珈琲屋さん

 

珈琲、いいな。珈琲、興味あるな。

そう思い始めたときに、珈琲屋さんを見つけた。

 

飲みに行くようになった。

飲んで、帰る。それだけのことだけど、電車二駅分お出掛けをしたような気分になった。

ドアを開けると珈琲の香りがふわっとする。ベールみたいな、カーテンみたいなものがある感じがして、気持ちが落ち着いた。

 

カフェラテのホットを頼むと、ラテアートを作ってくれる。

葉っぱ、ハート、くま。

だから今回はアイスカフェラテかなーと思っていても、いざオーダーをするとホットを選びたくなる。

ミルクがまろやかで、泡がきめ細かくて、お砂糖を入れずに飲めた。

日によって、口当たりが変化することも気づいた。自分の体調もきっと影響があって、甘さを求めている時はお砂糖をひとさじ多めに入れたりする。

 

このお店、居心地がいいな。よく来るあの人になりたいなと思っても、定期的なコミュニケーションを築くのが不得意で、好きであればあるほど静かに淡々と、必要最低限で、困らせることがないようにと退散してしまう。

でも今回は関心が勝って、少しできた時間の隙間に「珈琲を家でも淹れてみたいと思っているんですけど、どんなドリッパーが良いとかありますか?」と聞けた。

親切に教えてくれて、メーカー名はその場でメモをした。

帰ってからメーカー名を頼りに色々検索していると、流れ流れて、これだ!と思うものを見つけた。

全く同じものを買おうかと思っていたけど、自分にはこれだなと思ったらそれ以外に迷うことはなかった。

 

 

その後、珈琲を飲もうと足を運んだら「ドリッパーはどうでしたか?」と珈琲屋さんのほうから聞いてくれた。

こんな感じのものにしましたーと話すと、そのドリッパーをコラボで販売しているお店のことを知っていて、人気でなかなか入れないお店ですよと教えてくれた。

なにもわかっていないまま、これ!と買ったドリッパー。思いがけないお店のものを選んでいたんだと気づいた。

 

珈琲を飲む。本を読むでも何をするでもなく。

黙ってひと時ぼーっとしていると、カウンターの上に水出しコーヒーを作る容器が置いてあった。

まさに抽出の最中で、大きい砂時計みたいな容器の中で水が一滴一滴落ちていって、珈琲の粉に浸透していく。

下からまた一滴一滴と今度は珈琲の色になって落ちていって、ちょこっとずつ底に溜まっていく。

じっと見ているだけでいいなと思った。

 

コールドブリューと聞きはするけど、これのことかと興味深く眺めて、

すこしまた勇気を出して質問をした。時間をかけて抽出して二杯分ほどなこと。じっくり抽出するから苦いのかと思ったら、さらっと飲める口当たりになること。

ちょこっとずついろんなことを教えてくれた。

 

話を終えて、あと少しだけ休んでから行こうと思っていたら、抽出していた容器を下げた珈琲屋さんが「すこし試されますか?」と持ってきてくれた。

なんてことだと嬉しくて、グラスに入ったゴツゴツした氷と透き通っている珈琲を眺めてから香りを確かめて、おずおずと飲んだ。

驚くほどフルーティー。苦味やえぐみがほとんど無くて、香りはアイスコーヒーだけど口に含むと紅茶みたい。

 

グアテマラゲイシャ種の豆なんだと聞かせてもらった。

珈琲屋さんがほかのお店で飲んだ時には一杯900円していて、めずらしい豆を分けてもらったから、お店で出す用ではなくて試しに淹れてみたんですと話してくれた。

どれだけのものなのかは、後になって調べてわかった。

そんな貴重なものを、本来ならひとり味わいたいはずなのに、新参者な私にもテイスティングさせてくれたことがたまらなく嬉しかった。

 

珈琲を淹れるための器具のこと、どんなひと手間をかけるのか。珈琲の味の違い。

弟子入りをしたわけではないけれど、少しずつ教わっているのが楽しい。

ドラマ「珈琲いかがでしょう」を見ながら、こんな出会いがあるとは思わず、贅沢なことだと噛みしめた。

 

「珈琲いかがでしょう」と猿田彦珈琲がコラボしたTAKOブレンドの豆と、気に入って決めたドリッパーがもうすぐ届く。

家にずっと置かれていた、豆を挽くミルがようやくインテリアではなく活躍してくれる。

自宅で淹れてみる珈琲の話は、また今度したい。