好きな作品を見つけて、その空気に浸っている時が、最も希望に満ちている時間だと言えるかもしれない。
「500ページの夢の束(Please Stand By)」を見て、パンフレットとフライヤーを部屋に飾りたくなった。
あまり広く公開されていた作品ではないようで、発売されたのも日本ではDVDのみでブルーレイは無い。
そうなると、パンフレットもフライヤーも持っている人は多くないはず。公開から少し経っているし、中古で探すにも望みは薄いかなと思いながら調べた。
見つけることができて、無事に届いた時の嬉しさはひとしお。すぐに封を開けて、本棚の上に飾った。フライヤーはフレームに入れて、上の方に。
このフライヤーを入れるフレームは、100均の軽い素材のもので、高い所に置いて落ちたとしても大丈夫なのが良い。紺のフレームにグリーンのマスキングテープを貼ってみたら、奥行きがついて見えて、それも気に入っている。
紙質と色味をそのまま見たいから、面の部分のフィルターは外してある。
「トイストーリー2」のジェシーの棚みたいに、ひとつひとつ並んでそれ一色になっていく感覚にわくわくした。
好きなものを並べるのは楽しいことだけど、時が経つにつれて並んでいるものが移り変わっていくことに、少しの申し訳なさを感じるのは、あのジェシーの悲しそうな表情が思い浮かぶから。
だけど大切にしたいものが揃って、視線を向けるたびにその作品の空気を思い出すのはうれしい。
先日、必要があって出かけた時に、思いがけない看板を見つけた。
“シナボン”と書かれた店名に、シナモンロールの写真。すぐに直感した。「500ページの夢の束」で主人公のウェンディが働いていたお店だと。
映画の中で、ウェンディがシナモンロールの試食をすすめたり、シナモンロールの上にクリームをぺたぺたと塗るシーンがある。
制服も着ているけど、シナボンという名前に聞き馴染みがなくて、映画のために作られた架空のお店なのかと思っていたけど、その後、実在するお店だと知った。それでもお店はアメリカにしか無いだろうと思っていて、だからふいに目の前に現れた“シナボン”の文字に驚いた。
誰も気に留めず、当たり前にあるお店が、私にとっては海外で探してでも行きたかったお店で、それをこんなふうにしてたどり着こうと思わずにたどり着けたことが嬉しかった。
ここ!これだ!とテンションが上がって、持ち帰りで買って帰ることをすぐに決めた。
まさかこんな所にと感動が収まらないまま、メニューを見ると、映画と同じ、クリームがたっぷりと塗られたシナモンロールが。
通常サイズだと、一個がとにかく大きい。一度でひとつを食べきる自信はなかったから、ミニサイズを二個。可愛いブルーの箱に入れてもらった。
記念を撮っておきたいと思って、お店の方に写真を撮ってもいいですか?と尋ねてから外観をの写真も撮った。
ポスターでも飾られていたら、ここ、映画のお店ですよね…!と店員さんに熱っぽく話しかけたいくらいだったけど、多分なんのことやら分からないと困惑させるだろうと予想がついたので、それはやめておいた。
帰宅して、ルンルンで箱を開けて、20秒レンジで温めてから早速おやつに食べる。
自分でも脈略の無さに驚くけど、私はシナモンが苦手で、唯一食べられるのがスターバックスのシナモンロールだった。
あのどしっとしたシナモンロールを、今日はカロリー消費をよくしたぞと思える日には注文して、ナイフとフォークを付けてもらって。ロールされた端からくるくる解いて、ステーキみたいにナイフで切って食べるのが好きだった。
しかし最近、スターバックスのシナモンロールはミニマムサイズになって、クリームも変わった。
シナモンが効きすぎていると食べられないから、どこのものでもいいと言えないのに、食べられるシナモンロールが無くなってしまった今。
そこへ現れたシナボン。さてここのはどうだろうと口に運ぶ。おいしい。
生地がしっとりデニッシュのようで、シナモンの味はしっかりするけどクセは強くない。食べやすいシナモン感で、クリームもこってり甘い。
上に乗るクリームが、クリームチーズっぽかったりサワークリームっぽくても食べられないという私の厄介な好みだけど、ここのシナモンロールは好きな味。
甘みがどーんとくるから、ブラックコーヒーが飲める人にはきっとその組み合わせが最高。
アイスカフェラテにガムシロップを入れずに合わせるのも良い。
映画の中にでてきたシナモンロールを、実際に食べられた。
好きになる映画には、よくこのお菓子が登場する。「かもめ食堂」もそうだった。
視点を変えたら、ただそこにあるお店のシナモンロール。それだけのことだけど、私にとっては忘れることのない甘い味。