ジャズ演奏のなか関ジャニ∞が歌うブルース。
ピアノの音色にウッドベース、控えめな指のスナップ音、安田さんの息を飲むほどに透き通る声が聴こえてくると、あまりにムーディーで大人な空気に飲まれてしまいそうだった。
「Street Blues」
メロディーがうっとりするほど綺麗で、安田章大さんの歌い出しから始まるこの曲は、ラブソングという言葉だけでは表せない情緒がある。ピッチに音をしっかり合わせていく歌い方というより、重心は後ろで絶妙な間を挟みながらのテンポ感。
関ジャニ∞のシングル「応答セヨ」通常盤にカップリングとして収録されているこの曲。
タイトルにブルースと入っているのを見た時から、これはしっとりと歌う関ジャニ∞を見られるのではと期待に胸膨らませていた。作詞はSHIKATAさん、作曲はSHIKATAさんとKAYさん、編曲はPeachさん。
スバラジから流れてきたこの曲を、初めて聴いた時の衝撃が忘れられない。
バーのカウンター席に座る姿が一瞬にして思い浮かぶ、そのムード。一人ずつ順に歌っていくパート分けはオムニバスドラマのようだった。「DO NA I」の時にすでに、こんな歌い方をする関ジャニ∞は聴いたことがないと、新たな発見に驚いたばかりだったのに、またも聴いたことのない関ジャニ∞の歌声。
甘いセリフと甘い吐息で君を酔わせて
呆れる程に俺だけを好きにさせてもいいよね?
安田さんの、恐ろしいほどに甘くハスキーな声とファルセット。冬の夜の白い息みたいに、高音になればなるほど儚さを増す歌声。これに酔わされないなんて無理だと思う。
“呆れる程に”という言葉選びがとても好きで、そこでふわっと高音に裏返るところがすごく良い。優しく繊細に歌っていると思いきや、“いいよね?”の“よね”でグッと声が深まるところが、男らしさを意識させる。“て”の部分での声の揺らし方、かすれさせ方も絶妙で、真似しようと思っても出来るものではない。
安田さんは普段、高音のハモりをすることも多いことを考えると、もっとはっきりとした通る声で歌うことも可能なはずだけど、あえてこの声の出し方にしてきたところが本当にズルい。これまではハモラインとして活かしていたのかもしれない歌い方を、今回メインボーカルとして存分に聴くことができた、そんな感覚がした。
少しだけ時間(トキ)をくれないかい? 強がりを越えて
どうしてこの曲の甘い台詞はいやな感じがしないのか不思議に思う。見栄も張らずありのままで、心地いい空気感のなか聴こえてくる言葉はスッと心に溶ける。
時間がほしいと願う心情を表現するのに、こんなに甘く優しい問いかけがあるのかと思った。側にいてほしいでもなく、君の持っているその時間がほしいと考えるセンス。心をゆだねてほしいと語りかける穏やかさ。“強がり”なのは彼女だろうかと思ったけれど、2番の歌詞でも出てくることから、二人ともなのかもしれないと思う。
揺れる心も身も預けて
時計を外した
“時計を外した”という言葉だけで、こんなに情景を描くことができるのかと感動した。時計を外す仕草にドキッとする感覚を覚えたのはこの曲が初めてだった。
そしてここまでのフレーズをすべて安田さん一人で歌いきる、確かな存在感にも心を奪われる。
時間を気にしないでよ、という彼の願いと心の動きを、歌詞として説明や会話で表すのではなく、時計を外すという行動ことから想像できる描写が素晴らしかった。文字通り、時間を気にするのをやめるという意味合いと、見せずにいた心を開く意味合いがあると思った。時間というテーマの中で、“時計”を象徴的に用いるところも素敵だと思う。
安田さんが“時計を外した”と歌う、その“た”の音の息の抜き方が絶妙で、その余韻で誘われるように曲を最後まで導くストーリーテラーのよう。全体的な歌詞の音の流れが、詰めるところは詰めて一息に言って、余白が生まれるところでニュアンスを残すようになっていて、安田さんは特にその溜めが美しかった。“呆れる程に…”の部分は早く、“いいよね?”の部分はゆったりと、そのゆらぎに酔わされてしまうのだと思う。
好きにならせてもいいよね?ではなく、“好きにさせてもいいよね?”とたずねるところに、強引ではなく、その努力を俺にさせてくれないか?というニュアンスを含んだ感じがしていい。クエスチョンマークでの問いかけが、言い切ることはできない心細さを表しているようにも思えて、相手の様子をうかがう彼の性格が伝わる気がした。
直接的な表現ばかりでは引いてしまいそうになるけど、この曲でそうならないのは、文字通りだけではなく心についての比喩としても言葉が使われているからだった。
「甘いセリフと」のあたりは、一拍抜ける感じがワルツのステップみたいで、手を引きエスコートされて相手のペースに飲まれる感覚。錦戸さんのボーカルに合わせてコーラスに入るメンバーの声がふわりと重なるカーテンのようで。
安田さんの歌い出しに続くのは丸山隆平さんの歌声。ジェントルさで包み込んだ安田さんの歌声からロマンチックな丸山さんの歌声へと続くベストマッチすぎる流れに、止まることのないムード。ブルースとジャズの空気感を心行くまで味わうことのできる旋律に魅了される。
丸山さんのパートで出てくる、“不意に見せた横顔”はどんな表情だったのだろうと想像すると、その情景はさらに広がる。暗い表情をしていたのか、切ない表情なのか、それとも微笑んでいるのか。オムニバスドラマのように想像するなら、それぞれにヒロインのイメージは変わってくるかもしれないし、その時の表情も様々かもしれない。
2番に続く渋谷すばるさんは1番の安田さんと同じメロディーラインのパートを歌っていて、“俺の肩に”と“外した”の歌い方を安田さんと揃えているように聴こえた。
それぞれの主旋律を歌う声も素晴らしいけれど、この曲で感動したのはコーラスの美しさ。間奏で「Uu-Uu-Uu-」の後に「ah-」と、一人ずつボーカルが重なっていくところが本当に綺麗で、声を張らない息の多い声の出し方は独特の魅力があり、耳が癒される。
強調される楽器の音がない分、声がそのままに耳に届き、それぞれの声質がしっかりと聴き取れることも嬉しかった。
曲の終盤、“愛の魔法で”という歌詞を合図に、安田さんが再びメインボーカルへ。
ひとつ うなずいてくれないかい? 言葉を飲み込んで
揺れる心も身も預けて
瞳を合わせた
“ひとつ うなずいてくれないかい?”という問いかけの威力が凄い。言い切られるよりも心に引っかかるそのテクニックをどこで覚えたのか。その後に続く“言葉を飲み込んで”という歌詞に、問いかけながら本当はなにも言わせたくない本心を感じてグッとくる。
そして最後に、これほどロマンチックな中での終わりに唇ではなく“瞳を合わせた”という歌詞がくるところが堪らなかった。二人は隣同士で座り、それまであまり目を見合わせたりはしていなかったのだろうか。やっと二人の目が合った瞬間の空気感さえ胸に押し寄せてくるようで、その繊細なニュアンスを歌声で表現した安田さんに最後まで魅せられた。
今の関ジャニ∞が歌うと最高なものを次々に目の当たりにしているけれど、「Street Blues」もまた、今の年代だからこそ持たせることのできる曲の深みを感じる。
肩の力を抜いた余裕と、大人の本気を見せつけられた気がした。