、次を思える気がした。
静寂に覆われて、それでもここに残ったもの。
Nissyのつくるエンターテイメントと、それを観たい聴きたいと思う気持ち。歌声も演出も景色も、記憶で抱きしめて忘れない。
3年の日々をひたすらに歩いたら、この場所でNissyに会えた。