映画「マイ・ブロークン・マリコ」を観た、私の心のなか。

 

映画館で流れた予告が衝撃だった。

あまりにも、強い映像だったから。

なぜ、このシーンを予告に?なぜ、彼女はこんなことをしている?それが分からなくて、分からないまま避けて通ってもいいはずだった。

どう見ても、刃物を向ける彼女は異様で、向けられている二人は困惑して当然のように見える。

しかし、なぜ彼女がこんなことをしているのか。あらすじを読んで知った途端、世界がひっくり返る感覚になった。

 

さらにポスター写真が忘れられず、あの見下ろす永野芽郁さんの佇まいに、ただならぬものを感じて心から離れなかった。

まずはフライヤーが欲しくて、そのために映画館へ行った。

前売り券に、“マリコからシィちゃんへの手紙封筒”と、ポスターにも使われた写真を含めた4種のポストカードが特典で付くと知って、絶対に欲しいとすぐに購入した。

 

平庫ワカさん著「マイ・ブロークン・マリコ」の漫画から映画になった今作。

監督はタナダユキさん。脚本は向井康介さん、タナダユキさん。

マイ・ブロークン・マリコと書かれた文字にも物凄く惹きつけられた。

エンドロールのおかげで、タイトル文字を書かれたのは原口恵理さんだと覚えた。

 

永野芽郁さんが演じるシイノ。

奈緒さんが演じるマリコ

 

シイノを突き動かす衝動、怒りをスクリーンからガンガンに受け止めながら、マリコがそこに居てシイノがずっと見てきたこと。

それでも慕い合うだけではなかった本心。

二人を括ってしまえる言葉は思いつくかもしれないけど、そう言わせてたまるかという睨みを感じる映画だった。

 

こんっなに思ってて、そばにいて。

なのに、なんで。

なんかもう…腹立ってきた…と怒りに変わるほど、思っていた。こんなにも、相手への思いが沸騰する強い感情を抱いたことがあるだろうか。それを、相手にぶつけたことがあるだろうか。

シイノの心境もマリコの心境も考えた。どちらにも、ある範囲で重なる心情があったということは、どちらになることもあり得たのかもしれない。

それでも、今の私はシイノの怒りに強く共鳴していた。

 

マリコのいた世界。そこにシイノはいたはずで、本来それは間違いないと断言できることなのに、マリコが一人決めたことにシイノは確信が揺れる。

マリコを蝕み壊していったのはマリコの外の存在なのに、立ち戻れなくなっていくマリコを、壊れていくマリコを、壊れていると笑うかのように雑に接する人間がいる。

壊しておきながら、壊れているとオモチャにして文句を言う非道さを感じた。

 

懸命に、それこそ命懸けでシイノはマリコのそばにいたけど、シイノだって大丈夫だったわけじゃない。

あえて掘り下げては映されないだけで、それでも彼女が幼い頃から歩いてきた道、働いているブラック企業での仕事、すり減らしながらギリギリで生きていることは理解できた。

 

大切な存在だったから、ただ振り返る旅に出るということではない。

マリコの綺麗な思い出だけを思い出すようになる自分を嫌がるシイノが心に焼きついた。

 

学生時代からマリコが書く手紙が、『へ』にちょんちょんを付けていたり、字体がキャピっていたり、自分の学生時代にもあった手紙文化や折り方に心臓がぎゅううっとなった。

シイノは基本、言葉が荒っぽい。

荒いと言うか、ブラックな職場でどうにか持ち堪えてきたのは、そういう“かわし方”を掴んだからなのではと思う。

永野芽郁さんが演じているシイノにとてつもなく惹かれるのは、そこにある芯と、表裏一体で全然大丈夫じゃないと気づけば割れてしまいそうな薄張りガラスの面が瞳の揺れに垣間見えるからだと感じた。

私が日頃、関西の心意気に惹かれるのは、なんぼなもんじゃい精神と哀愁が同じ場所にあるから。

「マイ・ブロークン・マリコ」に関西弁はないし、シイノはシイノ。マリコマリコだけれど、シイノの気概は私が好きな心意気に通じるものだと思った。

 

窪田正孝さんの演じるマキオに、観ていて恐々と、それでも癒えるものがあった。

彼の目にもまた、様々なものが焼きついているのだと思う。

 

「大丈夫に見えます?あたし」

「大丈夫に、見えますね」

 

忘れられない会話がここだった。

どう見ても大丈夫じゃないだろと感じている時に聞かれる、大丈夫?も、大丈夫だよ!も受け取ることができなかった私なのに、

この台詞が可能性の言葉として耳に響いたことに自分で驚いた。

 

こんなにも動揺して打ちのめされて、怒る人がいる。

私が大切だと思っている友達がそれを選んでも、シイノと同じ感情が沸き起こると思う。

私がそれを選んでも、打ちのめされて怒る友達がいると、今は思える。

 

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