Sexy Zoneの曲から選んだ、切なさ三銃士。甘くほろにがい「無邪気な時間は過ぎやすく」

 

切々と積み重なる心の声と、キャラメルマキアートのみたいに合わさる歌声。

声が泣いていると感じさせるSexy Zoneのボーカルに、素晴らしく寄り添っていると感動した曲が「無邪気な時間は過ぎやすく」だった。

 

無邪気な時間は過ぎやすく

作詞:久保田洋司さん

作曲:萩原和樹さん

編曲:松本良喜さん

 

4thアルバムとしてリリースされた「Welcome to Sexy Zone」の初回限定盤にしか収録されていないことが惜しくなるほど、素敵なバラード。

歌っているのは、中島健人さん、菊池風磨さん、佐藤勝利さん。

ユニットとして聴く魅力もあるけれど、いつか5人で歌う「無邪気な時間は過ぎやすく」を聴きたいという夢がある。

カップリングで留まるにはもったいないからこそ、ライブや歌番組でも聴きたい。広く聴かれるきっかけがあってほしい。

先日、Sexy Zone 10周年となってリリースされたアルバム「SZ10TH」のDisc 3にファン投票で決められた曲が入ると知った時、密かに期待していたものの、収録はされなかった。

でも、今ではないほうが5つの声で聴ける可能性があるかもしれないと思うようにした。

 

Sexy Zoneの涙声ベストを個人的に挙げるとしたら、

「A MY GIRL FRIEND」

「無邪気な時間は過ぎやすく」

名脇役

この3つで、切なさ三銃士だと思っている。

 

 

「無邪気な時間は過ぎやすく」は、歌の始まりのコーラスから、夏の夕暮れ時を感じた。

そしてどこかSMAPの「オレンジ」と通じるものがあると思った。コード進行も重なる所が多いのではと思う。歌詞の世界観も。

離れていくことを惜しみながら、それを受け入れている。それでも堪えきれない切なさが、後ろ髪を引く。

 

 

はじめに並ぶ言葉から、二人が若くて、今も若いながらも過去を振り返る情景が思い浮かぶ。

 

こんなに強く抱きしめられたことは

はじめてだって君は その頬を染めて言った

 

この歌詞が印象に残ったのは、“君”が抱きしめられたことをはじめてだと言ったわけではなくて、“こんなに強く抱きしめられたことは はじめてだって”と言ったところだった。

初めての恋でないとしても、強く抱きしめられたのは彼女にとってはじめてだった。

力を込めずにいられなかった“僕”の心情は、どんなものだったのだろう。

 

会いたくなる 切なくなる 

君の声を聞きたくなる

あんなさよなら なんて嘘さ

こんなに好きなのに

 

切々と、気持ちをひとつずつ置いていくような言葉が綺麗で、儚い。

ダダッとリズムが入って、一拍置いての“会いたくなる”が心を掴んで、“頬を染めて言った”君のことを思い出した後につづく歌詞がこれなことに、胸がしめつけられる。

悲しさが溢れているのにメロディーは優しく、陽だまりのような温かささえ感じる。

離れていくのに包容力が伝わる、不思議な曲だと思った。

語尾が“なる”で揃えられていて、音にも丸みがあるところが好き。だけど、“あんなさよなら”という言葉から、思いにもないことを言って突き放したのではとイメージするその後悔は、棘みたいに痛みもある。

 

笑顔見せて 泣かないでね

離れていたって平気さ

幾度となく 君に言った言葉が

この胸を今 たまらなくする

 

“たまらなくする”という言葉がもう。

サビの続きで聴こえるこの歌詞が、はじめは一つの時系列の中で伝えている言葉だと思っていたけれど、

前のニ行と、後ろのニ行でスペースをひとつ空けて解釈すると、“離れていたって平気さ”と言った時から月日が経って、その言葉を現実にできなかったことを思い返して“この胸をたまらなくする”と抱えているのかもしれないと想像した。

“君”がそう言ったのではなくて、大丈夫だと信じたかったのは“僕”のほうで。

“君”に伝えるように言った言葉が、本当は自分自身に言い聞かせていたかった言葉なんだとしたら切ない。

 

 

無邪気な時間は過ぎやすく 気づけば

帰りの電車の窓 僕一人の影が揺れる

 

“気づけば”を歌う中島健人さんの、声のひるがえり方が可憐。

その前の部分の、“過ぎやすく”の『く』をぎりぎりまで伸ばすところもニュアンスが素晴らしい。

 

「無邪気な時間は過ぎやすく」という曲名。

めずらしさのある曲名だと思ったけど、ここにきて意味がわかってハッとした。

“無邪気な時間”は、広い意味では二人の若く過ごした時間かもしれない。そしてここの歌詞では、楽しく過ごしたデートの時間のことなんだ…とわかった。

さっき待ち合わせて会ったばかりなのに、ふと気づくともう帰りの電車に揺られている。

そんな物悲しさを、“帰りの電車の窓 僕一人の影が揺れる”と表現するところが素晴らしい。

“君”と一緒に帰っているのではなくて、一人で電車に乗って、地下鉄なのか日が暮れたのか窓に姿が写って自分と目が合った時の寂しさ。

 

そして2番に入って、

会えなくなる 寂しくなる

君との日々が遠ざかる

とサビの言葉が置き換わる。

たったニ行の変化がこんなに切なくなるものだとは。

“会えなくなる 寂しくなる”と先に諦めてしまったのは、“君”でも状況でもなく、“僕”の心だと聴いていて感じるからかもしれない。

 

忘れられない想いの強さを抱えながら、どこか離れることが互いにとっていいことなんだと考えていそうなところが、やっぱりSMAPの「オレンジ」と繋がるやるせなさを感じる。

 

歌詞の切なさ、メロディーが作り出す儚さと、アコースティックギターの音にネックをきゅっとスライドさせる音まで聞こえる繊細さ。

そこに、中島健人さんと菊池風磨さんと佐藤勝利さんの声が重なって、

佐藤勝利さんの歌声からは涙を堪えた寡黙さのトーン。中島健人さんの歌声からは振り返るノスタルジックな情景。菊池風磨さんの歌声からは後悔と涙が伝わってくる。

 

佐藤勝利さんの声質での下ハモは、さりげないながらも層を作る重要な役割を持っていて、

中島健人さんが主メロを歌うパート、菊池風磨さんが主メロを歌うパートのそれぞれで、低音のハモりをしている。

それが大サビの盛り上がりと同時に、中島健人さんと菊池風磨さんがユニゾンになる。

一つの声のようになる二人の声。ぴったりと沿って下ハモに入る、佐藤勝利さんの歌声に心奪われる。

 

中島健人さんの声で表現する甘さは、ソロ曲「CANDY~Can U be my BABY」で直撃して「ディアハイヒール」で圧倒されていたけど、菊池風磨さんとのユニゾンになって並ぶ、二人の甘さが絶妙に合わさる魅力を、この曲から知った。

 

心落ち着く風味の佐藤勝利さんの歌声がコーヒーの役割で、まろやかさをつくる中島健人さんの歌声がミルク、

とびきり甘くアクセントになる菊池風磨さんの歌声がキャラメルソースなら、合わさる歌声はキャラメルマキアート

甘く、ほろにがいこの曲が、とても好きだ。