スウィングに身を委ねて、グルーヴに心を預ければ、楽しくて仕方ない気持ちが疼きだす。
どのアーティストのライブを観に行きたい?と聞かれてすかさず答えるほど、藤原聡さんの歌声を直に浴びたいと思った。
「Official髭男dism」
ライブ開催が当たり前で無くなった今になって、アルバムを買っていたのにライブに踏み込むことに躊躇って、行くことのなかった中野ブロードウェイでのライブに、行っていたらよかったと、そんな後悔さえしてしまう。
それでも、通常ライブの代わりではなく、オンラインライブとしての形を模索して思い出の1ページになるようにと開催してくれたOfficial髭男dismのオンラインライブを、時間差でありながら見ようと踏み切ったことは大正解だったと喜びたい。
ライブのセットを組み、セッティングを進めるスタッフさんたちの作業風景が映されたオープニング映像に心が躍る。
ステージ頭上には、アポロシアターを彷彿とさせる看板がスクリーンに映る。
本物の看板のようで、一瞬スクリーンだとは思えない。
“OFFICIAL HIGE DANDISM ONLINE LIVE 2020 ARENA TRAVELERS
SEP. 26 TOKYO GARDEN THEATER”
ツアーがあったなら、この看板の文字も会場と日程ごとに替わっていたのだろうと思った。
劇場と言い表すにはぴったりな、赤い幕が掛かっている。
「HELLO」で幕を開けたライブ。
まさしく、HELLOという言葉がライブの幕開けにもってこい。
このワンフレーズに、歓迎も呼び掛けも願いも何もかも込められているように感じて、どんなに強い言葉を選ぶよりも清々しい“挨拶”に心が引き寄せられる。
曲中の“ッエ”のアクセントを含んだ歌い方がいい。タンバリンの音が印象的に響いて、33:50あたりでのベーシスト楢﨑誠さんの笑顔が本当に楽しそうで、なんていい笑顔なんだ!とぐっときた。
「宿命」でトランペット奏者さんが2人もいて、サックス奏者さんもいることに気がついて喜びがピークに。
指パッチンの動作の魅力。ピアノを弾きながら歌うことの多い藤原聡さんの、マイクひとつを握り締め歌う姿。
歌詞の“掌の爪の跡”という言葉の意味が、力いっぱい握り締めていたからだと藤原聡さんの身振りからわかって印象深かった。
松浦匡希さんのドラム演奏を映すカメラが定点じゃなく、動くことの珍しさをコメンタリーで聞いて、確かにそうだと気付かされた。
みんな楽しんで楽器を鳴らしているのがひしひし伝わってくる。
「ノーダウト」のイントロが来たときの楽しさ。曲始まりで飛ぶ銀テープ!
巻き舌効きまくりな歌声に、熱く高まってきた感情が伝わる。横ノリしたくなるリズムがたまらない。
持ち替えるのは間に合わないため、そのまま弾けるようにセッティングされたガットギター。エレキギターからガットギターを弾いて、からのエレキ!背中に回したエレキをくいっと前に戻して弾く早技。
挨拶があって、
そしてピアノに添える手。「パラボラ」ヒゲダンのコーラスが大好きで。ここでは楢﨑誠さんのコーラスの声が聴ける。
奥のベースを弾く楢﨑誠さんから手前のギターの小笹大輔さんにピントが合う、カメラのフォーカス合わせ。この感じにぐっとくる。
星空の中に突然に入り込んだかのような景色を作るのは、下げられた無数の電球。
エレキギターを弾く指につけて、スライドさせて弾く奏法(スライドバー)に、関ジャムで見た!とテンションが上がった。昔の人は瓶を指につけて演奏していた、ボトルネック奏法によって鳴る音色がノスタルジーで、どこかサザンオールスターズの音楽でも耳にする切なさがあった。
H G D N の大きな文字に電球がついたライトが、ステージ向かいに配置されていて、とても良かった。
メロウな雰囲気でたゆたう「ビンテージ」
すっと消える灯り。「Rowan」
柔らかなスポットライトのあたる「夏模様の猫」
すぐに「イエスタデイ」が続く。
雨粒の伝う窓越しに眺めているかのような画面づくり。床に置かれたミラーボールが下から上へと映す光の粒は、水の中にいるみたいだった。浮かんでは消える泡。
バイオリンの音が響く。
「Laughter」
必ず聴きたかったこの曲。配信前にMVが流れた時は泣かずに聴くことができなかったのに、ライブ中に聴く「Laughter」は、その一音も零したくなくて全神経を集中させた。
ドラムとサンプリングパッドを両方担当する松浦匡希さん。
その声のエフェクトはどうやって?と聞きたくなる「たかがアイラブユー」のアレンジ。トークボックスという物らしい。
エレキギターのカッティングが効く。
MCから後半へ
今回はおしゃべり短めに、歌を聴いてもらおうと歌に移る流れも素敵だった。
「115万キロのフィルム」では、端からチャラララランッとグリッサンドの入る、ジャジーなピアノ。ウィンドチャイムも鳴る。
アレンジによってホーンセクションが入った魅力。
原曲の切実なイメージから、I'll be all right な空気に、楽しく遊び回るベース。
みんなで踏むステップが心地よく、ヴルーヴィーな「異端なスター」
“いい子になんてならないで”と歌詞が胸に残る。
ベーシストがお立ち台でど真ん中!ボーカルを挟んでエレキとベースで煽る構図が最っ高だった。
「旅は道連れ」ドラムの入りがすごく良い!
サックスを吹く楢﨑誠さん!歌声ー!小笹大輔さんの歌声!松浦匡希さんの歌声!次々と興奮が止まない。
カメラワークが楽しくて、ハンディカム(コードレス?)だから可能になる撮影方法。ラスト決めポーズかっこいい!
暗転から、新鮮味のあるアレンジに始まりから好き!と思ったら、それがなんと「夕暮れ沿い」のアレンジだと分かった時のサプライズ。
インディーズデビュー作「ラブとピースは君の中」に収録されている曲で、好きで仕方ない曲だった。
それがこのステージでは、「夕暮れ沿い」ビックバンドジャズバージョン!!!!
サックス効きまくり
映像の色味もオールディーズでかっこいい
スタンドマイクにノリノリで歌うなんて反則
ピアノソロー!
ステップ踏む管楽器隊に弱いのですが!!と思っていたら更に、転調でスローリーになるのズルくないですか…!!ラインダンスのリズムじゃんもう…と好みすぎるアレンジに頭を抱える。
そしてスキャットー!
気分はBlue Note?アポロシアター?最高のアレンジに、にやついてしまう顔がおさまらない。好き大好き。
アレンジという概念と結婚できるなら、この曲としたい。
からのキャットポーズ!洒落が効いている。
ギターポジションからのセンターに移動しての見せ場!ギターストラップに3つ並ぶ猫のワッペンが印象的な小笹大輔さん。やっぱりキャットなんですね!と謎の納得感があった。
「FIRE GROUND」
ファンキーでロック!なにがいいってもうこのグルーヴ。
「Stand By You」を歌う頃にはとうに気持ちはライブの中に。気づけば手拍子をしてる。せずにはいられない。
「Pretender」のコーラスが大好きで、“それもこれもロマンスの定めなら”聴きたさに再生することもある。
そのまま「I LOVE...」への引き上げ!染み入るバラードから突き抜けるトランペット!
広がって溶け合うのを止められない絵の具の美しさに目を止めた歌詞が好きだった。“目が眩んでしまう”で、上空のライトに手をかざす藤原聡さんの動作がいい。
真っ白に世界を染めるライト。バイオリンの音。
MCがあって、そして「ラストソング」
“ひと夏のきらめき”の後にくるエレキギターのメロディー。刹那の音がする。
ペンライトを振っているみたいに見える客席。うっときた。会えたはず、居たはずの景色を実感してしまって、小笹大輔さんの表情に胸が締めつけられた。
真っ赤な幕が閉じる。
オンラインライブを見て、決意を強めた。必ずOfficial髭男dismのライブを観に行く。
配信を見られるのは10月3日までで、配信後にプラスされたオーディオコメンタリーバージョンも、すごく楽しく聞き応えが盛り沢山だった。
2,200円では足りないのではと思う。見てよかった。というより、間に合ってよかった。
サックス、トランペット、トロンボーン、管楽器隊の大活躍がもう嬉しくって楽しくて。
ドラムにタンバリンに打楽器も。跳ねるピアノ、ネックを行き交うベース。映像としての魅せ方にも惹かれて、アレンジも最高にかっこよかった。
なんとなく、だったOfficial髭男dismの音楽の何に惹かれているのかを、もうはっきりと自覚するオンラインライブだった。
楽しくて、楽器の音いっぱいで、止めどないエネルギーを放つ歌声に聴き入って、ドキドキが止まない。
アシンメトリーなジャケット衣装に、曲から演出まで溢れる粋なセンス。
そして「夕暮れ沿い」の圧倒的なアレンジに、私はこれが好きだと紛うことなき軸を見つけた。あのアレンジを良い!と考えて演奏してくれるOfficial髭男dismに、惹かれないはずがない。
楽しんでいる顔を見て、いきいきした楽器の音を聴いて。
理屈と躊躇いを越えていく歌声。
確かにある距離だけど、確かに届く歌を傍らに、今を重ねるんだと強く決めた。そのエネルギーをくれたオンラインライブ。
Official髭男dismに、この文字に込めた拍手が伝わってくれたならと願う。