明るくて前向きで暖かいのに、泣きそうになるのはどうしてだろう。
嬉しすぎたりしあわせすぎると泣きたくなるあの感覚が、「応答セヨ」を聴くと蘇ってくる。
11月15日にリリースされたシングル「応答セヨ」は、映画「泥棒役者」の主題歌。
丸山隆平さんが初主演の映画、そしてその映画の主題歌が関ジャニ∞という心嬉しいこの曲は、そのまま聴いても魅力的だけれど、「泥棒役者」を観た後に聴くことでさらに曲の印象が深まる。
映画のストーリーに寄り添う歌詞になっていて、直接的ではないけれど、不思議と主人公の大貫はじめへ向けたエールのように聴こえてくる。
西田監督は主題歌について、“悲しくて泣けるんじゃなくて、幸せすぎて泣ける歌”というテーマから、いくつかある曲の中からこの曲に決定したと話しをされていた。選ばれた曲に作詞をしたのはポルノグラフィティの新藤晴一さん。歌詞についても西田監督と新藤晴一さんの間で連絡を取り合っていたと知って、世界観をイメージしながら大切に丁寧につくられた曲なのだと感じた。
映画と曲がそれぞれ全く別に作られたものではなく、思い入れを持って繋がっていることが嬉しかった。
つまずいてばかりの僕を 君だけは笑わなかった
という歌い出しで始まるこの曲は、過去も未来もひっくるめて連れて行ける力強さがある。
始めの歌詞がプロローグのように歌われた後で、丸山隆平さんのソロから曲が始まる。
歌声がいつにも増して優しく聴こえて印象的だった。ウィスパーボイスのようなその声は、丸山さんが「泥棒役者」で演じる、大貫はじめとしての喋り方に近かった。
西田監督のラジオに出演した際に丸山さんは、映画のエンドロールで曲が流れるということを考えた時、役柄としての余韻のあるところに関ジャニ∞の丸山隆平さんとしての声が聴こえてくることはいいことなのだろうかと考えたと話していた。
通る声で歌うこともできるのかなと思うけど、少しささやくような空気が多めの歌い方にすることで、「泥棒役者」の物語と関ジャニ∞の歌が溶け合うための架け橋になっていると感じた。
バンド曲として際立つギターの音などはもちろん、ストリングスの音色が大切な役割を果たしていると思う。
メインのバンドの音に集中していた視点を変えて、他の箇所にも注目してみると、歌い出しの部分とサビのところでバイオリンなどの音が後ろで支えていて、特にサビ前で一度引いて、サビにきたら一気にストリングスが加わるところは、盛り上がりがしっかりと演出されていた。
バンドはガシガシと明るいメロディーを弾く中、後ろに聴こえるストリングスの弾いているメロディーは切なげで、このバランスが曲に魅力を感じているポイントなのかもしれない。
コード進行のメジャーとマイナーについて、はっきりとは分からないけど、「応答セヨ」は行ったり来たりするそのバランスが絶妙に繋ぎ合わされていると感じる。
ベースの音にも注目すると、2番の錦戸さんのパートは特にベースの音が目立っていて、曲全体を通しても早いスピードで細かく弾いていて、常に忙しく指が動いていそうだった。
今だって 地上でもがいているんだよ 飽きもせず
という言葉と、渋谷すばるさんの声。
“飽きもせず”という言葉に力を入れて歌う渋谷さんの声は、それだけで表情が思い浮かぶほど気持ちが込もっていた。綺麗に歌うこともできるはずなのに、叫ぶように歌ってくれたことが、本当に嬉しかった。
MVに映っていた渋谷すばるさんの表情は思い描いたままで、この言葉からこの表現をする渋谷すばるさんが好きなんだと強く思った。さらっと流さず、顔をくしゃくしゃにして歌う渋谷さんの姿は真摯だった。
応答セヨ 流星
僕を信じてくれた遠い日の僕よ この声が届くかい
夜空に向かって叫ぶように呼びかける“応答セヨ 流星”という言葉に胸が熱くなる。
“応答セヨ”という言葉から感じられる暖かさや冒険心。届かないかもしれないその距離のことを思うと、途方もなくて切なくなる。CDジャケットのデザインにも使われているモールス信号のように、届くかどうかはわからないけれど届いてほしいという必死の願いがこの言葉に表れている気がした。
“僕を信じてくれた遠い日の僕よ この声が届くかい”と呼びかける言葉は、過去の自分へ伝えてあげたい思いが溢れていて、時間軸を超えたその思いに心を揺さぶられた。
君が思うほどは まっすぐに歩いてこれなかったけど
いつかまた逢えたら
大人になったら、こんなふうになって、あんなふうになって…と思い描いていた通りにならないこともある。この一行で、彼が歩んできた道のりが平坦なものではなかったことが伝わった。
今回は渋谷さんのボーカルに丸山さんのハモりが入るところも多く、少年のひた向きさや無邪気さがイメージされる声の相性だと感じた。
さあ 早く行かなくちゃ 約束という名の嘘になる前に
時間に限りがあることを感じるこの歌詞は強く心に残った。
“約束”もそのままに時間が経ってしまえば“嘘”に変わってしまうのだと、はっとした。誰かとした約束も、自分とした約束も、大切にしたいと思った。
見失いそうな時 いつも瞬いて僕を導いたよ 「追いついてみせろよ」
揺るがない道標、星というテーマに心惹かれずにはいられない。
そこにあることを見えなくしているのは自分であることに気づけず、いつの間にか道標を見失った気になっていることがある。だから、揺るぎないものだけを見つめて、“誰にも邪魔なんかさせたりしない”と言い切った彼の決心は強いものだと感じた。
「追いついてみせろよ」
煽るような励まし方が最高だと思った。悔しいような、嬉しいような。泣き笑いしたくなる感情が溢れて、肯定よりも力の湧く言葉だった。
MVはバンドで向き合うように立っていて、ベースの丸山さんが中心で向かい合わせに渋谷さんが立つ景色が新鮮だった。曲としてもベースの音がよく聴こえて、丸山さんがセンターになった曲なんだなという実感が湧いてくる。
そして、歌っているメンバーの表情がとても印象的だった。
曲調は明るく疾走感があるけれど、爽やかに華麗にではなく、全力だった。がむしゃらで、何かに向かって必死に手を伸ばす情熱そのままに、歌も表情も演奏も真っ直ぐで、ひた向きだった。
映画「泥棒役者」の思い出と共に「応答セヨ」が記憶に残ることが嬉しい。きっと曲を聴くたびに、この時の空気を思い出すだろうなと思う。