東京ディズニーシー「オーバー・ザ・ウェイブ」 - ショーの楽しさを知ったあの日の船旅。船から流すBottle Mail

 

信じていれば 夢かなうの

あなたは素敵よ

 

大きな船が停まる港で、紺と赤の煙突に、白の壁と黄色のライン。

“S.Sコロンビア号”と呼ばれる船の前で、物語は生まれた。

 

5周年のアニバーサリーとして始まったショー

Over The Waves」(オーバー・ザ・ウェイブ

S.S.コロンビア号就航5周年を記念して始まった新しい船旅「ドリーム・クルーズ」が舞台となる物語。

その後、レギュラーショーとなって、2006年から2010年9月8日まで続いた。(最終日は台風の影響で公演が行われなかったので、9月7日がラストとなった。)

2008年、夏休みのある日。目にしたこのショーがとにかく心に残って、その日に一緒に来ていたお友達と親にお願いして、夜公演をもう一度観た。

波の音に、かもめの鳴き声。

ドッグサイドステージの白いベンチに座りながら、これからどんな物語が始まるのだろうと、心躍るミュージカルショーだった。

 

イタリアにいるママに会うため、ニューヨークから船に忍び込んでしまった二人の兄妹。

トニオマリア

幼い妹のマリアと、お兄ちゃんとはいえまだ心細さの拭えないトニオ。

通路を駆けて来るという、登場のサプライズにまず驚いた。

 

ミッキーは総監督のクルーズディレクター。

ミニーはロマンスディレクター。

ドナルドはアクティビティディレクターとして体操を教えていて、デイジーはファッションディレクター。

プルートはフードディレクター。

チップデールはパーティーディレクター。

グーフィーは蝶々を追いかけながらアクティビティディレクターを担当。

キャラクターたちに物語の中で役があり、ダンサーさんたちにも一人一人配役がある演出が印象的で、舞台だ…と感動した。

 

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オープニングのダンスが大好きだった。

ジャズダンスのしなやかさに心奪われるひととき。

船で働くクルーたちが揃う。ホワイトのジャケット、帽子。紺のスカートはひらりと揺れる。

青空高く 雲は流れ

感じる 呼んでる 風が

5周年のテーマソングとなった「Sea of Dreams」のメロディーに合わせた、特別な歌詞がここでは聴けた。

MISIAさんが歌うバージョンも素晴らしいけれど、ディズニーシーで巻き起こる物語の船員の歌声で響く「Sea of Dreams」もまた素敵だった。

 

荷物を運ぶクルーも、ダンサーさんたちが演じる。

乗船してくる個性豊かなお客様を、それぞれに出迎える。

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実際にステージ横から歩いてくる乗客が、ステージデッキへと階段を上がる演出が素敵だった。

宝石大好き、グリーンのドレスにゴージャスな帽子の、マダム・カルティエ

グルメに、ぽんぽこりんなお腹で立派なお髭を蓄えた、シニョール・フルッチョ

仲睦まじく、杖をつきつつ正装で久々の船旅を楽しみに来た様子の、スミスご夫妻

ハットに手をかけ、白のスーツでキザに決める、ニック様

赤のタイトなドレスにヒョウ柄コート、艶やかなムードの、ジェシカ様

元気いっぱいカップル、エクササイズを欠かさない、アーノルド様キャロライン様

歩きながら読むほど本に夢中で、名前を呼ばれてびっくり顔でメガネを上げる、ティム様

ピンクのシャツに紺のワンピースで、内気そうだけどワクワクしている様子の、スー様

 

“僕!?”と紹介をされてびっくりしているティムの横を、スーが通り過ぎて行く。

「海の向こうに…待ってるかしら…初恋」

それぞれの期待を胸に、船に乗った乗客たち。スーにとって、密かに胸に持つ憧れ。

その後ろ姿を見つめて、読んでいたはずの本を胸に抱えて、ぽーっと引き寄せられていくティム。なにしてるの?と間に入るグーフィー

このシーンが大好きで。洋画っぽさのあるティムのリアクションに心掴まれていた。

台詞なしの、人が一目惚れをする瞬間を見つめるドキドキ感。

ステージの右でも左でも物語は動いていて、どこを見ているかは観客に委ねられている。ティムとスー、トニオとマリアの視点で観ることが多かったけれど、スミス夫妻にはスミス夫妻の物語。クルーにはクルーの物語がある。

あちこちで巻き起こる物語に、観客でいながらカメラマンのように視点を移す楽しさを知った。

 

「ミッキー。皆様のご搭乗、確認しました。」

ボーッボー!と大きく、船の汽笛が響く。

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驚いたことに、この間にトニオとマリアが忍び込んだ箱は、荷物として船へと宙吊りになって運び込まれて、隙を見て二人は飛び出してくる。

大胆な演出にも心動かされて、目が離せなかった。

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クルーのふりをしながら、バレないように様々な乗客たちと出くわすトニオとマリア。

スーの憧れに寄り添ったミニーが「あなたは素敵よ」と伝えるけど、スーは「でも私…目立たないし、素敵なドレスを持っていないから、ダンスも踊れない」と話す。

豪華客船に乗ったものの、シンプルなワンピース姿でやって来た彼女は、パーティーのことやドレスのことを船に乗るまで考えていなかったのだろうと想像した。

そこで出番なのが、ファッションディレクターのデイジー

ドレス選びのシーンは、まさに心躍るミュージカルで、何度観ても夢中になった。

 

この服?あの服?どれも違う…!!と着替えに着替えて、ピンクのドレスでふわりと登場したスーの可愛らしさ。

外で待たされていたクルーも、素敵です!とリアクションしているのが良かった。

マダム・カルティエ様や、キャロライン様、ジェシカ様、スミス婦人に迎えられて、みんなドレス姿に。

自信なさげにいたスーが、真ん中で顔を上げて躍る様子にワクワクした。

 

ダンスの時間がやってきて、ドレスアップしてきたパートナーたち。

白のタキシードに、ピンクの蝶ネクタイが可愛いティムは、トニオとマリアにうつむき顔で相談をしている。

背中を押されても、くるっと引き返してきてしまうティム。

痺れを切らしたマリアが、ダンスを教える勢いのまま、ポーンと手を離す。バッと顔を合わせたティムとスーが、うわあ!と背を向けるけど、遠巻きのトニオとマリアからの応援に意を決したティムが声をかける。

ダンスに誘って、手を取り合った二人が踊る曲は「I Could Have Danced All Night」(踊り明かそう)

映画「マイ・フェア・レディ」からの楽曲だと知ったのはしばらく後のこと。夢見心地とはこういう感覚なのだろうと魅了された。

華やぐシーンでありつつ、ダンスがぎこちないのが素敵なところ。メガネがずれても、あたふたしても、不器用ながらも頑張るティム。

戸惑いつつも、息を合わせていくスー。

二人の間にある空気感が言いようのないほど可愛くて。憧れの二人だった。それは今も。

 

見事な働きをしていたトニオとマリア。

しかし、いつまでもクルーのふりは続けられず、ドタバタな混乱が起こることに。

ドアが並んだセットを使って、乗客の行き来とクルーが追いかけトニオとマリアが逃げる様子を、緻密な出入りのタイミングで表現していて感動した。

 

密航者だと見つかってしまったトニオとマリア。

二人にどんな展開が待つのかは、YouTubeや映像化されたDVD&Blu-rayで、約30分間のステージショーとして観てほしい。

心意気が起こす奇跡と、いつの間にか芽生えた乗客やクルーたちとの温かさが見えるラスト。

 

フィナーレにダンスシーンがあるのも、ミュージカルショーとして素敵なところ。

船旅で変わっていったそれぞれの乗客の姿や、トニオとマリアに向ける優しい眼差し。

スーはトニオのところへ。ティムはマリアのところへと駆け寄って、感謝を伝えている様子が大好きだった。

 

マドンナの曲や、マイフェアレディの曲がアレンジされて使われている選曲の楽しさ。

キャラクターとダンサーさんアクターさんが並んで作るステージ。

ミッキーとミニーの登場がS.Sコロンビア号タラップのデッキからで、ステージへと続くかなり高く長いタラップを降りてくる演出も、贅沢な時間だった。

初期の頃には、フィナーレはミッキーとミニーがステージ上から小船に乗り込んで、デッキ上部へと上がってポーズで締め括っていた。

S.Sコロンビア号の上デッキ部分で、演者の一員としてゲストが参加できるプログラムも一時期あったことが懐かしい。

 

大胆なセット展開と、小道具の多さ。

ショースタッフさんも演者の一人としてステージにいて、息を合わせて作るショー。

夜公演は、照明演出がつくことでさらに印象が変わる。夕暮れ時のオレンジの空の中でスーが恋に憧れてミニーと歌うシーンはとても良かった。

音源に合わせた演技の部分と、マイクに直の音声で生の演技になっている箇所の振り分け。

キャラクターたちに、この物語の配役があること。そして、ダンサーさんとアクターさんの魅力を活かした構成に引き込まれた。

それぞれに表現する役への解釈。その時だけ生じるアドリブ。日々変わり続けるステージ。

役を生きる世界の素晴らしさ。

舞台って楽しい。ミュージカルが好きなんだと気付かせてくれたのが、このショー「オーバーザウェイブ」だった。

 

 

さあ、祝祭の海へ。

5周年のテーマになった言葉。

広がる海への出航に心弾んで、出会った物語に夢中で夢を見た。

 

素直に笑う その時だけ

心の扉が開く

 

DREAM CRESEが描いた船の旅。

ショーが終わった後に流れる「Sea of Dreams」を耳にしながら、何度もその歌詞に思いを馳せた。

年月が経っても鮮やかに蘇るあの海の風、景色は、航海を指し示す方位磁針のように、今もこの胸にある。

 

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