衝動が気持ちを押して、追いつく言葉 ー 緑黄色社会「Mera!」

 

音は耳にしていて、だけどひたすらに明るいムードだけを感じて踏み込まずいた。

歌詞の言葉に気づいて、“僕”と“君”の関係性が弱くも強く、眩しい輝きを放っているのではと直視してから、頭の中でリフレインする。

 

緑黄色社会Mera!

作詞:長屋晴子さん、小林壱誓さん

作曲:peppeさん、穴見真吾さん

 

歌い始めの二行を聞く機会は多かった。

そのフレーズだけ耳にしていたから、この曲へのイメージがポジティブ一択だったのだと思う。

でも通して聞くと、違うことに気づく。きっかけになったのは、TBSの「CDTV ライブ!ライブ!」対バンの形式で演奏をする緑黄色社会を見たことだった。かっこいい、そう思った。

バンド名は知っていて、関ジャムでも何度も名前が挙がっているのを覚えていた。

ラジオ番組「SCHOOL OF LOCK」を聴いていた頃を考えると、10代のみのロックフェス「閃光ライオット」2013年の準優勝は、知らず知らずのうちに耳にしていたかもしれない。どこかで曲は聞いていても、バンドとしての良さにまだ気がついていなかった。

緑黄色社会」(りょくおうしょくしゃかい)ギター、ボーカル:長屋晴子さん。ギター、コーラス:小林壱誓さん。キーボード、コーラス:peppeさん。ベース、コーラス:穴見真吾さん。

曲調は明るい。トランペットとピアノの跳ねる鮮やかさに、ベースが大きめの音で効いていて楽しい。

でも、そのカラッと晴れた空気の中で切実に伝えたい思いがあるんだと、ボーカルの長屋晴子さんの声が、喉が叫んでいる気がした。

 

かっこいい君には

僕じゃ頼りないのかなんて

そりゃそうだよな

だって今もこうして迷ってる

 

か弱い君ではなく、“かっこいい君”と聞こえた瞬間に、えっ?と耳が向いた。

守ってあげる、支えてあげる、僕がいないと君は…の包容力に似た何かは、似た何かでしかなく。投げかけられても嬉しくないとわかってから、優しいフリに気づくようになった。

“かっこいい君”と思える“僕”は、きっと相手を人としてまず敬っていて、同じ位置関係で向き合おうとしている。

 

手を取ってくれないか

ギブとテイクさ

君が僕のヒーローだったように

“ギブとテイクさ”が、わりとビジネスライクな言葉選びで、ドライなところが好きだ。

内心と相反して、ドライに見せようとしているのかもしれないと想像しても、それがいい。

歌い方も“ギブ”と“テイク”の箇所ではファルセットで、フワッと空気が上に舞う。

そして、僕が君のヒーローになりたいと言葉にするより前に、“君が僕のヒーローだったように”という言い回しをするところにぐっときた。

 

 

いったいぜんたい

そんなに荷物を背負い込んでどこへ行くの

ねえねえ待って僕にちょっと預けてみては?

 

好きだと思った。

心配なんだ、その気持ちをどう歌詞にするかを、この三行で魅せられた。

“僕”が見つめる“君”の背中も、呼び止めるため一生懸命な“僕”の胸の内も。

 

ねえねえ待って僕にちょっと預けてみては?

特にサビのラストの歌詞に、切なくて、だけど頼もしい。人が持つアンバランスさが表れていて、ガッと心を掴まれた。

呼び止めるのにスマートにかっこつける余裕は無く、“ねえねえ待って”と急いで声をかけて、

どんと来いと言うよりは、“僕にちょっと預けてみては?”と“僕”にとっても“君”にとっても気軽に、全部とは言わないけれどせめてそれくらいは預けてみてはと伝えるような押し引き。さじ加減がいい。

しかも語尾が、“預けてみては?”で、日常ではもうあまり耳に出来なくなった言い回しなのが素敵だと思った。

提案形で、?が付くことで敬語で話し合うみたいに丁寧な距離感が魅力。

 

2番に入っても引き込まれる歌詞は続いて、

補い合えた暁には同じ夢を見たい

という歌詞にワクワクした。

どちらかが夢を支えるのとは別の、同じ夢を追いかけて実現できる楽しさ。

“暁には”という言葉を使っているのも、晴れやかなニュアンスが伝わってきていい。

 

 

君はかっこいいと苦しめて

ひとりぼっちにさせたのは

少し僕のせいなんだよなごめんね

等身大で“僕”に出来る範囲を理解しながら、優しく側にいるように見えたなかで、

空気感がガラッと変わった気がして不意にどきっとしたのは、この歌詞。

何もかもではなく“少し僕のせい”。そのほうがリアルに感じるのはどうしてなんだろう。

 

「Mera!」を聴いていると、自分がこの言葉たちを向けられたらと投影する時と、伝えたい相手が思い浮かぶ時と。どちらもある。

自分だったら、かっこいいと言われることは嬉しいと感じるけど、もしそれをずっと言われ続ける環境にいたら?

君はこういう人!と尊敬の眼差しだけを注ぐことが、相手を孤独にさせているとしたら。そんなことを考えた。

 

その視点にまで言及した歌詞を書く曲は、そう聴いたことがなかった。

日常の自分にも、今を過ごすひとりずつにも当てはまる。

それでもこの曲を聴いた時、真っ先に思い浮かべたのは、私の周りで届く距離に居るからには手を握って、絶対に取りこぼしたくないと思いを強くしたあの人のこと。この人のこと。それは例え顔を知らなくても。

そして、アイドルでいることを選んでいる彼らのこと。

 

付きまとうやるせなさを正しく衝動に変えられたなら

強くはない僕が君のヒーローになれたなら

そんな思いが込み上げる曲だった。

 

太陽みたいに照らして、星空みたいに瞬いて 「関西ジャニーズJr. あけおめコンサート2021」

 

楽しくて、賑やかやかましくて、あっけらかんとしてて

気が乗るまで放っておいてくれる距離感と、ピンチの時に放っておいてはくれない距離感が心地いい

大阪が、恋しい。

 

関西ジャニーズJr.が大集合した、配信ライブ

関西ジャニーズJr.「あけおめコンサート2021 関ジュがギューっと大集合

開催は、2021年 1月3日、4日、5日

3日と4日は、12時の公演、18時の公演。最終日の5日は、12時の公演。計5公演

 

本来は、観客有りでの開催を目指して準備を進めてきていて、直前まで可能性を念頭に置いているのは伝わっていた。けれどそれは難しくなり、配信へと切り替えに。

大阪へは今行けないと、留守番する気持ちでいたけど、買うことができるチケットならと、5日の公演を観ることに。

これまでノートパソコンで見ていたけど、今回の配信ライブからテレビ画面で見られる画期的装置のおかげで、大画面に映せるようになった。

 

 

目がいくつあっても足りない。初めに思った感想がそれだった。

関西ジャニーズ大集合の時だって見ていたから、大人数には慣れてきているはずなのにどうしてだろうと少し考えて、見たいと目が追う相手がどんどん自分の中に増えていたからだと気がついた。

それぞれの名前、個性、このステージへとたどり着いた経緯。

段々と覚えていくようになって、“知っている子”がこんなに増えた。

 

セットリストは序盤から、かわいい!色気!かわいい!のサンドイッチで、気持ちの置き所がブオンブオンと揺さぶられる。

なにわ男子、Aぇ! groupが色気のある曲を披露するのは耐性がついてきていたけど、Lil かんさいのピンクと星柄衣装のかわいい空気感に、そうだよね安心安心と思っていたら。凄まじいカーブで、クールな顔へと一変。

 

なにわ男子の「Shall we...?」は、道枝駿佑さんの身のこなしの美しさに見入った。

はじめの音に合わせて大きな体をグッとかがめた瞬間、うわかっこいい…と釘づけになった。ゆらめくシルクのカーテンみたいにしなやかで、大きく見せる動きと、かろやかに見せる動きとの抑揚に魅了された。

2 Faced」で高橋恭平さんが決まってする、“んべっ”の舌出し。今回の仕方が好きだと思った。

 

そして、King & Princeの「シンデレラガール」歌うなにわ男子。おおぉ…!!とテンションが上がりながら観ていると、

11時間近の 賑わう街並みに

と歌ったのは大橋和也さん!

岸優太さんの声色で聴いていたフレーズを、大橋和也さんの声色で聴けるなんて。

 

 

続けてメンバーカラーメドレーになり、

レッドチームが、King & PrinceのPrinceが歌っている「Prince Princess」を!

King & Princeのライブ配信でこの曲を聴いて以来、なんて柔らかく優しい曲なんだろうと好きになって、何度も何度も頭の中で思い出していた。

西畑大吾さん、末澤誠也さん、嶋﨑斗亜さんが歌う驚きと、なかでも好きな歌詞の“踊るように歩くくせが”を末澤誠也さんが歌った嬉しさとで、たまらない気持ちになった。

 

イエローチームが歌った「無鉄砲ボーイ

長尾謙杜さん、草間リチャード敬太さん、岡﨑彪太郎さん。

ジャジードゥーワップなんて最高。草間リチャード敬太さんの声色が大人な雰囲気で、かっこいい…と引き込まれた。

聴くのが初めてで、ジャニーズWEST重岡大毅さん、桐山照史さん、中間淳太さん)の曲なんだと知って、原曲も聴きたくなった。

 

オレンジチームの「Real sexy!」はSexy Zoneの曲で、大西流星さんと福本大晴さんが歌った。

“合わせれば”のフレーズを、“ぅあ”と原曲のニュアンスに忠実に歌っていた福本大晴さんが印象的だった。

 

ピンクチームは、なにわ男子の道枝駿佑さんひとりなので必然的にソロに。

曲は、Hey! Say! JUMP(山田涼介さん)の「Oh! my darling

道枝駿佑さんの歌声が好きだなあと、もう一度しみじみ思うパフォーマンスだった。映画「461個のおべんとう」のエンドロールで聴き入ったあの声。その魅力を知ってから耳にするソロ。

身のこなし、視線の向け方、すべて合わせて引き込むすごさを感じて、このパフォーマンス力を持つ人がなにわ男子というグループにいることの素晴らしさを思った。

 

グリーンチームは、King & Prince(平野紫耀さん、髙橋海人さん)の「Big Bang」を、

大橋和也さん、佐野晶哉さん、當間琉巧さん。アースカラーなグリーンが、バリバリのダンスを見せた時のギャップ。平和的な笑顔がグッと引き締まる魅力。

 

パープルチームは、Sexy Zone菊池風磨さん)の「My Life

高橋恭平さん、小島健さん、大西風雅さん。スローなメロディーで、少し気怠げな雰囲気がメンバーカラーと相まって良い。

 

ブルーチームは、ジャニーズWESTの「何万回だって「君が好き」

藤原丈一郎さん、正門良規さん、西村拓哉さん。メンバーカラーがブルーという時点でもう、どう魅せようと強い。全力のダンスをしても、可愛さに振り切っても、バラードでしっとりでも。

“僕が弱虫で”のフレーズを歌うのが藤原丈一郎さんだったところにときめいた。

 

 

ファンから募ったリクエスト曲コーナーもあり、

原曲では関ジャニ∞横山裕さんと丸山隆平さんが披露した「パンぱんだ」のイントロにびっくりした。

しかも小島健さんと嶋﨑斗亜さんのコンビ。

嶋﨑斗亜さんをこよなく愛する、小島健さん。コンビを組ませて大丈夫です…?!と思いつつ見守って、可愛いパンダな嶋﨑斗亜さんと満足気な小島健さんが見られたのでよかった…のだと思うたぶん。

あらためて考えると、本家が横山裕さんと丸山隆平さんなことに、驚きと愛着が増した。

 

セットリストの24曲目が日替わりだったことは、後になって知った。

5日は、Sexy Zoneの「君にHITOMEBORE

道枝駿佑さんがいる!と見つけてから、あの台詞は誰が!?と食い入るように見つめて、直前のパートを歌わなければ台詞チャンスと目で追った。

そしてついにきた、ざざっと前にきて片膝立てての「好きなんだよ!マジで!」

道枝駿佑さんで決まった瞬間に、みっちーーー!!と叫びたくなった。叫べないし、みっちーだなんて恐れ多くて呼べないけど、心の中では最高潮。

おそらく着ていた衣装が、関ジャニ∞の2014年のライブで「象」を円形ステージで歌った時の衣装で、道枝駿佑さんがセンターで大倉忠義さんの丈の長いジャケットを着ていたことにも胸が熱くなった。

 

 

アンコールになれば、賑やかで楽しくってたまらない。

どこを観ていいやらと思っていたら、本編のはけ際とアンコールの登場では二人ずつ縦並ぶ形になって、順番にカメラアピールをしていく演出が観やすくて楽しくて素敵だった。

バックヤードに戻ってきた末澤誠也さんと大西流星さんが、「おはようございます」と腰低く挨拶する後輩役の大西流星さんと「おはようーよろしくねー」と挨拶する大御所役の末澤誠也さんとで、即興芝居を繰り広げていたのがツボだった。

ドリルすなをしていた、小島健さんと當間琉巧さんもよかった。

 

ステージに立つ姿から、例えお客さんはこの場所に来られないとしても、今日まで居る前提としてリハーサルをしてきたこと。本番でも、居るという意識で魅せていること。

気を抜かず、どこから見られても映されても構わないパフォーマンスを徹底しているのが、ライブ全体から伝わった。

どのタイミングでスイッチングされて、自分の前にあるカメラで抜かれるか分からない状況で、こっちこっち!と言わんばかりのアピールで手を振って笑顔でいる関西ジャニーズJr.のみんなを見て、ステージに立っているという意識の高さに感動した。

多分、スイッチングされるとカメラ横に赤いランプが点くはずで、カメラが自分たちに切り替わるとさらにテンションが上がっている姿が可愛かった。

 

 

今回のライブの中で、なにわ男子は新曲「夜這星」を披露した。

漫画が原作で、メンバーの大西流星さんが主演のドラマ「夢中さ、君に。」の主題歌でもある曲。

点々とバラけた位置に立つメンバーが歌いながら、順にすーっと歩く様子が流れ星を表すみたいで、夜空に線を描いていく星の軌道を思い浮かべた。

ひとつひとつ流れた星は、気がつくと一列に並んだ。メロディーはどこかミステリアスで、だけど穏やかに寄り添う曲だった。

 

ウエディングケーキのようにせり出す円形ステージで、なにわ男子、Lil かんさい、Aぇ! group、関西ジャニーズJr.で歌った「空言のオーケストラ」も、

ドラマのオープニング曲としてうっすらと聴いただけで、しっかり歌詞を聴くのが初めてだったけど、どこか星空をイメージしたくなる世界観だった。

 

関西ジャニーズJr.「あけおめコンサート2021 関ジュがギューっと大集合」

関西のパッションと哀愁が好きだとあらためて感じたライブ。

ジャニーズのグループの垣根を越えたセットリストにわくわくして、初めて聴く曲には、カップリングやユニットで知らずにいる曲がまだまだあるんだと心躍った。

 

楽しく弾けて、ステージが活気に満ちている景色に、どこから観ていようと胸が熱くなる。

歌と、ダンス、そして関西ジャニーズJr.ひとりひとりの表情が、決意と輝きを放っていた。

 

遠回りでも、振り出しじゃない - 第10話「‪いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう‬」最終話 感想

 

電話を受けた木穂子さんの動揺と、咄嗟に座り込む姿からはじまる最終話。


病院で、引ったくりにあった女の子は状況を知らずに楽観的に話してしまう。

感情を堪えきれない朝陽に、お互いの状況を考えて間に入った練。朝陽と女の子の会話を見ている時の練の表情が、ちゃんと朝陽の気持ちをわかっている顔で、それが一層切なかった。

 

お茶を自動販売機で買って、ペットボトルのキャップ。一度開けて、締めてから渡してあげる練の動作。

状況がわかって動揺している女の子には開けることもままならないだろうと、配慮する行動が素敵だった。

「杉原さんは放っとかない。通り過ぎたりしない」

音が練に思っているように、練も音をそういう人だと思っている。


「転んだだけだよ」と手を握る朝陽。

物語の後半は不安そうだったり、怒ったり、難しい顔をしていることが多かった朝陽の、ここがすごく好き。

引ったくりで捕まった男の子、助けに行かないと…と言う音に「たぶん…練が行ったと思う」と木穂子が言う。

そっち。こういう時、そっちを選べる。

だから練なんだ…というような朝陽の表情が複雑で。そんな二択、難しすぎる。練も、朝陽がいたから出来たことだと思うし、

きっと考えて出来ることじゃない。そんな次元で動けてしまう練に、朝陽は圧倒的な“敵わなさ”を感じたのではと思った。

 

 

病院から戻った、音と朝陽のシーン。

「僕はもう君のこと好きじゃない」

言いたくないことを口にして、言いたいことは絶対に言わないと決めた人の表情。話しているけど、閉ざしている口元。

 

「私はもう決めて」

「決めることじゃない。恋愛って決めることじゃない。」

 

「僕を、選んだらだめだ。僕はもう、君のこと好きじゃない」

その言葉ひとつひとつが愛情の表れで、大好きが溢れているから悲しい。

涙を指で拭おうとして、その指を止める。ハンカチを音の手に握らせて、自分で拭えるように。

「いつかまた、ご飯食べに行こう。4人で。」

誰と誰の4人なのか、しばらく経って理解して、朝陽の懸命な優しさに胸がつまる思いだった。

泣きたくて、抱きしめたい思いをぐっとこらえて、ハンカチと一緒に手だけを握った朝陽。

音には練だと、見ながら木穂子さんのように確固として思い続けてきたけれど、朝陽の想いも真実だったと感じたのは、このシーンから伝わるものがあったからだった。


これからどうなるのかという時に、電話が鳴る。

通知を見て、「林田音です」と出た電話に、いい予感がしなかった。

 

 

北海道に、帰ってしまった

見ていて肩の力が抜けた。せっかくここまで、音ちゃんが自分の生活を取り戻していたのに。

部屋を片付けて、ずっと大切にしていた白桃の缶詰の蓋を開けて、最後に食べる。

音ちゃんがお母さんへ書いた、手紙の返事。

 

努力って、時々報われる。

お金は貯まらない。でも、わたしには足りてる。

ちょっとのいいことがあれば、夜寝る時に思い出せる。優しい気持ちになれる

私には、思い出が足りてる


会ったことのない人を想像するのが好きな音。混ざってるから、綺麗なものは探さないと見つからない。

6才の私に教えてあげたい。あなたは、いつかひとりじゃなくなるよ

それまで待っててね、がんばって待っててね


部屋の中で、納得したみたいに見えた音の表情。

けどそんなはずはなくて。練からの電話に「なに?」「北海道やけど」と強く答える。この時の関西弁は、隠している時の関西弁。本当がバレないように。

強く目をつむって、間に合わなかったという練の表情が、やるせなさを心底表していて胸が苦しい。

 


悲しかった。北海道に帰った音ちゃんを見てるのが。

でも、ファミレスでコーヒーを持ってきてもらって、二人ともありがとうって言うのは一緒。


部屋も、仕事も、口を開けば逆のことばかり。グレてる音ちゃん。でも前に来た時、トマトソースと大根おろしのハンバーグを食べたこと、練よりも覚えてる。

ちょっと心をほぐすと、すべて揺らいでしまうんだろうなとわかる。

まだ途中だった。途中で戻ってしまったこと、きっと誰よりも自分に苛立っている。

 

「東京には帰られへん。ここで暮らす」

「はい」

意固地な音ちゃんを見ていて、もう音ちゃんほんまにあほ…と思う。けど音ちゃんはそれを選ぶ人だとわかってしまう。

「これで安心して振り出し戻れるわ」

キリッと心が痛む。

 

「振り出しじゃないですよ。杉原さん。振り出しじゃないですよ。」

「変わってないように見えるかもしれないけど、全然違います」

練の言葉が、折れそうな音の心をどれほど励ましたんだろう。

練が、音のことを「杉原さん」と呼ぶ。

親戚に引き取られてからの“林田”ではなく、杉原さん。それはとても大切なことで、名前はその人のアイデンティティそのもの。音にとって、“林田音”は自らを封印した名前で、母との繋がりの象徴である杉原音という名前は、自分が自分でいるための鍵になるもの。

 

「人が頑張ったのって、頑張って生きたのって、目に見えないかもしれないけど、心に残るんだと思います」

「杉原さんの心にも、出会ってきた人たちの心にも、僕の心にも」

 

「道があって、約束があって、ちょっとの運があれば、また会えます」

また会える。会いに来てくれる人がいる。

無いように見えて、出会っていった人たちの心に残る自分の存在が、ふとしたとき感触として返ってくる。

 

「近道?」

「ううん、遠回り」

いたずらっぽく笑う音が可愛くて。

遠回りなのは、二人の関係性にも通じると思った。

 

坂本裕二さんの紡ぐ物語は、特に恋をしている二人は、なかなかハッピーエンドにならない。

だけど、この物語も手放しの希望ではないとしても、可能性を残してくれたことにありがとうと思っている。

放送当時の記憶が確かなら、演者さんたち自身がこの役たちを必ず幸せにしてくださいと強く願って、想定よりもうすこし優しい終わりになったと対談やインタビューで聞いた覚えがある。

そしてラストシーンの雪は、本当にこの日の夜中に降りだした雪。

 

 

杉原 音。曽田 練。

好きで好きで仕方ないドラマ。大好きな二人。

「‪いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう‬」

 

きっと私の周りにいる人は、耳にタコができるほどこのドラマの名前を聞かされている。

音ちゃんはすごいな。そう憧れのように眺めていた。

私はこの作品がなかったら、とうに“自分のことを考える”ということを諦めていたと思う。あなたはどうなのか?と聞かれるときの“あなた”を消したまま進んで行くことになったと思う。

2016年1月18日から、3月21日までの放送を見ていた4年前。思うより近い気もするけど、今よりもっと幼くて、何も決められない気がしていた。

でももう大丈夫。多分だけど、大丈夫。

 

このドラマの感想を書き始めたのはずっと前で、途中、これ最後まで書ききるのか…?と自分でも分からなくなったりした。

だけどこのドラマについてだけは、ちゃんと最後まで感想を書き残しておきたくて。どうにかここまでたどり着いた。

いつか、坂本裕二さんにお手紙を渡したい。叶う願いかはわからないけれど、いつか。