松下洸平さん「つよがり」と、ラテンのムードに魅せられて

 

ふと映ったインスタグラムの縦画面の中。

夜の景色に丸く滲む灯りと、聴こえた歌声とメロディーにくっと服の裾を掴まれた感覚で、スライドせずに3分割の映像を見続けた。

真っ直ぐにそこにいるのが松下洸平さんだと気づいたのは後半になってからで、切実に歌う表情にメラメラ燃える炎のようなゆらぎをみせる歌声に、心ごと引っ張られて、左へスライドしてもう一度見た。

リリースの日付と“デビュー”の文字に、歌手デビューはすでにしていたはずでは?と思ったけれど、その後に目にしたインタビューに答える松下洸平さんの言葉から、「つよがり」が思いの込められた、もうひとつのデビューであることを理解した。

 

松下洸平さん

つよがり

作詞:松尾潔さん

作曲:豊島吉宏さん

 

松尾潔さんのお名前に、関ジャムでお話しされていた黒縁眼鏡のダンディーなおじさまだ!とビビッとくる嬉しさがあった。

謡曲を思い起こす、酔いしれたくなるメロディー進行と、意味ありげな歌詞が持つ引力。

松下洸平さんの声で、表情で、雰囲気で魅せることをとことん追求して制作された曲だと伝わってくる。

 

印象的に繰り返し耳にしたのは、

この夜を最後の夜と決めていた ずるいあなた

だった。大人な雰囲気を醸し出していることも相まって、これはそういう感じ…?と思っていたけど、曲のはじめからフルで聴いた時、思い描いたのは全く別の世界だった。

 

はじめてのキスのあとは 涙出るほど笑った

だけど今夜の二人はなぜ黙っているのだろう

その言葉で頭に浮かんだのは、工房で小さな木の椅子に腰掛けた二人。

おぼこく見えるのに、真っ直ぐ向けた眼差しは逃げきれないほどで、向かい合う彼女は驚きながらも見つめ返す。

朝ドラ「スカーレット」の八郎さんと喜美子のことだった。

俳優からアーティストとしてある種切り替えて歌っているのかもしれない曲で、これまでの作品と役を重ねてしまうのは本意ではないかなと迷う部分はあるけれど、その受け止め方で歌詞を追った時、自分の心にはとてもしっくりきた。

想像の範囲ではあるけれど、作詞の松尾潔さんはダブルミーニングを意図して作っている気がする。

松下洸平さんの雰囲気が発揮されて魅力が伝わる曲としてとても考えられていて、さらに粋なエッセンスの加わった、松尾潔さんからの贈り物のようだと思った。

リアリティーを含んだ歌詞として受け取ることも、俳優の松下洸平さんに出会ってそれから重ねてきた記憶を持つ視聴者にとっての楽しみどころを感じつつ受け取ることも、好きなものを選べる。

 

八さんが好きで、好きで、好きだったからこそ、「スカーレット」で八さんが選んだ道はやるせなく、納得するのが難しかった。

なぜ一度取った手を、なぜ?とずっと思っていた。

本気になれば傷つくだけ わかっていたはずなのに

ひき返すにはもう遅すぎた 夏の名残たち

この歌詞を見た時に、何かひとつすっと落ちた感覚がした。

恋をしていて、愛があって、確かに慈しみあっていた二人だけど、赤い炎になったり青い高温の炎になったりをそれぞれに繰り返して、その波長は絶妙にずれていた。

それでも、いい距離を保つほど想いはやわではなくて、“本気になれば傷つくだけ”とわかりながらそばで見つめ続けると決めた気持ち。

“ひき返すにはもう遅すぎた”想いの深さ。

 

終わらない悲しみ 分かちあう覚悟がたりないなら

いまのぼくには あなたのこと 愛する資格はない

 

歌声も言葉も、ここがグッ…と刺さった。

な・ん・で・な・の!と叫びたかった八さんの背中に、わからなかった何かにひとつ区切りがついたと思えた。

もちろん作品は作品で完結しているもので、物語の意味合いを変えるつもりもない。ただ、わからないままだった気持ちの整理ができてうれしかった。

 

 

Mステでの「つよがり」披露も、しっかりテレビ前で見た。

緊張がひしひしと伝わってきた。それでも、歌い始めてからの眼差しはやっぱり真っ直ぐで、松下洸平さんが歌うからこその憂いと気品が表れていた。

歌詞でイメージした世界観とは別に、松下洸平さんがこの場で表現していることから受け取るものもあって、「つよがり」とタイトルになっているけれど、“さよならは言わない”ことへの確かな決意に心揺さぶられるものがあった。

リリース直前にされていたインスタライブを見ていても、ひとつひとつのコメントを読もうと何度も目線を向けて、真剣に丁寧に話をする方だとあらためて感じた。

 

MUSIC FAIRでの歌声もとても素敵で、TUBE×緑黄色社会×松下洸平さよならイエスタデイ」のコラボは最高だった。

フラメンコギターに、ツインエレキギター。キーボードにベース、ドラム、パーカッション。

各セクションがいきいき演奏を楽しんでいる様子が眩しい。歌うのは前田亘輝さん、長屋晴子さん、松下洸平さんの声はそれぞれに個性を放ちながら調和していた。

前田亘輝さんと松下洸平さんがハーモニーを作るとこうなるんだ!と聴きながらワクワクして、スパーンと飛んで行く前田亘輝さんの声からはぐれず、声量をぐっと増して歌う松下洸平さんが魅力的。スタッカートを効かせた歌い方がたまらなかった。

ラテンなメロディーに松下洸平さんの声はとても合っていて、『ら』の音ですこし掠れた声の音色が灼熱の日差しを感じさせた。

リハーサルらへんから追加されたという決めの振り付けも楽しくて、音に合わせて演歌のようにこぶしを落としていくところ。サンバのステップでリズムに乗るところ。後半はもう身体の赴くままに、前田亘輝さんがノリノリでステップを踏み出したら松下洸平さんもステップに乗るところ。

バンドメンバーも楽器を弾きながら振りに乗っている様子から、セッション…!という熱を感じて嬉しかった。

すでに何度も見ている。これからも、夏が過ぎても見ると思う。

 

見つめあったら最後、逸らすことは許されないような求心力のある眼差し。

耳にしたら、なにを伝えようとしているのか聴いていたくなる声。

松下洸平さんの魅力を知るのには、まだ時間が掛かる。