BTS「Butter」なめらかに君の心に溶け込んで、気概は語らず曲で魅せる

 

イエローの背景にハートの溶け出すバター。

「Dynamite」で、これぞ最高作…と思わせてからの次のカードを出せる強さを、あらゆる角度で感じた1曲だった。

あまりに徹底的に完成されているから、考えて分析しだすと気力体力を360GBぐらい一気に使うのではと思って躊躇していたけど、「Dynamite」があって「Butter」が置かれたことの意味をやっぱり整理したくなって、書く決心をした。

せっかくのセンスとベールに荒い触れ方をしないよう、気をつけて書き進めたい。

 

グルーヴの増した曲調に、低音のビートが聴いたメロディー。

入りのビートが“35億”に近い気がして、オースティン・マホーンの「Dirty Work」との共通点を感じた。つまり潜在的にノリたくなるビートが刻まれている。

比べて聴くのは野暮かなと思いながらも、好みなのは「Butter」だった。

そうは言っても、グラミーへのノミネートから発表のその日まで、「Dynamite」が魅せつづけた花火のように華やかさ。一瞬で消えはしない空高く上がっていくメロディーと、引きつけて離さないダンス。

どんな場でも、何度踊ろうとも全力なパフォーマンスを見て、「Dynamite」で取れるのでは。取れるよと、段々と思うようになっていた。

 

自分の視点が外野にいると自覚するからこそ、結果に何を言うのも違う気がして、静かにすることを選んでいたけど、んーそうか…と思ったのも事実だった。

「Dynamite」の次に、何を出すか。いつ出すか。

良くも悪くも視線が集まる、次の全編英語詞の曲としてのカードに「Butter」を出してきたということ。

気を緩めたりするでもなく、ある意味での一呼吸を置かずにフルスイングを躊躇わない勢いがすごい。

 

歌詞の表現にも、ユニークさが散りばめられていた。

“criminal”で“trouble”と表すところに、特にそう感じる。ポップでヒーローな位置を取らずに、ヴィランズ的なキャラクターを演じてみせる。

smoothやcriminalとくると、マイケルジャクソンの「Smooth Criminal」を連想したくなるのも、きっと想定済みなのだろうと思った。

かっこいい姿は僕のおかげではなくて、“Yeah l owe it all to my mother”(僕のお母さんのおかげさ)と答えるところも特徴的。

 

ここのフレーズが好きだと注目する箇所もいくつかあって、

特に好きなのは、“robber”の発音と、“got ya”を音に任せて軽く跳ねるところ。歌い方だと“got it bad”の“bad”の声がひるがえるところ。

聴いていてあらためて、ネイティブな発音にこだわるとしたら難しさがあるかもしれない“Butter”という単語を繰り返すこと自体もチャレンジだと感じた。

 

Rollin' up to party got the right vibe

(僕たちは雰囲気を見計らって パーティーに登場する)

Smooth like butter

(バターのようになめらかに)

 

グラミーへの思いは改まって多くを語ることなく、曲で示す気概に息を飲んだ。

メンバー自身の持つ思いはもちろん、見守っていたファンの気持ち。それをどう引き連れて行くのだろうと思っていたら、曲の後半、全てを組み込んで魅せた。圧巻の構成。

特にラップのパートで、そのメッセージは浮かび上がる。

Got ARMY right behind us when we say so

(僕たちの後ろにはARMYがいる 僕たちは言うんだ)

Let's go

(行こう)

ファンの呼び名“ARMY”をメンバーが体文字で作る動きにも溢れている。

フレーズとしても字幕表示も一瞬な、“like us hate us”(僕らが好きでも 嫌いでも)の歌詞は印象に残る。

 

Smooth like (butter)

(なめらか(バターのように))

Cool shade (stunner)

(かっこいいサングラス(魅力的さ))

 

And you know we don't stop 

(僕たちは絶対止まらないことを 知っているだろう)

 

Hot like (summer)

(ホットで(夏のように))

Ain't no (bummer)

(させない(失望は))

 

You be like oh my god

(君は oh my god と叫ぶだろう)

 

ムードを落ち込ませず、士気を上げる。

メンバー自身が最も気落ちしているのではと思っていたところに、むしろファンを気にかけていることが伝わる表現で、

例えば、当てつけや怒りのような方向で見せつけるように曲にするのでもなく、華麗にスマートに。諦めていないことを示した。

 

しかもラストが最高にかっこいい。

Hotter?

(もっとホットに?)

Sweeter!

(もっとスウィートに!)

Cooler?

(もっとクールに?)

Butter!

(バター!)

 

Get it, let it roll 

(わかったなら 始めてみよう)

 

“Get it, let it roll”と言い表すところに、始めるなどの文字通りの意味に加えて、フィルムカメラが再び回りだすようなイメージがして、映画監督の『Roll.』『Action!』で始めるように、まだまだストーリーは止まることなく続いていくのだと思った。

日本の歌番組で付く、BTSの日本語訳をしている方のセンスが好きで楽しみにしていて、「CDTV ライブ!ライブ!」の訳が今回もよかった。

特にこの最後の畳み掛けは、英文の意味の通りにニュアンスを省略も落とすこともせずに、“もっと”と付けてくれたことで、心くすぐられる雰囲気がそのままに伝わる。

 

「Dynamite」「Butter」のどちらも、単語1つで覚えやすいタイトル。

誰もが知っていて、理解できる物の名前。覚えやすいだけでは忘れやすいとも紙一重になってしまうけれど、曲の中にもその単語が印象的に繰り返されることで、意味のあるフックになる。

そして曲の短さの中での見どころの置き方、構成力もすごい。

前後の演出をカウントせずに曲で見ると、おおよそ3分でフルパフォーマンスが出来る。YouTube再生をした時に、表示された2:57の数字にそんな短いの!?と驚いた。5分や6分ではなく、たった2分57秒で観せる。

普段曲を聴く時は、6分ある曲や長さのしっかりあるものも好きだけど、これはこれですごい。

 

 

公式から様々な歌番組でのパフォーマンス映像がアップされることにも驚いていて、日本もアメリカも関係なく何度でも見られるようになっている。

最初に見たのはフォーマルver.で、その後にカジュアルver.を目にするという順番も見事に引き込まれる順序だった。

特にBillboardのフォーマルver.での、バックステージのミラーで身なりを整えてから移動して、口笛で“お待たせ”の合図からのスタンバイ。そして順にカメラ目線。痺れないはずがなかった。

 

手の甲に自らキスを落とす振り付けに、ぐうの音も出ない。

徹底したダンスの途中に、アイドルとして視覚的にも見入る魅力も見せる。至れり尽くせりですごい。

さらに、腕を伸ばして2人でダイヤ型にミラーを形作る動きが好きで、歌っているメンバーがそこから顔を覗かせて、そのまま前に出る振りがいい。そのまま前に出るパターンの時と、後に下がるパターンの時があるけど、前移動が好きだった。

“Side step” “right left”の歌詞に合わせて、伸ばした脚をスライドさせる動きも美しい。

GUNをイメージする振りには、おおうとなるけど、ひとつひとつの動きと音の息が合っていて、聴きたくなって見たくなるダンスになっている。

 

 

「Butter」というタイトルを聞いた時に、パッと思い浮かんだことが2つあった。

betterではなくbutterなんだという事と、ほのかに黄色であるバターを選んだのには訳があるのだろうか?という事だった。

いやでもこじつけになってしまうかなと思っていたところに、ジャケットデザインがくっきりとしたイエローであることを確認して、その意味もあるのかもしれないと思うようになった。

曲紹介では、明るくて軽快なサマーソング。バターのように溶け込む恋心を歌った、可愛い告白ソングですと話していて、その言葉通りのテーマもひとつであることは確か。ただそこに、そっと記したいこともあるのかなと想像の範囲で感じている。

なにかあるかもしれないと自分の中で感じたのは、星野源さんが静かに一貫して表現してきたYELLOW(イエロー)の軸をこれまでも感じてきていたからだと思う。

同じと言いたいわけではなくて、それぞれに表現する意味合いがある前提で、自分の中ではそう連想して引き出された。

「Butter」は強くそこに注目させたくて作られている曲ではない。ただ、そう感じることもできると思った。

 

世界進出を視野に入れてから、防弾少年団のローマ字表記からきている「BTS」を通称にしたことも、覚えやすさと親しみやすさの意味で、最適なプロモーションによって進むすごさを感じる。

パフォーマーとして磨きをかけ続けるBTSメンバー。

作詞・作曲・編曲。衣装、MV。プロデュース。プロモーション。それらを担う人たちがいて、集い合った時に発揮される力。チームとして強い。

今「Butter」を表に出したということは、まだまだ自信を持って出せるクオリティのカードを持っているということになる。

さらにアクセルを踏み込んだ時の勢いがどんなことになるのか、見たくて、こわくて、見たい。