飾らない言葉できみに。関ジャニ∞「I wish」

 

空気が澄んで寒くなるこの季節。

大好きな冬の歌のなかでもいま特に聴きたくなるのは、関ジャニ∞の「I wish」

アルバム「8EST」に収録されていて、この曲が入っているディスク2は後半7曲が冬がテーマになっている歌という、冬の歌好きにとって堪らないアルバム。

 

スキップするような弾むドラムのリズムに自然と足取りも軽くなる曲調に、歌詞の言葉は静かで優しい。全体的にドラムの印象は穏やかでやわらかい。

サビの歌い出しが“just maybe”なところが可愛らしくて好きで、大文字始まりではなく小文字で表記されているところに、ちょっと気の小さい性格が表れている気がしてキュンとくる。英語のニュアンスとしても色々な解釈ができて、つまりきっと、だからきっと、というような言葉のワンクッションがある柔らかさがある。

そこに続く“Ah…”のメロディーも、歌声をゆらして“Ah-Ah-Ah-”と歌うところに、ゆらぐ音の心地よさがあって、コーラスのようなAh-のメロディーをそのまま主旋律にして歌っているおもしろさもある。

曲の流れもユニゾンが多く、2人ずつ声が聴こえる。“もどかしい日々に…”のパートの丸山さんと村上さんの声の重なりは特に、2人の声の相性の良さが表れていて、1人と1人の声というよりも、溶け合う感じがする。

 

言葉選びが好きだなと思う歌詞の中でも、

もどかしい日々に ×(バツ)を重ねた

という表現がとても好きだと思った。

待ち遠しい予定をカレンダーに書き込んで、その日が来るまで1日ずつ毎日バツの印をつけていく描写から、その日を心待ちにしている彼の様子が思い浮かんで、時間の厚みを感じることができる。

カレンダーにはバツを書くタイプの人なんだなという人物像もイメージできて、そのまま“もどかしい”とだけ表現するのではなく、“日々に×を重ねた”という言い方にしているところがすごい。

 

覚えたての手品 ちょっと見ておくれよ

魔法と呼ぶにはだいぶ遠いケド

恋人を楽しませたいという思いと、“魔法と呼ぶにはだいぶ遠い”という言葉選びが彼の可愛らしさを存分に表している歌詞で、素敵だなと思う。

ピアノのソロに続くエレキギターのソロは男心を表しているように感じられて、歌詞の静かな印象とは対照的に熱い心の内を見ることができる。

 

この曲はどことなく、夜というよりも昼のイメージがある。

色付く季節に乗り遅れる事の無いように いつもより急ぎ足さ 

と始まる歌い出しを聴いていてふと、コートを着て街の中を急いで歩く様子が思い浮かんだ。もしかすると、まだ自分が気づいていなかったストーリーがこの中にあるのかもしれないと思い、歌詞をあらためて文字で見ることにした。

右のポケットに手を何度も確かめるこの気持ち

この歌詞をずっと、彼女の手を握る描写だと思っていた。それもそれでいいけれど、あらためて歌詞全体を見てみると、電話越しには話しているものの恋人に実際に会っているのは歌のラストなのかもしれないと感じた。

歌詞の中にある、“約束しないか?”という文字を見て、彼はプロポーズを決意しているのではと。

 

そう考えると、1番の歌詞の“右のポケット”にあるのはきっと、指輪の入った小箱。

だから“Please say 「YES」”なんだと、自分のなかですべてが一致した。

今までは何となく可愛い歌で好きだなと思っていて、イメージにあったのはとびきり仲のいいカップル。歌詞カードを見ずにいると、思いのほか感覚で聞いているものなんだなと実感した。新たな発見ができたことで、この曲のイメージがプロポーズ直前のグッと大人な空気感に変わった。

 

 

思い出す一年の結論はいつも君だから

どうかPlease say「YES」 他に何もいらない

頼りなくも僕の腕に包まれておくれ

 

こんなにほほえましくて優しい歌詞。

“思い出す一年の結論はいつも君だから”という言葉の、ロマンチックさとリアルさのバランスが素敵で。そしてやっぱり、“どうかPlease say「YES」”という歌詞の切実さが好きで、きっと受け入れてくれるはずと思いながらも、その答えに確信が持てない心細さと願いが、狭間でゆれ動く男心という感じがしてグッとくる。

 

年内の関ジャムの放送も終わり、今年も残すところあとわずか。

“思い出す一年の結論はいつも君だから”という歌詞は、きっと関ジャニ∞と丸山さんへの思いにも当てはまる。

 

西田征史監督 ティーチインイベント「泥棒役者」

 

迷いに迷って、どうしても行きたくて行こうと決めた、映画「泥棒役者」西田監督のティーチイン。

ティーチインへの参加そのものが初めてで、客席から質問を募って答えてもらうことができると知ってから、どんな質問をしよう…と一生懸命考えて。イベント当日も、映画館近くのカフェで質問の言葉を練りに練り、緊張しすぎて動悸は止まらないしで、学校の発表会当日のような気持ちに。

そういえば小学生の頃から、授業での挙手はとてつもなく苦手だったと思い出しながら、それでも行こうと決めたのは、西田監督が「泥棒役者」についてお話しするところを自分の目で見たいという気持ちが緊張を超えるほど強くなったからだった。時々出る謎の行動力。こういう場面で、持っていてよかったなと実感する。

 

何度観ても「泥棒役者」の空気感は心地よくて、それぞれの登場人物たちのほぐれていく笑顔を見るたび、自分の気持ちもほぐれていく感覚になる。

上映が終わり、西田監督が登壇されて早速質問タイムがスタート。ここでシャキーン!と挙げられたなら…と思いながらも様子を見てしまい、2、3回目から頑張って挙手。ノートに書いた5つの質問を握りしめて、心臓バックバク。自分で手を挙げていながら、当たったらどうしようこっち向いたらどうしよう…!と行動と思考が正反対。

西田監督が司会の方に「みなさんお聞きできますか?」と聞いたくらい、質問をできるなら全部聞きたいという西田監督の気持ちが伝わってきて、全体の雰囲気もだんだんとほぐれて温まっていくのを感じた。

質問に答える時も、西田監督は質問をした方のほうをしっかりと見て目線を合わせていて、素敵だなあと思った。

 

質問の内容と答えについては「泥棒役者」の公式ホームページで細かくレポートされていたので、そちらを…

興味深く聞いていたらあっという間に時間は過ぎて、最後の質問に。最後の一人を選べない…と弱気になる西田監督。スタッフさんに、選んでくださいっとお願いしていたのが印象的で可愛らしかった。

 

質問タイムが終わり、フォトセッションへ。

なんとタマが登場。わあっと上がる声にタマの人気を感じる。歩いていく足取りをみんなが見守り、ステージ上に上がりましょうかとタマの背中を押してサポートする西田監督。まずはマスコミ向けの写真をという流れで、笑顔でお願いしまーすと言われて、西田監督が「タマも笑顔っ」とタマに声をかけていたのが面白くて、タマはもともと微妙に笑顔だ…と思いながら見ていた。

その後に、お客さんも写真を撮っていいですよーという時間があって、めずらしいなと思いながらも嬉しかった。左側からぐーっと右に視線もずらしてくれて、西田監督はタマの大きい顔に押され気味になっていた。

タマが登場した時に、西田監督がタマはあちこち全国をまわっているけど案外綺麗なんですよ、綺麗なタマです。と紹介していて、確かにお仕事の量のわりに綺麗なまま保たれていると思ってた…!と思った。タマは綺麗。

 

泥棒役者」は監督と脚本どちらも西田征史さんで、もともとの舞台「泥棒役者」の演出をしていたのも西田征史さん。

だからこそ、細かな部分についてのお話を聞くことができるんだなと思うと、今回のティーチインも貴重な時間だったと感じる。作品について話しをする西田監督の表情は真摯で、大切にされている作品なんだなということが伝わってきた。

 

 

西田監督はティーチインの最後の挨拶で、声を出して映画を観られる応援上映を「泥棒役者」で出来たらと話していた。映画館のスタッフさんにその場でお願いしますっとアピールしていて、応援上映についてはご自身のラジオでも話していた。

そして昨日、その応援上映イベントが実現した。

決まりかけていたのか、あの時決まったのか順番はわからないけど、やりたいことを口にしていくことの重要さを西田監督の行動力から思った。

 

質問をしたのは6人くらいで、自分は質問ならずだったけど、この場に来て自分の目で見て、耳で聞いて。手を挙げるところまで出来たことで充分かなと思う。

泥棒役者」でティーチインを企画してくれて、迷ったままで終わらず参加できてよかった。

 

流れ星はゆめの色。漫画「モディリアーニにお願い」

 

キラキラとした星空の中、流れ星を見つけて手を伸ばす。

本を開くと、モノクロのページがカラーのように、鮮やかな景色を映し出してくれる。鮮烈な力を持つ漫画を見つけた。

 

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モディリアーニにお願い」相澤いくえさんの作品。

美術大学に通う男の子3人の物語。東北にあるその学校で、作り出す作品と向き合い、人と向き合い、これからを探す。

考えているけど、抽象的で言葉に変えることができないこと。分かっているけど、それを言葉にしてしまうことが恐いこと。そんな隠れやすい、単純ではない心の機微が表現されている漫画だった。

漫画を知ったきっかけは、たまたま目にしたイラスト日記で、可愛いカッパとキリンさんの編集打ち合わせ日記にほんわか癒されたことから。絵の可愛さだけでなく、何かを作り出すなかでの葛藤もそこには表れていて、まだまだな自分でも同じ思いを感じることがあると勇気づけられていた。イラスト日記を読んでいるうち、「モディリアーニにお願い」は今の自分に読む必要のあるものなのではないかと感じるようになった。

本屋さんを探し回り、ようやく買うことができた時は、そわそわ落ち着かず嬉しかった。少年漫画のコーナーを普段は見ないので、ドキドキしながら探した。小学館ビックコミックスのコーナー。単行本は2巻まで出ていて、1冊ずつ買おうかなと思っていたのに、我慢できなくて2冊一緒に買った。

 

そのままカフェに入って一気に読んだ。途中で止められなかった。誰もいない所で読んでいたら、泣いていただろうなと思う。

すごく。すごくおもしろかった。笑いながらテンポよく読み進めていけるのに、根底にあるテーマは切実だった。柔らかく丁寧な唯一無二の語り口で、誰とも話せず分かってもらえると思えなかった話を、二人でしているような気持ちになった。こういう話をずっとしたかった。

何かを作っていくとき、抱えずにはいられない葛藤が、繊細に、しかし力強く描かれていた。

 

一目見た時から、心を掴まれた絵がある。

それは流れ星の絵。スケッチの写真に写っていた絵のなかのひとつだった。その絵は単行本で背表紙に使われている。1巻と2巻で色に変化があって、すごく素敵な色使い。なぜかこの絵が心に残って忘れられなかった。

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相澤いくえさんが描く星の絵が大好きだ。夢の色って、こんな色だ。

自分にとって、胸に抱く夢の色はこんな色だと、一目見て思った。目に見ることのできないものを、目にすることができた気がして嬉しくて、確かにここにあるんだと感じられて、ほっとした。

 

 

美大生の男の子3人は、それぞれに考える。

才能ってなに? いつかって、いつ? もし、この手のなかに何も無かったら…?

その思いが今自分が感じている思いに染み込んで、他人事と思えなかった。

考えて答えが出るとは思えないのに、考えずにはいられないあれこれを、気のせいや、無い感情ではなく、確かに存在する感情として拾い上げてくれたことが救いだった。

 

1巻の1話で、ミズノ先輩は

「頑張り続けるのはつらいよ。頑張ってね!」 

と言葉をかける。その通りだと、思った。“頑張ってね”という言葉に感じる深さはそういうことだと思った。その重みも意味も分かった上で「頑張ってね!」と言葉にするミズノ先輩がよかった。

 

2巻の8話で、藤本くんが絵を描きながら、

 「この一枚で運命が変わるとしたら、絶対に、手を抜いちゃいけないんだ、今は。」

と一人考えながら黙々と絵と向き合う場面がある。

“この一枚で運命が変わるとしたら、”という言葉に胸を打たれた。これからへの真っ直ぐな期待。それほどの思いで作品を作る気持ち。いつになるかなんて、どうなるなんて分からないけど、でもいつか、そのいつかを信じて向き合い続ける強さ。

10話には、

「絵は、自分よりも自分だから、」 

という言葉が出てくる。本当にそうだと思った。

どうしても自らの心境に照らし合わせてしまうのは、自分自身がスランプのような穴にポッカリと落っこちてしまったからかもしれない。どう脱出していいのか分からず、流れに身を任せることにしたけれど、そう思えるまでは漠然とした不安のなかだった。

だからこそ、「モディリアーニにお願い」にいま出会えたのは大切なことだった。

 

11話の藤本くんのお話も、自分を信じられない自分の話。

心を揺さぶられた。特に、28ページ目にくる真ん中の絵が印象に残った。

走って、胸を突き抜けた星。倒れても、胸に掴んだ星を握りしめてまた走る。

考えずに、悩むことなく進めるのならどれほどいいかと思いながら、それでも時折立ち止まり、途方もなさに呆然と立ち尽くすことがある。そうしながらも結局は走らずにはいられなくて、藤本くんの姿に思いを重ねて読んでいた。

 

将来性、才能、天才

そのどれもが形などなく目に見ることのできないもので、例え他者からそれを評価してもらえたとしても、自分がそこに気づいていないならそれは伸びていくことができない。1巻で描かれていたように、才能が芽を出して、その背景に努力があったとしても、簡単に“才能だから”と言い放たれてしまえば積み重ねが無かったかのようで、やるせない思いが湧き起こるのだと思う。

 

届けたくて、知ってほしくて、わからないまま続けていく。

“何者かになりたい”その思いに、冷たい言葉が投げられるかもしれない。もしかすると、自分自身がそれを一番思っているのかもしれない。自分はここにいる!と声を上げ続けるということは、あてのない夜空にさけぶようなもので、聞こえているのか、誰がそこにいるのかもわからない。

2巻の最後に綴られる言葉はドキリとするほど“本当”を描いていて、そんな中であったとしても歩んでいくことを決めた、本吉くん、千葉くん、藤本くんの3人を見つめていきたいと思った。

 

相澤いくえさんの描く絵は、キラキラしている。お星さまもお魚も。

そしてそれぞれの登場人物が話す言葉からも、ただ綺麗なのではない足掻いているからこその美しさを感じる。一人夜のなかにいるような気になる時も、もしかすると彼らの町の夜空のように、沢山の星は空にあるのかもしれないと思えるようになった。

心に残り続ける作品に出会えてよかった。単行本を1冊ずつ本棚に並べていくのを楽しみにしながら、私は「モディリアーニにお願い」を胸にこれからを進んでいける気がしている。