夏のノースリーブワンピース

 

ドラマ「セミオトコ」を朝の支度をしながら見た日。

外に出ると、今年最初に聞くセミの声がして、これは最高に夏だなと思った。

 

‪夏色のワンピースを買った。オレンジに花柄の。‬

ロング丈で、縦に並ぶボタンと詰め襟が可愛いワンピースだった。しかもノースリーブ。

 

ノースリーブは着られないと、ずっと思ってきた。

無防備感が心許ないし、腕を出すのは無理無理無理無理…

けど本当は、子供時代に言われた「ノースリーブはやめておきなさい」という親からのひと言で、今まで1度も着てこなかった。

なにそれ?!と瞬間的には思ったけど、理屈はわかる気がして、ずっと言う通りにしていた。

 

でもそれを忘れてしまうくらい、心惹かれるワンピースだった。

いつもなら、袖がないからとすぐ諦めがついていたのに、試着までしてしまった。今の自分なら着られるかもしれないと思った。

羽織りも一緒に試着したけど、この服はノースリーブでこそ可愛いと感じるデザインだとわかる。

 

すぐには決められなくて、冷静になろうと思っても、忘れることができなかった。ライブがあるなら迷わず買うのになと思いながら。

“ライブ”というイベントごとが自分の1年の中に存在するようになって、日々の生活や運動を1年後のこの日のために、とこなせるようになっていた。

丸ちゃんの視界に入る可能性が1ミクロンでもある日には、目を逸らさず見つめ返せる自分でいたい。

そんな事は大抵起こらないとしても、それが大きなモチベーションになって、自然と増えた運動量と控えめになったおやつの量で、体重は落ちて筋肉は少しずつ付いていった。

ライブのおかげで、克服しつつあった体型コンプレックス。

 

着たことのないノースリーブ。夏の予定は無いけれど、見たことのない自分になれる1着を欲しくなった。

もう一度お店に戻って、くださいと言って手にした袋は、特別な重み。

予定は無い。今年の夏、着られるかもわからない。でもいつか水族館に着て行きたいなと思って買ったノースリーブワンピース。

 

先日、普段と変わりない用事ではあったけど、着て行こうと決めた日があった。

とっておきのお出掛けではないけど、今年の夏に着ておかないと、また勇気を無くすかもしれないから。

その日は1日、不思議な気分で、すぐにでも羽織りものを着てしまいたい気持ちと、せっかくの可愛いワンピースを存分に活かして堂々と歩きたい気持ちとのせめぎ合い。

オレンジの花柄に合わせて、メイクはオレンジにしたし、イヤリングは大ぶりのフープ型でちょっとバカンスな雰囲気。鞄だって小さめのやつ。

大丈夫。ベストなコーディネートを組んだのだから、こんな腕見せたら…と考えるのも気にするのもやめて、今日1日は胸を張って歩く。

そう思って過ごした1日は、想像していたよりずっと楽しくて、嬉しくて。

 

くすぶり続けたコンプレックスは、いつの間に解消されていたことに気がついた。

実際に変わった体型だけではない、自分に向ける自分の視線の厳しさも、少しずつ変化していたことに。

 

また着たい。

いつか水族館に、公園に、ライブに。着て行きたい。

 

 


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