人力車のおもてなしを感じた、渡月橋から竹林への道

 

京都タワー。赤に少しの水色と、白のタワーが青く開けた空によく似合う。 


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土曜日の朝、サタデープラスの生放送。大阪から届けられる丸山隆平さんを見ながら、朝の支度をした。

シャンパンゴールドのアイシャドウと、オレンジとピンクのチーク。つけると、いつもよりしゃんとして外を歩ける。買ったばかりのパキッと鮮やかな山吹色のワンピースは、この日のために持って来た。

 

京都タワーが見たくて、出なくてもいい改札を出て、京都駅からの景色を眺めた。

電車の窓から見えていたままの夏の空が、京都タワーを真ん中にして広がっている。綿菓子をちぎって空に浮かべたみたいな空だった。振り返って見える「京都駅」の文字。磨き上げられた鏡のような外壁には、空の青と雲の白のコントラストが映り込んでいる。

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多くの人で賑わっていて、皆どこかに行くためあまり浸らず足早に通り過ぎていく京都駅。

見上げると、頭の上にはやっぱり沢山の三角形。持ってきていたカメラでいくつかの写真を撮り、改札をもう一度通って、乗り換えのつづきに戻った。目指す嵯峨嵐山駅(さがあらしやま)に行くためのホームはなんだかいつ見ても壮大で、タイムスリップ小説に出てくる機関車や電車ではない何かが停まるとしたら、こんなホームだろうなと思う。

 

夏の京都は暑い。なんせ盆地だから…

幾度も耳にした夏の京都の手厳しさに戦々恐々としながら、水分と手持ち扇風機と日傘のフルセットで嵯峨嵐山駅を降りた。厳しい暑さは気にしないとばかりに、海外からのお客さんは変わらず多い。

嵐山に来て、音の消える天龍寺のお庭を見たい。竹林を思う存分歩きたい。そして、人力車に乗りたい。

なかでも、人力車に乗るのは今回の大きな目的だった。いつもはもったいない気がしてしまってケチってしまう人力車。元気よく声をかけられても避けて通るのが常だったのに、今回は乗る気で来ている。人力車のお兄さんお姉さーん!ここに乗る気で来ている人が居ますよー!と看板抱えて歩きたい気分だった。

しかしなんだか、去年に比べて声を掛けている様子が少ない。あれ?全然相手にされてない?と若干不安になるも、どうやら足を止めるほどの呼び込みはしなくなっている様子だった。暑さのためなのか、マナー的な部分での変更があったのかはわからないけれど、これまでの人力車のイメージからは控えめになった印象があった。

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人力車に乗り慣れていない。そもそも体育会系な感じで、どうっすか!観光っすか!みたいなノリで話しかけられてしまうと、ノリよく返せる気がしない。

それでも乗りたい人力車。それらしき人が立っている場所を一往復する。乗りませんか?と一言あれば応える気満々で。しかしながらわたしの方が目を合わせることができない。人見知りがひどい。声を掛けられるつもりでいたから、声を掛ける心構えはしていなかった。

内気なのか気が大きくなっているのかわからない人だなと自分に呆れながら、一度涼しい場所で呼吸を整え、二往復目に入った。

渡月橋の辺り、この辺なら落ち着いて聞くことができそうだと思えた場所に、この人なら大丈夫かもしれない…と直視しなくとも視界の隅で穏やかそうな雰囲気を漂わせているお兄さんを見つけた。さっきもうろうろしてた人だ…と思われているのではと浮かんだ不安を嵐山の向こうに放り投げ、「あの、一人なんですけど」と声を掛けた。

「あっお一人でも大丈夫ですよ」と気さくに答えてくれたお兄さん。ようやく聞きたかったルートと料金の案内をしてもらうことができ、15分のルートから1時間近くもあるルートの説明を細やかに教えてくれた。行きたい場所はありますか?と聞かれたので、竹林に行きたいですと答えると、そのルートを盛り込んだパターンをいくつか挙げてくれた。

 

そんな話しの最中、日差しが直に差し込み、一瞬わたしが、暑っ…っという表情をした。するとすぐにそれに気がついて、「暑いですね日傘持って来ます」と言って駆け足で取りに行き、大きな日傘を用意してくれた。ほんの少し表情にしただけなのに、言葉は発していないのに。説明をささっと済ませて、とにかく乗ってもらおうと考えることもできるのに、迷う時間のためだけにその配慮を働かせるプロフェッショナルなお兄さんの観察力に感動した。

晴れた空に入道雲は、側から見ているうちは良いけれど、真下に入ると雷になる。いつ天気が変わってもおかしくないので、人力車で竹林まで乗せて行ってもらい、そこからは徒歩で散策することにした。15分で3000円のルート。

 

アンバランスそうに見える人力車。まず乗る時が怖い。

どうやって乗るんだ…という心配を取り払うように、一つ一つ足の踏み場を教えてくれる流石のエスコート。

リュックを横の席に置こうとするわたしに、可能でしたら足元後ろに置いていただくと、美しくお写真撮ることができます。とカメラで写した時の見栄えについてまで教えてくれた。後々見返してから、ああ…なんて残念なことにならないように。

 

真紅のひざ掛けをかけてもらい、少し揺れますという声と共に持ち上がる座席。

どこまで背中に体重をかけていいのか、後ろがないという漠然としたフワッと感が慣れなくて、うっかりバターン!ってならないのだろうか?と人力車の仕組みについて考えたりした。その思考のせいか、写っている写真はどれも猫背ぎみだった。

暑い日差しのなか人力車に乗ると、乗り心地はどうなのだろうと思っていたけど、頭の上には日除けがあるし、思うよりも風がある。お兄さんの重労働を思うと心苦しいけど、歩いて体力を使い果たしてしまうよりも、快適だった。

 

涼しい風があって、嵐山の景観についての話を聞くことができて、写真を好きなように撮れる。しかも聞こえてくるのは京都弁。

景色に目で癒され、言葉に耳が癒されて、京都でやってみたかったことの大切なひとつはここにあったのかもしれないと思った。

関東から来ましたと話をすると、そしたら関西弁は新鮮な感じでしょうとお兄さん。関ジャニ∞が好きなのでよく聞いているんですと答えると、お兄さん的には村上信五さんがぱっと思いついたようで、村上さんとかバリバリの関西弁ですもんねと返ってきた。関西の方からしても村上さんのイメージは関西弁バリバリなんだなあと発見だった。

しばらく進むと、日差しが強くなった。

「そろそろ暑くなってきたと思うので走りますね」と言って、ゆるやかに坂になっているのに走りはじめたお兄さん。確かに暑さを感じはじめたところで、走ると風が大きくなって涼しくなった。お兄さんは「大体の感覚でわかってくるんですよー」と言う。バランスを保って進むだけでも大変で、しかも今日はこんなに暑いのに、おもてなしする心配りがすごい。

 

竹林に入る道へと近づくと、人通りはますます増える。

人力車は通れないのではと思った道を、お兄さんはにこやかに声をかけ、日本人だけでなく海外のお客さんにも道を開けてもらえるようお願いする。それぞれの協力とお兄さんの案内のおかげで、隙間さえなかった道を通ることができた。

ふいに聞こえた「すごい一人で乗ってる」という声に、ああそうか、そういえば一人だったと思い出した。景色に夢中で、お話が楽しくて、人力車は二人で乗るものみたいなイメージはわたしの中ですっかり取り払われていた。

 

「ここから景色が一気に変わりますよ」

その言葉の通り、ぶわっと音が聞こえるかのようにいっぺんに景色は緑のカーテンへと変化した。

気温が全く違う。強い日差しと熱風から守られて、涼しささえ感じられる快適さ。お兄さんは僕達にとってもオアシスですとこっそり教えてくれた。

発見だったのは、人力車用の竹林通路があるということだった。徒歩でいた頃は気づきもしなかったけど、そりゃそうか。人通の多い竹林、それぞれが安全に通るためにも、交通整備は大切。

すれ違う人を気にせず、人力車だけが竹林を通る空間。目の前を見ても頭上を見上げても緑が囲う。大きな緑を独り占めしているような贅沢な景観にわくわくした。

 

そんな素敵な場所で、記念写真を撮ってもらった。京都で人力車に乗る魅力というのを知らずにきたけれど、人力車だけが通れる竹林の道を、歩きながらではなく景色だけに集中して満喫できるのは魅力だと実感した。

徒歩での立ち入りはできない場所になっているため、入ってしまおうとしていた海外の方に、立ち入り禁止の英語の案内があることを英語でさらっと説明していたお兄さんに、またプロの仕事を見た気がした。

 

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竹林の中ほどまでやってきて、そろそろ終着地点。

苔寺と言われる場所の側で、人力車は停まった。降りるための支度をしていた時、ほんの少し揺れたのだけど、全く無反応だったわたし。すかさずフォローに入って気遣ってもらったものの、その反応に驚いていた。こういう場になってもわたしは新鮮なリアクションが出てこないのだなと、自分の動じなさを再確認してしまう出来事だった。

人力車を降りる時、差し出してもらったその手を掴むのか、一瞬戸惑った。

降りようと思えば多分自力で降りられる。けれど差し出してもらっている手前、全く頼らずスタスタ降りるのも品に欠ける気が…とわずか数秒のうちにそんなことを考えて、1歩2歩の後にもうしわけ程度にそっと手を置かせてもらった。

そこまできたら手を借りなくても降りられたじゃないかと、結局自分のぎこちなさに反省会議を繰り広げることになったけれど。

 

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