「今を犠牲にしなければ、未来は手に入りませんか」
先生に尋ねた、野上の質問にドキッとした。
そういうものだと諦めた枠から視点を変えたとき、どっちもが叶うかもしれないと思うことは、考えが青いだろうかと問われた気がした。
家の事情で海外へと行くことになった、鷹野エリカ。
“16歳には難しい”と、力が抜けていくように呟くエリカの言葉が胸に残っている。
納得いかなくても、どうにかしたくても、それが出来ない時がある。
チカを縛るもの
全部なくなれ!
そしてもっと自由になれ‼︎
牧の中学時代の同級生だった、春島エリカが本のカバー裏に隠した言葉には、そう書かれていた。
ほかのどんな言葉でもなく、エリカが牧に一番伝えたかったこと。
それを願ってくれる他者がいることが、どれだけ心強いか。無意識に縛っている自分に気づけることが、どんなに大切か。
“誰かの手を借りれば、希望が見える”と気づいた牧は、声も姿も輪郭がはっきりとしていて、
儚く何かを追いかけているような目線がようやく、目の前にいる野上、神木、桃井、源田、花井、藤木に向いたように見えた。
“そして自由になれ”ではなく、「そして“もっと”自由になれ!!」
今だってそうだよと肯定しながら、もっと広がるよと伝えているみたいで。
エリカの手書きで書かれた文字を見た時、心が揺さぶられた。
なにか大事なものを目にした気がして、思わずスマホで写真に撮った。放送のあと、エリカが書いた言葉の写った写真が公式に載せられた。それがすごくうれしくて、忘れないでいようとロック画面にしてから今も、スマホを開くとまずこの文字が目に入る。
閉じこもる牧の気持ち、自分 対 自分の部屋の中で、他者が入ること巻き込むことを自分が許せなくて、見失う自由。
今までは自由って抽象的だと、規模がわからないよなあと他人事でいたけど、「メンズ校」で、第10話で描かれた“自由”はよくわかった。
牧たちの歳の頃、そういう仲間を見つけることはできなかったけど、相当な時間をかけて殻から出ることができた。
だから尚更、エリカから牧へのメッセージが心に残る。見てよかった。この台詞を聞けてよかった。
和泉かねよしさんの描かれた漫画「メンズ校」
それが、ドラマになった。
脚本は蛭田直美さん。10話と11話は蛭田直美さんと、いとう菜のはさんのお二人で書かれていて、最終回はいとう菜のはさん。
進学校であり、離島で隔離された男子校で過ごす“彼ら”を演じるのは、なにわ男子。
面倒ごとには関わらずにいたい、だけど相手の変化には無意識でも気付いている牧 主税を、道枝駿佑さん。
成績トップで難なく勉強ができるけど、いつも直球すぎて相手がキャッチできるかどうか考える余裕がない、伝えることに不器用な野上 英敏を、西畑大吾さん。
穏やかな存在感で周囲を気遣うけれど、自分の言いたいことが言い切れないときがある花井 衛を、長尾謙杜さん。
閉じこもっていた扉を自らの意思で開けて、仲間に入りたいと怯えながらも言葉にした桃井 天を、大西流星さん。
小銭を集めるのが習慣。仲間を見つめる眼差しには包容力があって、物事を楽しむことに長けている神木 累を、高橋恭平さん。
寡黙で表情には出にくいけど、思っていることはたくさん。「食」に興味があり、調味料を試行錯誤して味の追求に余念がない源田 新を、藤原丈一郎さん。
3年生で、先輩であり寮長。明るい挨拶、あっけらかんとした気質もありながら、すとんと恋に落ちたり進路の壁にぶつかり立ち尽くすこともある藤木 一郎を、大橋和也さん。
主題歌は、なにわ男子が歌う「アオハル -With U With Me-」
意味がないように思えることを真っ直ぐに楽しんでいる、源田や神木たちを見て「なんでこんなこと…」と呟いた桃井の気持ちがわかる。
何かを起こした結果がどこに到達するか、それを重要視する癖は簡単につく。
選んで捨てていった中でふと、大事なものも捨てている気がして、“無駄”がなんなのか分からなくなる。
「将来とか未来とか、そういうのに役立つことに時間使わないとダメなんじゃないの?」
そう聞いた桃井に、「立つだろ、役に。」と清々しく源田は答えて、
「もし将来、楽しくなくても役立つことにしか時間を使っちゃいけなくなったとき、絶対役立つだろ、今って。」
「うん、思い出すな、絶対。すげえ楽しかったって。」と神木も話して、
「思い出せば、きっと頑張れる。俺には、あんなおもしろいこと一緒にやった仲間がいるって。」
「未来に何が待ってても」
そうつづけた源田の言葉は、等身大の一人一人にも、実際にアイドルとして、なにわ男子というグループを形作っている一人一人にも大切な支えを託してくれているように感じた。
そしてハンググライダーの布に、“自分になりたい”と書いた桃井。
ずっと部屋にいて、見てたみんなの仲間になりたくて、その思いを原動力に制服を着て、校門を通って、学校の中に入って行った桃井はどれほど気持ちを振り絞ったんだろう。
藤木先輩からもらった干し芋を食べながら、遠巻きに眺めていたところから、輪に入っていけるようになった桃井と、なんだかんだで仲の良い藤木先輩コンビが愛くるしかった。
成長を見守ってもらうことのできる期間。モラトリアム期はもう過ぎている自分でも、彼らの姿に感じることはいっぱいあった。
過ごした学生時代を振り返っても、同じような眩しさはなくて、青春をアオハルと呼ぶのはいつからスタンダードになっていたのと思っていたくらい、距離を感じていたものだった。
でも、見守りたくなるメンズ校の彼らに出会って、新たな視点をもらった。
模索するのは学生期間だけじゃなくて、その先にもつづく。
本来なら夏の放送を予定していた、ドラマ「メンズ校」
全12話の最終回を迎えたのは、12月23日。
本人の中にない人物を演じる楽しさも、お芝居にはきっとある。
だけど今のなにわ男子が、年長組は高校時代を先に終えているとはいえ、今の歳に比較的近い年代の役柄をもらえたこと。グループ全員での出演という特別な機会で、揃って時間を積み重ねられたのは大切だったのだろうと思う。
同じクラスになることと、同じグループになること。
生まれた場所、年代。奇跡のような確率や、はじまりは決められて同じ場所にいて、段々と関係性が変わったり近づいたり。時には一旦間を開けてみたりすることを考えると、そのふたつは少し似ていると思う。
グループで活動するアイドルに、私は憧れに近い気持ちがある。
もうクラスを組むことも無ければ、ずっと一緒にいる必要性のある出会いを経験することはきっと無い。
ライブスタッフさんや舞台のスタッフさんに関心が向くのも同様に。仲間に入りたい。何度そう思いながらショーや舞台を観ていたか。
一緒にいる大変さは想像を上回ってあるのだろうと思う。だけど、グループでしか感じられないことがきっとある。
ドラマのエンディングと共に流れる「アオハル -With U With Me-」
ドラマ主題歌になる前に聴いたとき印象的に聴こえた、“空回りしちゃいけない わかっているんだ”という歌詞が、また印象を変えて聴こえた。
空回りでも、一見意味がないように思えても、その先でああ…とわかることがある。
夢中になって熱くなって行動しつづけた時間を、こんなふうに見つめることができるんだと感じたひと夏。
海と砂浜。
よーいどん!で走り出すビーチフラッグ。
ラムネの瓶の中にあるビー玉。アイスの棒に書かれた“アタリ”。
希望寮での夏は、どこにもないここだけの夏だった。