流れ星はゆめの色。漫画「モディリアーニにお願い」

 

キラキラとした星空の中、流れ星を見つけて手を伸ばす。

本を開くと、モノクロのページがカラーのように、鮮やかな景色を映し出してくれる。鮮烈な力を持つ漫画を見つけた。

 

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モディリアーニにお願い」相澤いくえさんの作品。

美術大学に通う男の子3人の物語。東北にあるその学校で、作り出す作品と向き合い、人と向き合い、これからを探す。

考えているけど、抽象的で言葉に変えることができないこと。分かっているけど、それを言葉にしてしまうことが恐いこと。そんな隠れやすい、単純ではない心の機微が表現されている漫画だった。

漫画を知ったきっかけは、たまたま目にしたイラスト日記で、可愛いカッパとキリンさんの編集打ち合わせ日記にほんわか癒されたことから。絵の可愛さだけでなく、何かを作り出すなかでの葛藤もそこには表れていて、まだまだな自分でも同じ思いを感じることがあると勇気づけられていた。イラスト日記を読んでいるうち、「モディリアーニにお願い」は今の自分に読む必要のあるものなのではないかと感じるようになった。

本屋さんを探し回り、ようやく買うことができた時は、そわそわ落ち着かず嬉しかった。少年漫画のコーナーを普段は見ないので、ドキドキしながら探した。小学館ビックコミックスのコーナー。単行本は2巻まで出ていて、1冊ずつ買おうかなと思っていたのに、我慢できなくて2冊一緒に買った。

 

そのままカフェに入って一気に読んだ。途中で止められなかった。誰もいない所で読んでいたら、泣いていただろうなと思う。

すごく。すごくおもしろかった。笑いながらテンポよく読み進めていけるのに、根底にあるテーマは切実だった。柔らかく丁寧な唯一無二の語り口で、誰とも話せず分かってもらえると思えなかった話を、二人でしているような気持ちになった。こういう話をずっとしたかった。

何かを作っていくとき、抱えずにはいられない葛藤が、繊細に、しかし力強く描かれていた。

 

一目見た時から、心を掴まれた絵がある。

それは流れ星の絵。スケッチの写真に写っていた絵のなかのひとつだった。その絵は単行本で背表紙に使われている。1巻と2巻で色に変化があって、すごく素敵な色使い。なぜかこの絵が心に残って忘れられなかった。

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相澤いくえさんが描く星の絵が大好きだ。夢の色って、こんな色だ。

自分にとって、胸に抱く夢の色はこんな色だと、一目見て思った。目に見ることのできないものを、目にすることができた気がして嬉しくて、確かにここにあるんだと感じられて、ほっとした。

 

 

美大生の男の子3人は、それぞれに考える。

才能ってなに? いつかって、いつ? もし、この手のなかに何も無かったら…?

その思いが今自分が感じている思いに染み込んで、他人事と思えなかった。

考えて答えが出るとは思えないのに、考えずにはいられないあれこれを、気のせいや、無い感情ではなく、確かに存在する感情として拾い上げてくれたことが救いだった。

 

1巻の1話で、ミズノ先輩は

「頑張り続けるのはつらいよ。頑張ってね!」 

と言葉をかける。その通りだと、思った。“頑張ってね”という言葉に感じる深さはそういうことだと思った。その重みも意味も分かった上で「頑張ってね!」と言葉にするミズノ先輩がよかった。

 

2巻の8話で、藤本くんが絵を描きながら、

 「この一枚で運命が変わるとしたら、絶対に、手を抜いちゃいけないんだ、今は。」

と一人考えながら黙々と絵と向き合う場面がある。

“この一枚で運命が変わるとしたら、”という言葉に胸を打たれた。これからへの真っ直ぐな期待。それほどの思いで作品を作る気持ち。いつになるかなんて、どうなるなんて分からないけど、でもいつか、そのいつかを信じて向き合い続ける強さ。

10話には、

「絵は、自分よりも自分だから、」 

という言葉が出てくる。本当にそうだと思った。

どうしても自らの心境に照らし合わせてしまうのは、自分自身がスランプのような穴にポッカリと落っこちてしまったからかもしれない。どう脱出していいのか分からず、流れに身を任せることにしたけれど、そう思えるまでは漠然とした不安のなかだった。

だからこそ、「モディリアーニにお願い」にいま出会えたのは大切なことだった。

 

11話の藤本くんのお話も、自分を信じられない自分の話。

心を揺さぶられた。特に、28ページ目にくる真ん中の絵が印象に残った。

走って、胸を突き抜けた星。倒れても、胸に掴んだ星を握りしめてまた走る。

考えずに、悩むことなく進めるのならどれほどいいかと思いながら、それでも時折立ち止まり、途方もなさに呆然と立ち尽くすことがある。そうしながらも結局は走らずにはいられなくて、藤本くんの姿に思いを重ねて読んでいた。

 

将来性、才能、天才

そのどれもが形などなく目に見ることのできないもので、例え他者からそれを評価してもらえたとしても、自分がそこに気づいていないならそれは伸びていくことができない。1巻で描かれていたように、才能が芽を出して、その背景に努力があったとしても、簡単に“才能だから”と言い放たれてしまえば積み重ねが無かったかのようで、やるせない思いが湧き起こるのだと思う。

 

届けたくて、知ってほしくて、わからないまま続けていく。

“何者かになりたい”その思いに、冷たい言葉が投げられるかもしれない。もしかすると、自分自身がそれを一番思っているのかもしれない。自分はここにいる!と声を上げ続けるということは、あてのない夜空にさけぶようなもので、聞こえているのか、誰がそこにいるのかもわからない。

2巻の最後に綴られる言葉はドキリとするほど“本当”を描いていて、そんな中であったとしても歩んでいくことを決めた、本吉くん、千葉くん、藤本くんの3人を見つめていきたいと思った。

 

相澤いくえさんの描く絵は、キラキラしている。お星さまもお魚も。

そしてそれぞれの登場人物が話す言葉からも、ただ綺麗なのではない足掻いているからこその美しさを感じる。一人夜のなかにいるような気になる時も、もしかすると彼らの町の夜空のように、沢山の星は空にあるのかもしれないと思えるようになった。

心に残り続ける作品に出会えてよかった。単行本を1冊ずつ本棚に並べていくのを楽しみにしながら、私は「モディリアーニにお願い」を胸にこれからを進んでいける気がしている。