転がる先は、一体どこへ「MIU404 第3話」

 

ルーブ・ゴールドバーグ・マシン”

連鎖的に運動する仕組みの事(ピタゴラ装置とも言う)

MIU404 第3話分岐点

「誰と出会うか、出会わないか」この人の行く先を変えるスイッチは何か、と話す志摩の言葉が心に跡を残す。

誰と出会うか、については大切なのだろうとすぐに考えられるけど、出会わないこと、で選べている道があるのだと気づかされた。

出会ってはいけない人がいる。踏み入れてはいけない道も。

 

陸上部の活動ができず、学生生活の最後の年に走ることができない男の子たち。

女の子に通報役を任せて、虚偽の通報を繰り返しては走って逃げる。

部活の延長線上のようにしか考えていない彼ら。本当の事件が紛れてしまうのに、そのことにまで考えが及ばない。

 

 

出勤して来てはじめに、車の中で出たゴミを捨てている伊吹に日常を感じた。ゴミを持ち込むんじゃないと、すでに怒られたことがありそうなコソッと捨て具合。

車での捜査はどうしたってコンビニ買い食いのゴミが出るし、まめに袋にまとめてキュッと縛って捨てるよなぁなんて思いながら見ていた。

第3話では九重さんのファッションが変化。これまでビシッとスーツで決めていた九重さん。

段々と機捜の空気に気を許しつつあるのか、今回はジャケットを脱いで、黒のカーディガンに白のシャツ姿。とてもお似合い。

 

足の速さについて熱弁する横で、志摩が「はいはい早い早い」とたしなめる。

「心がこもってない」と不服そうな伊吹に「すっごく早い…ですよねぇ…」でおちょくる志摩の言い方が、ほんのり平匡さんの「クックパッド…良いですよね…クックパッド……すっごい良いですよねぇ…」のニュアンスに似ていて好きだった。

 

機捜のみんなで食べるご飯は、うどん。今度はちゃんとシンクで湯切り。

第1話で、ざるの上に置かれたうどんを見た時、伸びにくく時間が経っても食べられるからだろうなと考えていたら、MIU404についてのインタビューで、捜査に出ることになっても戻ってからまた食べられるから実際にうどんはよく食べることを取材で聞いたと話されていて、

他の刑事ドラマでも、ラーメンは伸びるから頼むなという台詞のやり取りがあったことを思い出した。

やいやい言いながら、テーブルを前に一列に座ってうどんをすする、陣馬さんと志摩と伊吹と九重。お父さんと、やんちゃな三人兄弟みたいだった。

 

ふいんきと言う伊吹をふんいきと訂正したい九ちゃん。

「きゅるっ」とか、「キャッキャうふふ」とかのワードセンスが、なんだかツボにはまる。

塩梅がいい。乱暴で無く、下品でも無く、ちょっと浮き足立っちゃう心模様が的確に表現されていると思う。

「うふふってる?」と聞く伊吹に、「………すーごいうふふ」と迷った末に下手な嘘をつく志摩。

いいな、うふふ。使っていきたい。

 

今回は「アンナチュラル」の世界線と重なって、西武蔵野署の刑事・大倉孝二さんの演じる毛利と、吉田ウーロン太さん向島が登場した。

「アンナチュラル」で何度も聞いていた、チャリンチャリーンというコインの音が鳴る。

機捜の防いだ事件が、三澄ミコトたちのいるUDIの案件を増やさずに済んでいるかもしれない。機捜から警察の捜査では解明しきれなかった事件を、UDIが引き継いで耳を傾けているかもしれない。

何より、同じ時代のなか時の流れをみんなで生きていると思えたことが嬉しかった。

 

 

走りが得意な伊吹を思考力でサポートする志摩は、まるごとメロンパンカーで回り込んで、虚偽通報の実行者たちを客観的に分析。

伊吹は、相手の衰えないスタミナへの違和感、雰囲気の違いに気づく直感で、逃げているのが1人ではないことを理解する。

普通の警察車両ではなく、陽気なまるごとメロンパンのおかげで実行者たちは気が緩む。この車に乗っていることに、第3話になっても意味が重なるところに感動した。

 

再度起きた虚偽通報。

まるごとメロンパンカーから早速とロードバイクを持ち出し、がんがんに漕いでいく志摩がかっこいい。

タイヤが太いタイプの自転車で、これはこれで走りこなすの大変なのではと思った。

早くは走れないなら、ロードバイクで追いかける。自分に出来る手段で伊吹のスピードについて行く志摩に胸が熱くなった。

 

同じく実行者を追いかける陣馬さんと九重。

「九重は国道側行きます!」

と、伊吹の無線に聞こえる九重の声が全力で、冷静沈着に見えた九重の感情がふいに見えた。

もうあと少し、追いかけられていたら逃さなかったかもしれない、成川岳に視線を向けた九重はなんだか、正しいことをしているのに危うく見えた。どうしてあそこまで執着していたのだろう。

 

走りたいから、思い出づくりに最後にもう一度。その最中に、本当の事件が起きた。

ひやっとした。虚偽通報と同じ声の彼女。緊急事態を信じてもらえるのか。

でも、通報を受けた警察は事態が緊急であることを前提として動いて、彼女がもっと深く傷を負う前に見つけ出すことが出来た。どれほど愚かな行動をしても、掴める手は全力で引き戻す大人たち。

 

間違ったことをした、助けてほしいと頭を下げた男の子に、

「まあこっちは警察なんで。通報があれば、しらべもしますし。助けもしますよ。」 

と言った毛利さん。

“まとも”とはなにか?と聞かれたらそれは難しいのだけど、まともな大人に出会えることは、大切なスイッチなのかもしれない。

 

誰よりも臆病そうな表情をしていた、成川岳。

こんなことしていたくない。戻れるなら戻りたいと後悔しているように見えた成川岳が、自ら終わらせないことを選んだのが意外で、なぜなのか分からなかった。

引っ張り戻せなかった1人が、戻らないことを決めてしまった彼がどこへ行くのか。途方もない怖さが残っ‬た。

 

成川岳だけが逃げたことを知り、赤いパトランプのなか見えない背中を睨む九重の顔。

怒りに震えているのか。それ以上に込み上げる気持ちがあるのか。

なぜ若者たちの危うさに、そんなにも感情を揺さぶられているのか…九重が気になる第3話だった。

 

 

隊長のごきげん電話の相手が分かった伊吹が、「志摩ちゃんが隊長にうふふだなんて誤解しなかったのになぁ」と行った時。
志摩が、誤解でもないのになって顔した?したよね!?と、見ていてテンションが跳ね上がる。

二人の‪距離感に掴みどころのなかった第1話。小気味よく会話が続いて、ぐぐっと近づいた第2話。二人はこんな感じで進んでいくのねと、伊吹と志摩の空気感、機捜の雰囲気にも慣れてきたところに投げ込まれた、菅田将暉さん演じる男の衝撃。一気に緊張が走った。

「お前なにしてんねんなあ」

傘で隠れていても、声でわかる。菅田将暉さんだと。ここで菅田将暉さんが出てくるのは、えらいことになると。

 

自分の間違いや、これから起こり得る危険を教えてくれる人の存在は、その言葉が的確で自覚のあるものであるほど耳が痛い。

一つあるとしたら、大して話の内容も聞かないまま、君の味方だと言う人は怪しんだほうがいいことは、なんとなく分かる。

信じたい話を口にしてくれる人のそばに居るか、客観的で長期的な視点で思いのある話をしてくれる人のそばに居るか。どちらもよいバランスで人間関係を築けるのが理想だけど、居心地のいい方へと流されてしまうこともある。

しかし誰の声を聞くかは、大きな分岐点になる。


引っ張り戻せなかった1人。

何に飲まれ、転がり落ちてしまうのか。掴み損ねた手に、空を掴むような不安だけが残っている。