土曜の夜になれば聴こえてくる二人の会話「大倉くんと高橋くん」

 

5年が経った。気づかない間に。

ラジオが好きで、平日も休日だってラジオを聴くけど、土曜日の夜。23時30分が近づくといつも、radikoスマホで立ち上げてニッポン放送をつけるのはもう当たり前のことだった。

この番組は耳元で会話を聞くように集中したいから、イヤホンを着けて聴く。

 

「こんばんはー」

「こんばんは」

 

静かになる夜の時間、いつも通り待ち合わせでもしているみたいに、二人の声が順番に聞こえて、自然とはじまる近況の話や最近気になっていることの話。

「大倉くんと高橋くん」があると思えば、どんな心細さにも立ち向かえる気さえしていた。

アミューズの高橋優さん。ジャニーズの大倉忠義さん。福山雅治さんのラジオ“魂ラジ”の後に続く番組のパーソナリティが二人だと聞いた時、なぜ!?どんな組み合わせ??と接点の見えなかった二人に驚いて。

放送初回を昨日のことのように思い出す。お互いに敬語混じりで、高橋優さんは相手との距離感を大切に見計らいつつ、ここは僕の歩いてもいいスペースですか?と探りながら、一歩一歩近づいていくような雰囲気。

大倉忠義さんは関ジャニ∞の活動を通して見てきていても、ラジオで話す大倉さんはどんな声で、どんな話をするんだろうと謎が多かった。

二人の会話はゆるーっと居心地がよくて、あれってどうなの?これってどう思う?と、男子校の会話を聞いている気分になったかと思えば、二人が聴きたい曲をひたすら流しながら喋って歌って盛り上がる回があったり、高橋優さんがアコースティックギターで歌う時もあったりして。

 

スバラジがあった頃は、どっちも聴きたい…!!と両手を引っ張られる気持ちで、大倉くんと高橋くんからスバラジそして大倉くんと高橋くん、と行ったり来たり。

不思議な番組だったなと思う。メールテーマは一貫して「やっちまったこと」で、普通のお便りも一応受け付けているものの、生放送番組でよくあるリアルタイムで届くメールへのリアクションは、最近になるまでほとんど無かった。やっちまった話を聞くため電話をつなぐコーナーと、リスナーからのメールを読んでお互いがイライラするかどうかを競う、イライラじゃんけん。

メールを送っても、読まれる時間とチャンスが少なすぎでは…!と思っていたこともあったけど、大倉さんと高橋優さんが楽しんで話しているのを聴いていられる時間が一番楽しかった。

 

生放送にこだわって、それぞれがライブをしている期間でも、可能な限り二元中継などを使ってその日その時の声を届けてくれていた。

どんな暗い気持ちのなかに居ても、灯台のように今いる場所を教え、照らしてくれた大倉忠義さんと高橋優さんの声。

突然の知らせに関ジャニ∞をどう見守っていたらいいのかわからなくなった時。手紙を書いてきましたと、“eighterへ”という書き出しではじまる手紙を大倉さんが読んだのも、この場所だった。

関ジャニ∞にとって、大倉さんにとって思うことも多かったに違いないこの2年間のあいだも、「大倉くんと高橋くん」は毎週放送された。

変化も浮き沈みも目の前に見ている高橋優さんはいろんなことを感じていたはずだけど、闇雲に踏み込むようなことはせず、客観的な視点と、第三者としての立ち位置を保って、自分たちを制作サイドの“こっち側”と括ることはせずにリスナーとの位置関係を大切にしてくれていた。

 

パーソナリティは話をする時、スタジオで空間を視覚的に見ながら話をしているけど、リスナーは音だけを頼りに耳を澄まして声を聴く。

だからラジオの向こうで、どんな動きをしてるのかそれとなくわかったりする。

今のはアイスコーヒー飲んでる音かも。スマホの通知鳴ってるなー、安田章大さんから電話かかってきた。出た?!

安田さんからの電話に放送中に出てしまう、大倉さんのフリーダムっぷり。機嫌が良いのか、掴みどころのない高めのテンションで大倉さんが話す時も、高橋優さんはおおらかなテンションで受けとめる。

ラジオを集中して聴いていた私個人の気持ちとしては、大倉さん集中ー…!とたまに思うことはあったけど、高橋優さんの接し方と落ち着いたラジオの進行にバランスを感じて、ほっとしていた。

 

 

高橋優さんの大倉さんへの思いを放送内で垣間見たのは、高橋優さんが作った「BEAUTIFUL」という曲を披露している時だったと思う。

大倉さんからのリクエストで、弾き語りで歌った時。曲を流した時。そして番組が3月いっぱいで終了しますと発表をした2月29日の放送でのアコースティックギター弾き語り。

曲ができたきっかけは、2016年の放送ですこし話してくれていた。

大倉さんが新幹線の移動中に、外の景色を見ながら高橋優さんの曲を聴いていたら泣いてしまったこと。それを聞いて高橋優さんは曲を書いたこと。

この曲を聴く以上の曲への思いは、本人たちにしか知る由はないけど、はっきりと明言する機会は少ないものの、大倉さんのことを考えながら作ったことは高橋優さんが時折話していた。

 

ラジオにはいろんな形がある。声だけで届ける、その枠の中で、出来ることは無限にある。

オールナイトニッポン「大倉くんと高橋くん」は、大倉忠義さんと高橋優さんの間に生まれる、友人関係の進展を二人の会話で感じる時間でもあった。

ゲストを呼ぶことも多くはなかったけど、安田章大さん、東京スカパラダイスオーケストラ谷中敦さん、丸山隆平さんがやって来て、どの回も個性が弾けていて楽しかった。

 

私はラジオのおかげで、曜日感覚が保たれていることころがある。

私の頭の中にある時計は、たぶんちょっとヘンテコで、間の記憶を失ってるんじゃないかと心配になるくらい、時間が早く過ぎているように感じたり、わずか1週間が恐ろしく遠い向こうに感じたりする。

早いんだか遅いんだかわからないこの時計で、長い期間同じことを続けるというのは、私にとって容易ではない。

それが5年、続いている。土曜日の夜に「大倉くんと高橋くん」を聴くという習慣が、区切りを見失う曜日の中で“旗”の役割を持っていて、ここまで来たよと教えてくれる大切な目印になっていた。

 

関ジャニ∞のライブ後に聴く日も、高橋優さんのライブ後に聴く日も、どちらも楽しかった。

高橋優さんの曲は聴いていても、どんな人かはわからなかった。ライブに行こうと思うようになったのは、ラジオが決め手。交換留学みたいに知らない景色を知った。

思い出も、思い入れも、語りだしたらきりがない。

大倉さんはエレキギターで、高橋優さんはアコースティックギターで、ゆずの「青春の日々」をカバーして歌った時のことを。暗くした部屋で、耳に直接ガツンと届いた二人の歌声を忘れることはない。

 

高橋優さんの曲で「STARTING OVER」という、ラジオがテーマになっている曲がある。

もうダメかって時こそ音楽が鳴り響く

僕らの大いなる旅は始まったばかり STARTING OVER 何度でもまた走り出せ

“もうダメかって時こそ音楽が鳴り響く”の歌詞がすごく好きで。

高橋優さんがラジオのパーソナリティを経験して、それをきっかけにこの曲が生まれたことが、最高に嬉しかった。

たとえ終わるとしても、このラジオが始まってくれなければ、生まれなかったものが確実にある。基本はニュートラルに、でも時に拗らせた人間不信っぷりで白熱する二人の会話に、布団の中で吹き出し笑いをした時間。

 

2015年4月4日〜2020年3月28日までの、約5年間。

今日はさすがに無理なのではないか…と思う時でも、23時30分になれば声が聞こえた。

高橋優さんに、大倉忠義さんに、ありがとうと伝えたい。放送をつくるために働いてくれた、ラジオに関わるスタッフさんに感謝したい。

あと4回の放送。

土曜日になったらラジオをつけて。間を一つあけて聞こえてくる、二人の会話を楽しみにしている。