久しぶりにお手紙を書いた。
それがすごく楽しかった。
お手紙を送ることを躊躇うようになっていたなーと思う。
送る方としても止めておいたほうがいいかなと気にするし、お手紙は受け取ってもいいかなと思う人、メールにしたい人、それぞれの感覚が生まれるようになったから。
舞台があると、劇場内に置かれている場合のあったお手紙ボックスは、設置しないことが感染対策として基本になった。
ファンレターを送れない。
そんな事態が起こり得るんだなあと、漂い彷徨うような寂しさがあった。
対して、知人なら接触せずにメールが送り合える。Twitterなどでの文字のやり取り、ブログがあるから書ける言葉もある。
受け取る面では、インスタライブやYouTubeで見る姿にも何度も励まされたり安堵したりしてきた。
非接触で伝え合う方法が、出来ることがあって良かったと感じたのも事実だった。
開くことがなくなった、レターセットをしまっている箱。
だけど久しぶりに、送りたいお相手に書こうと思うきっかけができた。
久しぶりにお手紙を書こうと思ったところから、もうワクワクして、すぐにロルバーンのノートに下書きを始めた。
持っているレターセットに書こうかと思ったけど、相手のことを考えて選んだ便箋に書きたくなった。
立ち寄った文具コーナーで最初に目に止まったのは、金木犀の便箋。
オレンジの優しい色と、箔押しの金の部分が品よく可愛くて、これ。と決めた。
封筒は横に別売りになっていて、文字数多いマンにとっての永遠の悩み、便箋と封筒の消費量が一向に揃わない案件が解決した。
好みの絵柄で横書きだったのも嬉しい。
行数は分かっても中を見られなかったから、紙質が好みでなかったら…と思ったものの、結果ボールペンで書きやすく、行数がやたら少ないタイプでもなく。しっかり書き込めるのも良かった。
行の途中に、金木犀がちらほら舞っているのも可愛い。その位置で文の『。』が来たときの達成感。
おろしたての便箋を開いて、最初の一文字。
はじめの挨拶は大体いつも変わらないのに、手に力が入る。
次の行へのバランスを考えながら誤字をしないよう、真剣に書く。
日付けを書いて、名前を書いて
ページ数を端に書いて
最後に、相手のお名前を最初の行に書く。
読み直して、大丈夫そうと思えたら半分に畳んで、住所と宛名を書いた封筒にしまう。
封筒の真ん中にお名前を書いて、“様”をつける瞬間が緊張する。
いつもはこれで封をして終わりだけど、今回は『シーリングスタンプ』を押してみることにした。
ロウを溶かして、丸く垂らして、重みのあるスタンプの圧でマークが付く。
ヨーロッパの昔ながらの手紙によく見る、魅惑的な憧れのシーリングスタンプ。
2年前に、シーリングスタンプがほしいんだ…!!と熱が高まって、吉祥寺に「ジョヴァンニ」というアンティーク専門店があると知って訪ねて購入した。
「銀河鉄道の夜」を思い出すお店の名前に、そこがアンティークの文具専門店だなんて、尋ねずにはいられない。
その買ったシーリングスタンプが、ここぞと言える時を待って、今日まで家に眠っていた。
シルバーの混ざったモスグリーンのロウと、同じくシルバーの混ざったレッドのロウ。刻印の入ったスタンプは、小花にも四つ葉のようにも見える植物っぽさのある模様。
特別な手紙を送るなら、特別さのあるシーリングスタンプでとゴソゴソ引っ張り出して、ついに日の目を見た。
よし!やってみよう!と意気込んだものの、チャッカマンを使った火つけにまず怯える。ボッ!と点くと、うわ!と指を離してしまう。火は消える。
ロウが剥がしやすいように、キッチンペーパーを敷いた上に垂らして作ろうと頑張ってみる。
キャンドルのようにロウに紐が付いていたから、そこに火は点けられたけれど、数滴しか垂れない。後々考えると、キャンドルに火を置いてから溶かすのが多分正解で、直に溶かそうとしたのが違っていた。
もう一つ方法として調べてあった、ロウを削ってスプーンに乗せて、下から火を当てて溶かして垂らす方法で試すと、形はいびつだけど出来そうな予感。
ロウを多めにするのが形を良くするコツと見たので、2度目。丸くなるよう垂らして、少し冷めたかな?のタイミングでスタンプを置いた。
押し込まなくても重みで沈んで、しばらくして剥がしてみると上手くいった。
出来た。
シーリングスタンプの風合いに、これだ…と感動した。
割れやすいものではあるから、手紙の封はのりでしっかりして、飾りのように貼ることにした。
手紙を開けるお相手が、ハサミで端を開けるタイプであることを願う。
ファンレターだから、届くと思える確証はないとしても。
何かしらの奇跡のような確率で届いた時には、楽しく読んでもらえたらと、便箋を選んだりシーリングスタンプを作ったりする時間は何にも変えがたい楽しさだった。
届けたい思いを込めてお手紙を書く。
久しぶりにペンに込めた筆圧と一緒に、お手紙を書く嬉しさを思い出した。