ぐしゃぐしゃな気分のとき聴きたくなるプレイリスト

 

ぐしゃぐしゃな気分の時、その気持ちを増幅させるのでもなく、突き放すわけでもない、丁度な温度の曲を欲してプレイヤーのなかを探すことがある。

怒りを感情として出すことも、そういった思いを言葉に変えることもほとんどしないけれど、唯一、曲のチョイスのなかではその感情が素直に出る。

今聴く頻度の高い曲を、3曲紹介したい。

 

UNISON SQUARE GARDEN 「mix juiceのいうとおり」

グランドピアノの音で始まって、ドラムのスネアとベースの音がビートを刻みだす。

明るいメロディーに重なるのはハイトーンなボーカル。疾走感があるけれど、どこか漂う物悲しさが魅力的で、自由自在に動き回るピアノの音色が、ドラム、ギター、ベースのにセッションを挑んでいるような渦をつくりドキドキを煽って、裏打ちのリズムがさらにその高揚感を上昇させる。

歌詞の言葉の音数とメロディーがぴったりと足並みを揃えていて、耳に心地いい。歌詞の世界観も、“ハンプティダンプティ”や“12時過ぎても解けない”など、リアリティーのなかにおとぎの国のエッセンスが合わさって、現実を直視しながらも遊び心を忘れないお茶目さがワクワクさせる。

 

ボーカルの斎藤さんの歌い方が、淡々としたトーンの歌い方とシャウトするところとの緩急をつけていて、その強めた語尾が爽快感になる。

MVが期間限定でYouTubeに公開されていて、それがまた最高にツボだった。ピアノを弾く手元に、上から撮るカメラ。

ソファーに寝転び赤いエレキギターを持つ姿は目で見る格好良さの極みで、重力に逆らい上から撮るという視点にも惹かれる。この撮影方法のおかげでドラム演奏がよく見えるのも楽しい。色とりどりの傘というアイテムも、日常で見慣れたはずの物が、真上から見てみることで非日常のように感じられる。

暗い気分だからって暗い曲を聴きたい訳じゃないというややこしい気分の時に、ユニゾンスクエアガーデンの「mix juiceのいうとおり」はぴったりだった。

 

関ジャニ∞「Tokyoholic」

心穏やかばかりではいられない時に、その感情何かしらの原動力にならないか…と思うと聴きたくなるのは「Tokyoholic」

“I'm so damn hungry…”の歌い出しで、物足りなさや歯がゆさを空腹の時に感じる苛立ちに重ねて表現していて、睨みをきかせる強気な感情も、“そんな上から見んなやこっちも必死なんじゃ”と言いたくなる感情も吐き出しながら、ねちっこさはなくカラッとしている。曲から感じる海外の空気そのままに、乾いていて土埃が少し舞うような湿度のない空気に、爽やかささえ感じる。

“渇き”を曲で表現するという情景描写の巧みさにも驚く。「Tokyoholic」というタイトルで、ビル群を思い浮かべながら、同時にウエスタンのような茶色い土埃のイメージも思い浮かんだ。

他者への攻撃的姿勢ではなく、自分自身に向けた感情が強いところも魅力だと感じる。打破したい現状に足掛かりを見つけられず、足掻く心情の時、この曲ならきっと寄り添ってくれる。

 

高橋優「虹」

自分の感情と向き合って、それはもう分かったからどうにか歩みを進めたいと、思いが前を向きだした時に聴きたくなるのは「虹」

タイトルは「虹」で、雨のあと晴れた空に見える色鮮やかな景色だけど、曲の歌詞で描かれているのは、その景色を信じて色のない道のりでも足を進めることだけはやめない、地を這うような強さ。強い人の中に強さがあるのではなく、弱い人の中に強さがあるのだと感じたのは高橋優さんの書いたこの詞を読んだからだった。

“「やめちまえばいい」「諦めろ」と囁く自分に”という歌詞を聴くたびに、背筋が伸びる思いがする。周りが、誰かが、ではなく、その言葉をかけているのは自分だと気づかされる。

 

その手をかざせば 夢に届きそうだ

奇跡を待ちはしないよ それを起こしに行くんだろう  

真っ直ぐそのまま、この言葉を信じられたら。

思いもしない出来事を期待するため、奇跡を待たずに起こしに行く姿勢は、最も貫きたい理想の姿だった。 

 

 

どんな気分の時に、どんな曲を選ぶ傾向があるのかを自分で分析してみるのはおもしろい。

一つに限らず、ライブ前日に聴きたくなる曲、雨の日に聴きたくなる曲、朝に聴きたくなる曲と、シチュエーションは何通りもある。様々なプレイリストとして「〜の時に聴きたくなるプレイリスト」でシリーズになりそうだと思った。

いろんな人の自分なりのプレイリストを聴いてみたい。

 

「Can't take my eyes off you」−君の瞳に恋してる−

 

好きな洋楽は?と聞かれて一番に思い浮かぶのは

「Can't take my eyes off you」

日本語版タイトルは「君の瞳に恋してる」しっくりくる訳し方はこれ以外にないと思う。メロディーもサビの盛り上がりも、歌詞もタイトルも、そのすべてが好きで仕方ない。

 

惹かれるのは、和訳がなくてもその英語から溢れて伝わる、切実な胸の内。

“Fall in love”では足りない“Into you”レベルのベタ惚れ感。洋楽ならではの、ベタ惚れさえ隠さないオープンさ。しかもその弱々しさが、むしろ一枚上手な余裕にさえ見えてかっこいい。

このニュアンスを関ジャニ∞が歌うと「イッツマイソウル」になるのかなと思う。そして今の関ジャニ∞なら「Street Blues」のイメージに近い。

 

ポピュラーで広く知られている曲だけど、シンプルで真っ直ぐだからこそ、実は訳すことが難しい曲なのではと感じている。

これまでいくつもの日本語訳がついてきた曲だけど、この曲の温度感をそのままで表すことは簡単ではない気がしていて、ただ英語の通りに和訳してしまうとニュアンスがわずかに違う感じがする。英語表現だからこその言葉選びがそこにあり、日本語のわびさびなどが英語に訳しずらいのと同じように、この曲の歌詞に出てくる言葉は日本語に言い換えることが難しいと思う。意味は伝えられても、意図が伝わりずらいような。

映画「SING」の日本語歌詞訳をしていた、いしわたり淳治さんの訳詞を読んで、洋楽をこんなに繊細に日本語へと置き換える人がいるんだと感動して、いしわたり淳治さんの訳す「Can't take my eyes off you」をいつか聴きたいと思った。

インパクトがあるけれど、曲は約3分でわりと短い。「Can't take my eyes off you」はシンプルなようで、思うよりもさらに奥深い曲だと感じた。

 

日本でよく聴くのは、ディスコ版のアレンジがされている1982年「ボーイズ・タウン・ギャング」 という方の女性ボーカル。

オリジナルは1967年で「フランキー・ヴァリ」という男性ボーカルで、「フォー・シーズンズ」という男性4人グループのなかのメンバー、フランキー・ヴァリがソロで出した曲だった。

ディスコ版もいいけれど、フランキー・ヴァリの歌う「Can't take my eyes off you」はスローテンポでしっとりと歌い上げていて、この曲はバラードとして歌われるとグッと深みを増している。曲を知ったきっかけは女性ボーカルだったけど、自分にとっての曲のイメージは男性ボーカルになった。

 

有名だからこそ、様々なアーティストのカバーで歌われ尽くしている印象もあって、アレンジが強めだったり個性が濃いものも多い。個人的には、明るくはっちゃけているアレンジよりも少しシリアスさのある空気感が好きだと思った。それぞれ好みなので、自分の聴きたいベストな「Can't take my eyes off you」を探すことも楽しみのひとつだと思う。

ディスコ版のアレンジでは、Little Gree Monsterの歌っていたニュアンスが自分にとっての理想に近かった。アルバム「Joyful Monster」通常盤に収録されている。

男性ボーカルでは、NHK少年倶楽部というジャニーズの番組で披露された、マリウス葉さん・ジェシーさん・カウアンさん・増田さんの4人で歌っていたパフォーマンスが素敵だった。ハーフの4人で、曲の世界観を照れなくしっかりと表現していて、歌声もぴったりだった。

歌番組で表示される日本語訳にも個性が様々あって、この曲が歌われる時はいつも注目して見る。

 

歯の浮くようなセリフもさらっと言われると成立してしまうマジック。

そして恋に浮かれる気分だけではなく、どこか切なげな哀愁がある。

You'd be like heaven to touch

At long last love has arrived 

“like heaven to touch”という表現で、天にさえ手が届きそうな、という言い回しを使うところも、“At long~”で“arrived”という【たどり着く】の過去形を使って、愛にたどり着いたと表すところも、英文の美しさに心を掴まれる。比喩表現は日本語にも様々あるけれど、英語だからこその例え方があり、その魅力に気づくと洋楽の歌詞カードを見るのも楽しくなる。

 

The sight of you leaves me weak 

 というフレーズからの流れで

But if feel like I feel 

に繋がる詞が、特に曲のなかで印象深い。

“feel like I feel”の表現が良い。もし、同じことを感じていたら…というニュアンスの描かれ方が繊細で、自信ありげな強気な感じというよりも、儚くて、そっと触れなければパリンと割れてしまいそうな氷のシャボン玉のようだと思う。

熱烈で確かな意思の中にふと垣間見える、弱さが絶妙だった。

 

“But if feel like I feel”に続く詞は、

Please let me know that is real

となっていて、この2行のフレーズ。ここが最高に素晴らしいと思う。

余裕あり気で紳士的な言い回しをするなら、Could you~などの言い方もあると思うけれど、ここで“Please”と願う切実さ。丁寧語でもないことから、心を打ち明けている心境を読み取れる気がする。

 

そして、

You're  just too good to be true

I can't take my eyes off you

と続くオチの美しさ。一編の小説を読んでいるかのような波と揺らぎがある。

歌い出しでも歌われる同じフレーズを、ここへきて乗せるメロディーを変えて、低音の下っていくメロディーで落ち着くムードに持っていくところは巧みな緩急だと感じた。

 

一度落ち着いたムードの後に、“I love you baby”でグッと引き上げられるサビがきて、恋の有頂天と急降下の紙一重で揺れ動く心情そのもののような曲の構成に、心奪われずにはいられない。

この曲の詞のなかで好きなのは

Trust in me when I say 

というフレーズで、特に“Trust”という言葉。【信頼】という意味のこの言葉は、ディズニーの映画「アラジン」でも“Trust me!”というセリフで使われていて、アラジンがためらうジャスミンに手を差し伸べながら言う言葉。この曲でもこの単語が登場して、僕の言葉を信じて、というような意味合いを持っているところにグッとくる。

 

 

何度も耳にして、すでに無意識のうちにイメージを持っているかもしれないヒットソングも、まだちゃんと一対一で出会っているわけではない。昨日出た新曲のように聴いてみると、自分で感じた全く新しいイメージを曲に持つことができて楽しいということを知った。

年代も国も境なく、心揺さぶられるものはあると音楽に触れるたびに思う。

 

今回、「Can't take my eyes off you」について知るために、オリジナル曲を歌っていたフランキー・ヴァリに繋がる「フォー・シーズンズ」を調べて、映画「ジャージー・ボーイズ」を観た。

ここぞというところで流れてくる「Can't take my eyes off you」は、待ってましたと言いたくなるほど待ち焦がれた、懐かしくも新しいあのメロディー。

聴けばたちまち胸がドキドキしてくる、この曲はそんな魅力に溢れている。

 

坂元裕二さん脚本ドラマ「anone」を心待ちにして

 

ドラマを見るのが好きで、日々の楽しみになっている。

今日は月曜日だからこのドラマ、今日は金曜日だからあのドラマと、時間の流れをドラマで感じる。

春・夏・秋・冬と4期に渡って、各放送局が制作するドラマ。3ヶ月に渡り見続けていると、最終回の頃には愛着が生まれ、もう来週は見られないのかと寂しくなる。

3ヶ月、という期間は意外と長い。あのドラマを見ていた頃にすごしていた時間はどんなだったと、ドラマの空気感と共に記憶していることも多い。このドラマを一週間のご褒美として、置かれている状況を乗り越えるんだと闘っていたことや、このドラマを見終えるたびに感想を送り合い楽しんでいたなということを、鮮明に思い出す。

 

ふと、自分の好きなドラマは何だろうと思い浮かべてみた。

リアルタイムで見ながら録画して、今だに大切にとってあるディスクは、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「カルテット」「問題のあるレストラン」「深夜食堂」などだった。

よく飽きないと自分でも思うくらいに何度も何度も見ているのは、初めに挙げた3つ。そろそろセリフを空で言える気がする。見事に坂元裕二さんの作品ばかりで、なんてわかりやすいんだろうと思った。

 

いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「カルテット」「問題のあるレストラン」の3つは、坂元裕二さんの作品の中でも断トツに好きな作品。

ほかの作品も見ていて、「Woman」や「それでも生きてゆく」は深く深くに刺さる針のように心に残って、容易く好きなドラマだと言うことはできない。あれは、ドキュメンタリーだと思っている。

坂元裕二さんの脚本で日テレがドラマを制作する時の空気は独特だと思う。それが局からのオーダーによるものなのか、坂元裕二さんの書きたいと思うタイミングと重なるからなのかはわからないけれど、グワー…っと心に重りがのしかかるような感覚。後味は決してよくない。ならば見ないという選択もできるのだけど、目を背けるわけにはいかないという気持ちに駆られるのも事実。

 

水曜日から「anone」[あのね] という坂元裕二さん脚本のドラマが始まる。

日テレで、主演は広瀬すずさん。坂元裕二さんの作品に空気レベルで馴染み、多く出演する瑛太さんや、阿部サダヲさん、小林聡美さんの出演も決まっていて、とくに阿部サダヲさんと小林聡美さんはとても好きな役者さんで、坂元裕二さんの書くあの口語調の温度感をどう話すのか、楽しみで仕方ない。

「Mother」は幼い子供が直面する世界を描いていた。「Woman」は二人の子供を育てる母の姿が描かれていた。今回の「anone」では、少女が生きる術を探す姿が描かれる。

 

「Woman」でも、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」でも、坂元裕二さんは貧困の存在をないものにしない。今回のドラマの主人公も、清掃のアルバイトをしながらネットカフェで暮らす19歳。

坂元裕二さんが主人公である彼女の生き方をどう描くのか、周囲にいる人々の行動はどのようなものなのか。そこに救いはあるのか。

きっと息をつくのも忘れてしまいそうなその時間を、3ヶ月間見つめていたい。