マゼンダ、シアン、イエローの恋心 - CHAO「好きになってごめんなさい」

 

マゼンダ、シアン、イエローの3色に分かれた、3人の恋心。

YouTubeで目に入ったサムネイルの可愛さに、クッとスクロールする指が止まった。色味の引力とはすごいものだと感じた瞬間だった。

ゆりやんレトリィバァさん、ガンバレルーヤのよしこさん、まひるさんで組まれたユニット、“CHAO”が歌う「好きになってごめんなさい」

MVが可愛くて、歌詞は悲しいけどハツラツとした歌声に気持ちが明るくなる。

 

YouTubeのおすすめに上がってくるのを何度か目にしていながら再生を躊躇ったのは、

まんまと乗せられる予感がしたのと、お笑い芸人として活動している3人がどんな扱いで映されるのか、見るのが不安だったという2つの要素から。

曲タイトルと歌詞に自己肯定感が低めな要素があるのは少し引っかかるけれど、それは誰にとっても起こりうる悲しみだから、ひたすらにキラキラと完璧に歌われるよりも心に届く。

そして、MVの作りと映し方がとても素敵だった。

元々MVを作る予定のなかったこの曲は、急遽公募での監督探しが決まり制作されていて、せっかくなら監督のお名前をクレジットに載せてあげてほしかった…と思っていたら、調べたところお名前がわかって嬉しさで小躍りしている。

「好きになってごめんなさい」MVの監督をされたのは、松永つぐみさん

ほかに携わられた作品を見ていたら、吉澤嘉代子さんのお名前があって、ああー!好き!好きになるはずだ!と勝手に納得している。

 

さらにメロディーが歌謡曲の空気を持っていて、それでいてキラキラとポップな雰囲気が懐かしさも今っぽさも含ませている。

ひとりひとりの歌い方にも個性がありながら、はっきりとした発音が耳心地よくて、歌っている歌詞がちゃんと耳に残る。

ゆりやんレトリィバァさんの歌声は、お姉さんな雰囲気がありつつ、空気を含んだ感じの声とビブラートの抜き加減が美しい。まひるさんの歌声は、背伸びせず可愛らしいニュアンス。よしこさんの歌声は、高めでまさにマゼンダがぴったりな大人びた印象。

ベールを纏おうとせずに、綺麗な声は意識しつつも華美にしないところが聴いていて心地いい。

 

芸人さんとしてのイメージの強い、ゆりやんさん、よしこさん、まひるさんの衣装をマゼンダ、シアン、イエローの3色に振り分けることで、それぞれ女の子としての個性が可視化されていた。

このカラーバランスが人を惹きつけるということは、星野源さんの作品の特徴でもある色づかいの中に、全く同じ色ではないけれど「恋」「family song」「ドラえもん」でそれぞれ、イエロー、ピンク、ブルーが用いられていることからもわかる。

セットの作りも、限られた広さでありながら工夫されていて、3人の部屋が縦に続いて移動できる配置になっていることで長回しのワンカット撮影が出来る。誰の部屋かは色味でパッと見て分かるようになっていて、テーブルや花瓶もすべて色味が統一されている。

同じ色や、濃さの違いがありながら近いトーンのものを揃えるのは、きっとなかなか大変なことで、小道具は買い揃えたのか塗ったのかは分からないけれど、美術さんもしくは監督の相当な努力があったのだろうと思う。

 

私は、ザ・ベストテンなどに出演したアイドルが、マイクを持ちながらもう片方の手で出来る範囲で踊る振り付けが好きだったりする。

それもあってか、3人が並んで傘を持って踊る振りや、サビの手を使う振りが好きだった。

特にゆりやんレトリィバァさんのダンスは、どう見せることが綺麗に見えるポイントなのかを感覚的に掴んでいると思う。

歌詞の“聞こえなかったんだと 諦める”の手の降ろし方と視線の角度が素晴らしくて、一連の動作の美しさに何度見ても注目してしまう。

 

メイクもアイシャドウがそれぞれ担当の色になっていて、それが過度ではなくてナチュラルな範囲の色になっているのもすごい。

チュールの掛かったベレー帽は思わず欲しくなるくらいに可愛くて、手袋を着けているのも魅力的。

 

空に舞うのは、カラフルなビニール袋。

ファンタジーではないリアリティの中にある可愛さを見せる世界観がとてもいい。

MVの中で等身大な女性として映る3人は、切ないけれど魅力に溢れていて、MVを作った人たちの思いが満ちているところに心を掴まれる。

可愛くあるにはこうでなくっちゃ、を取り払って、好きな人への想いを胸に持つことのうれしさと、実らなかったとしてもワクワクできるこの楽しさを具現化したような映像に惹きつけられた。

 

歌詞についてはサビを聴くたびに、謝んなくたってよくない?!と心の強気ガールが声を上げてしまうけど、

MVという数分間で見せる映像として、こういう見せ方があるんだと興味深くて、楽しいところがいくつもある作品だと思う。

本人には見えていない、誰かを見ている時の、本人の可愛さを映したMVだった。