星乃珈琲にハンサムはずるい

 

食事に投げやりになることが増えた。

食べても、食べなくても。どっちでもいい気がして、お腹が空いているような、もう少し我慢すれば食べなくても大丈夫になるような。

 

それでも必要な用事があって、休みなのに外に出ないといけなくなった。

朝ごはんは元々食べる習慣が無いし、時計はお昼近くを指しているけどお昼ごはんを食べる気にもならない。

15時くらいまでは保ちそうだなと思って、そのまま出掛けることにした。

 

用事が終わって、とくにお腹が空いたわけではなかったけど、エネルギー切れなのは頭の働かなさから何となくわかった。

家に帰ったらまた言い訳をつけて、ご飯はいらないと食べないことを選んでしまうから、星乃珈琲店に入ろうと自分を誘導した。

 

お店のドアを開けようとすると先に出てきたお客さんがいて、間合いを見計らっていたら、わざわざドアを開けつづけて入れるようにしてくれた。

「ありがとうございます」と店内に入ると、最初に目に入ってきたのがケーキ。ショーケースに並んだケーキを見たら、少しテンションが上がった。

チーズケーキも美味しそうだし、オペラという名前のケーキが宝石のように綺麗だった。

ナポリタンを食べようかと思ったけど、ケーキもいいな。デザートにケーキをつけて、どっちも食べてしまうのもありだな。

 

ひとりでぼーっと考えながら案内を待っていると、スッとこちらに歩いてきた店員さん。

「お待たせいたしました、こちらでアルコール消毒をお願い致します」

すらっと背が高く、小顔で黒髪爽やかな店員さんの完璧な佇まいに、ちょっと身構えた。見事にお店の雰囲気に合っていて、世界観が構築されている…と感動さえ覚えた。

 

テイラーメイドで仕立てられましたか?と尋ねたいほど、その背丈ときゅっと腰丈で結ばれたエプロンが似合っている。

白いシャツに黒のベストで、黒のストンと落ち感のあるパンツに、腰からの黒のロングエプロンと黒の靴。

 

ドラマのエキストラになった気分だなと思いながら席に案内してもらい、オーダーを取りに来たのもその店員さんだった。

わーいらない緊張をしているーと戸惑いつつも、声が届くようにはっきり受け答えをする。

メニューを見てから結局決めたのは、フレンチトースト。ナポリタンとケーキの影もない。

カフェオレはセットで選べないのでアイスコーヒーにして、ミルクとお砂糖をつけてもらった。

 

私は席でただ無になって待っている間にも、きびきび働く店員さん。

無線で空きの席を伝達しつつ、片付けにお水出しにオーダー受け付け。お会計も。店員さん同士の役割分担も即座に計る。

 

 

運ばれてきたアイスコーヒー。

ミニマムなミルクのピッチをこれでもかと傾けて、一滴でも多く入れる。お砂糖も半分は入れた。

飲んでみるとそれでも苦かったけど、まあフレンチトーストと合わせるから大丈夫そうだなと思って待つ。

フレンチトーストが到着。

ひたひたタイプか、パン感あるタイプかどっちかなと思っていたら、ひたりつつ中心はパン感がある一番好きなタイプだった。

ボリュームのあるクリームの上からシロップをかけて、ごきげんでナイフとフォークを持った。甘いフレンチトーストと、ちょっと苦めのアイスコーヒーのバランスは完璧。

 

ちゃんと食べに来て良かったなと、一息落ち着いた。

何となく席が埋まり始めたようだったので、残していたアイスコーヒーを少し急ぎで飲んで、席を立った。

エネルギー切れでライト点滅状態だったのが、美味しいフレンチトーストと、世界観にぴったりの店員さんの活躍を見て、すこし良い日になっていた。