あの人にとってのヒロインは自分ではなかったと気づいた時、価値観がひっくり返るほどの衝撃を受ける。
だけど「HADASHi NO STEP」を聴いた時、今の私のままでも、まだちょっと歩けるかもしれないと思った。
LiSAさん
「HADASHi NO STEP」
作詞:LiSAさん
作曲:田淵智也さん
曲名にある“HADASHi”の“ i ”が、小さなiになっているところにきゅんときた。LiSAさんの名前に重ねているのか、小さな愛に掛かっているのかわからないけど良い。
そして、作曲がUNISON SQUARE GARDENのベース 田淵智也さんだということに驚いた。
メロディーが魅力的なわけも、ベースの躍動感も、ギターのカッティングの楽しさが満ちている理由も納得した。
“淡い夢 甘いトキメキ”のビートの刻み方がとても好きだ。
シンデレラをテーマにしているとしたら、好きになれるだろうかと少し不安があった。
シンデレラという作品が、受け身で、王子に見出されることを待っているだけのような象徴にされることがあるのは、ディズニー作品としての「シンデレラ」や童話の「シンデレラ」からのイメージではなくて、“シンデレラストーリー”とされる二次的なテーマの使用からきている気がするからだった。
オーディションに密着したドキュメンタリーや、ドラマや映画の中で描かれる、一変する状況に対しての“シンデレラストーリー”は、“シンデレラ”という人の生き方とは別物だと考えたい。
「CDTV ライブ!ライブ!」で、原色バリバリの衣装を見にまとい、ダンサーさんたちもカラフルにキュートに踊っているパフォーマンスを見て、好きだなあと思った。
しくじったな 涙を見せちゃった こんな私キライ
いじっぱりだとしても じぶんに負けたくないや
“しくじったな”と表す感覚に、心動かされた。
他のどんな言葉でもない、自分に向かって募る悔しさが身に覚えのある痛みとして伝わってくる。
恋を謳歌!な歌詞かと思ったら、
世間はいつも愛だ恋だ それもいいけど
じぶんを ねぇ、ちゃんと 抱きしめてたいよね
サビの歌詞。いい。
“それもいいけど”と愛も恋も否定してはいないところも含めていい。
この歌詞の時のダンスで、自分の頭の上をふわっと腕でかすめて、自分に魔法をかけるような振り付けになっているところも好きだと思った。
いつか履けなかった ガラスの靴
いまはまだ裸足で踊れそうよ
泣いて ぶつかって 不器用なステップで 近づけば i love you?
“いつか履けなかった ガラスの靴”だから今度こそ、ではなくて、“いまはまだ裸足で踊れそうよ”
“いまはまだ”なのも、これからのことは未知な感じがして好きなポイントだった。
そして、“i love you?”でほのかな予感もする。“ i ”の後のLやYは大文字でもいいかもしれないところを、すべて小文字にしてあって、そこにつづく“?”マークがまだ確信にはなりきらない恋のような何かを表して素敵だと思った。
振り付けで、LiSAさんが掲げたハンドサインを見た時、テンションがさらに上がった。
親指、人差し指、小指を立てた手は『I Love You』のサイン。
四六時中 危険予測ばかり あれこれ浮かんでる
願うなら 寝起きみたいな心で飛び込みたいわ
印象に残った歌詞だった。
なんて無防備な…!と思うということは、最初の行の歌詞に気持ちが重なっているからだとわかる。
“寝起きみたいな心で”飛び込むことができたなら。思いもよらないことに遭遇できるのかもしれないと、憧れが募る。
淡い夢 甘いトキメキ
大人を理由に遠ざけてる
好きになったあとのことなんて “あと”からでいいはずなのに
…ね。ただただ頷きたい。
変わらないでしょと思っていた考え方も、歳を重ねて変わっていくものがある。
自分の歳を憂う気もないのだけど、前半からたどり着く後半では嫌が応にも大人を自覚したりする。
そうでなくても、始める前から結果を考える。極論だとわかりながら、終わるなら始める理由はなんだろうと思っていたりする。
今はこう。後では後で。と考えられたなら。
自分はヒロインなんて言いたいわけではなくて。
ただ、いつかの自分が誰かにとってのヒロインであれたなら。
そして、“今はまだ裸足で歩けそう”な自分のことを楽しむことができたら。浜辺を歩くようにのびのびと進めたら。
同時に生じる二つの思いを胸に、きっとまだまだ先を歩く。