ミモザのように咲く、原田知世さんの歌う「September」

 

原田知世さんの歌う「September」は、ミモザの橙と黄が溶け込む色をイメージさせる。

そっと咲いて、ささやくようにこぼれる哀しみは、まあるく小さくささやかに。

 

竹内まりやさん「September」

作詞:松本隆さん 作曲:林哲司さん

原曲も無意識のうちから耳にしていた。

原田知世さんの声がなんとも素敵なことは、映画「しあわせのパン」で知って、歌声は日本の曲のカバーに限らず英語の曲のカバーも耳にしていた。

BS NHKの歌番組「the Covers」で披露された、「September

このカバーのことを時々思い出しては、その空気感に浸っている。

 

柔和で、儚さを感じる歌声。

原田知世さんの歌声への印象はそうだった。

歌詞の物語の鮮やかさを、出来るだけシンプルな色合いにして、主役ではなくナレーションのように客観性を持って淡々と歌っているようにも聴こえる。

情感を込める表現方法が一方にあるとしたら、その対局にある気がしていた。

けれど、「September」で引き込まれたのは、強くは主張しないながらも確固とした芯のある主人公像が歌声から伝わってきたからだった。

わからない距離にいた歌詞の“彼女”を、とても身近に感じて、歌詞の言葉ひとつひとつが哀しく、それでも受け止めて整理をつけた心境が美しく描かれていることに感動した。

 

はじめはメロディーの美しさに。

もう一度聴いて、歌詞に込められた情景描写の素晴らしさに。

三度目で、それらが合わさり映画のフィルムが進んでいくように鮮明に動きだす。

 

 

会う約束のない日に恋人を見つけて、隠れながら追いかけてしまう彼女。

“色づいたクレヨン”の歌詞に、画用紙に厚く色の付いた黄色やオレンジ、明るい緑、紅葉の眩しい鮮やかさが目に浮かんだ。

 

セプテンバー そしてあなたは

セプテンバー 秋に変わった

夏の陽ざしが弱まるように 心に影が差した

 

変わる相手を止められない虚しさを、静かに情感で包みながらでも淡々と。

“セプテンバー”という音の響きがまず魅力的で、繰り返し耳にする心地よさがある。

季節感の表現だけにせず、その後の歌詞では“そして9月は”と具体的な月のことを言い表していて、

ひとつの月が浮かび上がることで、それまで二人がめくってきたカレンダーの月日があることが想像できる。

 

夏の陽ざしが弱まるように 心に影が差した

ここの表現がとても好きで、暖かかった時間をどんなふうに例えるよりも、この一行で伝わるものがある。

2番にくる歌詞では、彼を取り戻したい心情が表れているけど、“唇も凍える”と相手を直接前にしたとしても、言い出すことの出来ないやるせなさがある。

歌い方によっては、もっと彼にも相手にも執念を持つ、危うさのある聴こえ方をするかもしれない。だけど原田知世さんの声から想像したのは、自分のお気に入りをわかっている女の子で、さらっとなびくワンピースに革靴を履くような人物像だった。

 

セプテンバー そして9月は

セプテンバー さよならの国

めぐる季節の彩りの中 一番さみしい月

 

“そして9月は”と言われることで、9月が来る前にもう別れの予感はしていて、ついにやってきたその月なんだろうなと感じた。

お別れねと言うのでもなく、“さよならの国”と表されているのが可愛らしくて、だけどもう立ち入ることのない国という意味では、きっぱりとした境界線も見える表現。

めぐる季節の彩りの中 一番さみしい月

ここがもうひとつ、際立って好きな歌詞。

季節を“彩り”と捉えて、“一番さみしい月”と愛しむ気持ちも言葉に添えるのが素敵だと思った。

 

歌詞の中での、“残された優しさね”の「ね」の音の落ち方。

諦めとも切り捨てとも受け取れるニュアンスの幅。いずれにしても、泣かされるだけではない勝ち気な頼もしさが滲む雰囲気に惹かれる。

どこに呼吸を置くか、息づかいひとつで歌詞のニュアンスに変化がつく原田知世さんの歌声。丁寧に、緊張しつつもわくわくしながら歌っている様子が伝わって、この時だけ生まれた「セプテンバー」の色に魅了された。

 

 

“借りていたディクショナリー”のパートで、それまで打ちひしがれていた少女の印象がふと表情を変える。

涙に暮れるばかりではないのと見せるかのような、一回り余裕な微笑みにドキッとする。

歌いながら、ほとんど身振り手振りはしないなかで、ここでは片方の手を胸の前に曲げたポーズをする様子が、指先にまで漂う上品さも含めて惹きつける。

 

水着とは言い表さず、“トリコロールの海辺の服も 二度と着ることはない”と表現するところにも、言い回しの美しさを感じた。

歌詞として、抽象的にするところと具体的にするところ。足し引きの美しさ。感動しながら、吸収したくなる繊細さが随所にあった。

 

可憐なだけではない「September」

原田知世さんの歌うこの曲は、涙を自分で拭うことのできる、ミモザの刺繍のハンカチのようだった。