動かさない表情筋が素晴らしい
平熱で、だけど体温がちゃんとある
ぎゅっと24分で映る、その機微。
和山やまさん作の漫画「夢中さ、きみに。」がドラマになった。
舞台を観ているみたいな安心感もある。だけど映像だからできる演出の遊び心も感じる。
林くんを演じるのは、なにわ男子の大西流星さん。
林 美良くんの佇まい。メンバーと居る大西流星さんの雰囲気とも声色とも違って、予告を見た時、知らない人を見た感覚になった。
甘いカフェオレと、パン。外階段の途中で、立ったまま食べる。林を見つけて声を掛けようとした江間に、無言で人差し指をそっと口元にあてる仕草。
その空気に飲まれて、時が止まる。
フォーカスされる登場人物は林くんだけではなくて、二階堂や目高、江間、小松、山田。松屋さん。
主演が誰かということがポイントではなくなって、映る人物が変わる度、視点と一緒にぐるんと世界が入れ替わる。
余白があって、むしろ余白のほうが多くて、
全5話のどれも、同じドラマだけど違うものを見ているようでもあった。
不思議、と表現するのがしっくりくる。どこかホラー?とハラハラする空気を感じたかと思えば、人が人に向ける興味、知りたいと突き動かす衝動。
それが真冬の夜明け前みたいに静かに描かれていて、一定にならないバランスがおもしろい。
関係性で語りだすと、目高と二階堂に完全に捕まった。
目高を演じている、坂東龍汰さん。
あれ?なんか…気になるかも…と自覚した時には既に。
第5話での「大事だよな、平和」すごくよかった。含みと空気感、ほんのちょっと上がった口角。“、”の間にあった、沈黙も。
どの回も、いい。
けど特に第5話は、こことここが!さらにあっちにもこっちにも!と、結びつくようには見えなかった点たちから、瞬時に線が走って行って繋がる。
繋がっているんだけど点の位置は無理に近づくことも遠ざかることもしない。
軌道に合わせて、ただ浮いている。
それこそ星座のようだと思った。
オープニングテーマで駆け抜けていくBroken my toybox「Hello Halo -ReLight-」
ピタッと映像と合わさって響く“バイバイ”に、爽快感とザワッと感が同時にくる。
エンディングは、物語の延長線上でそこにあった撮影風景を、メイキングなのかドラマの続きなのか曖昧にするニュアンスで構成されている。
そこに流れてくる、なにわ男子「夜這星」が静かで、やはり淡々としながら、唯一、メロディーが刹那的に進むなかでグッと盛り上がる、
なぜだろう どこか 不思議な気分さ
という歌詞と合わさって、なぜなのか泣きそうになる。
メロディーだけでなく歌い方も、
なぜだろう どこか ふしぎなきぶんさ
と、アクセントが跳ね上がるようについていることで、心臓がひょっと跳ねるときめきみたいなものが表れていると感じる。
どの回の台詞を取っても、好きな日本語があちこちにあるドラマだった。
「どう?神出鬼没のかわいい僕は」
衝撃。
かわいいことへの反論などない。なんてユーモアのあるやり取りなんだと思った。
「いつまで可愛いつもりだお前は」と林に言った言葉も、「いつまで“かわいいつもり”だお前は」と受け取れば、かわいい“つもり”でいるのがいつまでなんだと尋ねていることになる。
「“いつまでかわいいつもりだ”お前は」に重点を置くと、口にしたことで、“かわいい”ことを認めていることになってる。
句読点など、目に見える形で読めていたら、それはわかりやすい会話になるのかもしれないけど、『音』で聞く日本語は、どっちとも取れる意味を含んで、おもしろい。
好きな日本語で言えば、もうタイトルの「夢中さ、きみに。」がとても好きだ。
漢字にする所と、ひらがなにしている所のバランス。点と丸。美しい絵を眺めているみたいに、目が好んでそれを見つめる。
学校の薄暗くてちょっと埃っぽくて、人はそこらじゅうにいるのに個人な感じ。
それをシュールに、ある意味リアルな肌感で描いているのに、見ていて嫌な記憶が蘇らない。自分の中でも特別な学校ドラマだなと感じていた。
同じクラスにいても、後ろの席は他人。
そんな距離が小さな空間の中でもあったことを思い出した。
でもほんのちょっとの、必要に迫られて話すことになったきっかけで、空気の壁は嘘みたいに無くなったりして。
どこでもなく、でもここにある。
「夢中さ、きみに。」を見ている時間だけ、どこにもいない気分になれた。