表情ひとつが語るもの - BUMP OF CHICKEN「真っ赤な空を見ただろうか」

 

読んでー…!と願いながらラジオにメッセージを送っていた頃。ラジオを聴くようになった始まりはFMからだったから、曲のリクエストを募っていることも多く、何度かリクエストを送った。

阿部サダヲさんと柴咲コウさんの「お・ま・え ローテンションガール」を夜中にリクエストという謎なテンションに応えて曲をかけてもらった時は飛び上がるほど嬉しかった。

その時の気分によって、いろんな曲をリクエストしたけど、断トツで回数が多かったのはBUMP OF CHICKENの「天体観測」だった。

BUMP OF CHICKENのことをよく知るわけではない。だけどラジオから聴こえてくる「天体観測」というのは素晴らしすぎるほどに素晴らしくて、昼間でも真夜中でも、何が聴きたいですか?とラジオの向こうから尋ねられると一番に思い浮かぶのがこの曲だった。覚えている限りで、三度はかけてもらったと思う。

 

「井口理さんのオールナイトニッポン0」ラストの回を聴いていたら、BUMP OF CHICKEN「真っ赤な空を見ただろうか」が聴こえてきた。井口理さんの繊細なユニゾンと一緒に。

ラジオで聴く“初めての曲”は、どうしてこんなにも輝いているのだろう。

テレビで、映画で、友人に勧められて。ライブで初めて聴いて。様々な曲との出会い方があるなかで、ラジオを通した音で一定の時間耳にする曲との出会いは一際輝いていると思う。

歌詞カードも目にしていない、耳を頼りにした状態でも、好きな歌詞は浮かび上がって聴こえて、ここ好きだ…と思ったらもう、目ではなく耳が離せない。

 

 

BUMP OF CHICKEN真っ赤な空を見ただろうか

作詞、作曲:藤原基央さん

2006年リリースのシングル「涙のふるさと」のカップリング曲として収録されていて、後に2008年リリースのアルバム「present from you」にも収録されている。

 

 

溜め息の訳を聞いてみても 自分のじゃないから解らない

だからせめて知りたがる 解らないくせに聞きたがる

 

“自分のじゃないから”と思えるところに、自分と相手は違う、ひとつとひとつ持つものがあることを、とても自然に受け入れている様子が伝わってきた。

分かっているようで一緒くたにしてしまいがちなことを、まずトンと前に置いてもらったような感覚がした。

自分じゃないからではなく、間に“の”が入ることで、それぞれに持っているもの、というニュアンスが生まれるのがいい。

“解らない”の後にくるものが、“だからせめて知りたがる”なところも、別だからそれでいいとは思わずに足掻きたくなる、人の面倒でだけどそうするほかにない関わり合うすべが言葉になっている。

 

言葉ばっかり必死になって やっと幾つか覚えたのに

ただ一度の微笑みが あんなに上手に喋るとは

 

たった二行。だけど前の一行と後ろの一行では、価値観がぐるんと一変している。

すべてひっくり返せるほどの二行で、この曲の中で主人公が体感したであろうハッ…!と気づかされる瞬間を、聴いている自分も体感した。

語るためには言葉が必要だと搔き集めていたはずが、目の前にした微笑みに一気にすべてを語られてしまう瞬間。こういう内容を話して、こんな順番で伝えて…と頭の中でどれだけ積み重ねたシミュレーションを突き抜けて越えてしまう微笑み。

目は口程に物を言うという言葉はあるけれど、それをもっと美しくてリアリティのある表現に変えて、“微笑み“が“喋る”という見方をするところに驚いた。

それも“上手に喋るとは”とあることで、伝えたかったことの何倍もの想いが微笑みを見た『誰か』の胸の中に流れ込んできたのだとイメージできる。言葉を交わしていない段階で、“ただ一度の微笑みが あんなに上手に喋るとは”という歌詞がくることに感動した。

歌を聴いているはずなのに、映像をみているかのようで、その微笑みも、面食らって驚く表情の主人公も、情景がありありと浮かんだ。

 

理屈ばかり こねまわして すっかり冷めた胸の奥が

ただ一度の微笑みで こんなに見事に燃えるとは

言葉は淡々としているのに、熱く燃えている心情が伝わることがすごい。

そして2番の歌詞でもやっぱり好きなのは、“こんなに見事に燃えるとは”で、“とは”を言葉の最後に使っているところ。言い切らず途中で止めることで、その先の言葉が思い浮かばないほどの感動に圧倒されている感じが表れていて、「。」で終わらず「、」で余白にする描写が素敵だと思った。

 

 

大切な人に唄いたい 聴こえているのかも解らない

だからせめて続けたい 続ける意味さえ解らない

 

“聴こえているのかも解らない”ままだけど、“だからせめて続けたい”と考える。

“続ける意味さえ解らない”と思いながら、“せめて”と言うくらいには、これしかないと思う気持ち。

“唄いたい”という言葉が出てきたことで、「真っ赤な空を見ただろうか」の主人公はフィクションの誰かというよりも、歌っている本人なのかもしれないと思った。

ラストの歌詞には

ただ一度の微笑みに こんなに勇気を貰うとは

ここまで喉が震えるとは

“喉が震える”と聞いて考えるのはやっぱり歌を歌う人だった。そう思えば思うほど、この歌詞に胸が熱くなる。

 

井口理さんがこのタイミングでラジオから流してくれなかったら、知ることは無かったかもしれない曲。今聴くから、いくつも思いが重なって響いた曲。

パッと目を合わせたその瞬間の表情で、自分の見る世界が変わることがあって、一言二言交わすよりもそれはずっと火種を残して燃え続けることを、この歌で思い出した。