お好きな席にどうぞ

 

午後14時を過ぎ、水分と塩タブレットで充分だったお腹もようやく空いてきて、お蕎麦屋さんにでも入ることにした。

お店が立ち並ぶ通りにはいくつかのお蕎麦屋さん。どこがいいかなと見ながら歩いていると、お店の外のサンプルには、どのざるそばにもセットでご飯がついているようだった。かやくご飯か、海苔のついた俵型のおにぎり。

 

ここにしようかなと入ったお蕎麦屋さん。お昼時を過ぎたあたりで、席は自由に選ぶことができた。

関西に来てみて、ご飯屋さんに入った時の流れの違いみたいなものを薄々感じはじめていた。関東でも混み具合による場合はあるけれど、基本的にこちらへどうぞと席に案内されることが多い。お店の意図に沿って席が決まるというルールでこれまでいたので、それがくせになっていた。

関西はわりと、「いらっしゃい」の後には何も無く、席に案内されるよりも先にお客さんが自ら席についている印象だった。

お店に入って、どこに座ったらいいだろうと立ち尽くしていると、「お好きなお席にどうぞ」と声をかけられることが多い。

入ってもいいですか?という心持ちで入店するるのがくせになっていたけど、関西に来てみて、お店側はもっとウェルカムで、入ってき?座り?というようなニュアンスがあると感じた。

空いている時間にいることが多かったこともあるかもしれないけど、受け身で案内を待っているのは相手に伝わらない。何をしたくて、どうしたいのか、自分から言っていかなくてはここではもったいない。自発的にいっていいんだと学んだ瞬間でもあった。

 

お腹の空き具合としてはお蕎麦だけでもよかったけれど、せっかくなので天ぷらもついているものを頼むことにした。

待っている間、お手洗いに席を立って、戻ってくると、座っていた席のお水とお茶が片付いていた。わたしの存在感ー!

騒ぐあれでもないし他の席を片付ける流れでというのはわかったので、いるよーとそっと席に戻って、なんだか照れながら待っていると、店員さんが気がついてすぐにお茶を用意してくれた。

 

外は暑くても、お店に入ると涼むことができる。それを頭に入れておいたおかげで、体調は崩さずにいられた。

運ばれてきたお蕎麦。何かがいつもとは違うなーと食べていたら、後になってつゆの味だと気がついた。京都のお蕎麦のつゆを味わうと、関東のつゆがどれだけ濃いものかわかる。色からして、器の底が見える色合いの京都と黒く底の見えない関東には違いがあった。

そしてかやくご飯。わたしはまだこのご飯の食べ方がわかっていない。炊き込みご飯ではないし、ふりかけほど味のついたものがかかっているわけではないのだけど、それでもお蕎麦にはご飯が付く。

天ぷらがあるから、それと一緒に食べるといいのかなーと思いながら食べた。

 

お腹もいっぱいになって、これからどうしようかなと考える。

鈴虫寺祇園のほうにも行きたいと思ったけれど、この暑さでは行きたい場所は1日1ヶ所が限界かなと判断して、早めに大阪へ戻ることにした。

京都の名所は各地に広くて、嵐山はわりと離れた位置にあるので、あっちもこっちもというよりは嵐山は嵐山で満喫、という形が自分にはしっくりくるなと実感した。

 

嵯峨嵐山駅へと戻る途中、本屋さんを見つけて少し立ち寄った後で、京都に来たなと思えるお土産を買っていないなと思って、通りに見つけた和菓子屋さんにふらっと入った。

練り切りの和菓子が並んでいた。

ずっと憧れで、いつか作ってみたい練り切り。まずは食べてみようと、優しく京都弁で説明してもらった和菓子のなかから、ピンクの桜のかたちをした練り切りをひとつ選んだ。中には白あんが入っている。

帰ったら食べようと、京都からのお土産をひとつ持ち帰った。

駅で、ここに停車すると思って立っていたホーム。ホームは合っていたけど、電車によって停車位置が違ったようで、あとちょっと届かず、向こうのほうで停まった。同じように待っていた海外のお客さんたちと少し照れ笑いしつつ、電車に乗り込んだ。

 

中崎町に着いた時間はまだ17時。

暗くなるまでには帰るようにしたいけど、日が暮れるのは19時くらい。18時30分までなら外にいてもいいかなと小学生の下校時間のような門限を自分で決めていた。

中崎町のカフェが多いエリアまでは歩いて5分もかからない。1日1つカフェ巡りをしていくことにした。

 

大阪滞在2日目に入ったのは、「WARARA」というカフェ。渋さもあるウッド調のカフェで、カレーやトーストメニューが充実したお店だった。

食べたい気持ちはあるけど夏バテぎみで、アイスカフェラテを頼んだ。帰りの道のりでかいた汗も落ち着いて、一息ついて、帰る。

こんなことができるのは好きな町に住むという夢がかなっているからこそだなと、ふとしたその瞬間にうれしくなった。

 

 

その日の夜、部屋でテレビを見ていると、「関ジャニ∞セブンイレブンキャンペーン、明日から!」というCMが流れた。

キャンペーンスタート前のCMを見られたことも嬉しかったし、それ以降も関ジャニ∞の声がテレビから聞こえるたび、ハッ…!!とテレビに振り向いて、じっと見届けるのを繰り返した。

部屋に居る時間が一番不安だった自分にとっては、時折流れる数秒のCMが心の癒しになった。