作った本を手渡す日

 

前々日は緊張したけど、前日になればそんなこともなかった。

11月24日の日曜日。ついにやってきた「文学フリマ

前日の夜は、ラジオ「大倉くんと高橋くん」を聴いて、気づけば眠りに落ちて、めずらしくしっかりと睡眠をとって挑むことができた。

 

朝早くからの出発だったから、買っておいたメロンパンを鞄に忍ばせて出陣。

東京流通センターに行くのは初めて。まず、たどり着けるのかが不安だった。

東京のオフィス街を走るモノレールからの景色は新鮮で、思ったよりもガッタガタ揺さぶられる車内に驚きつつ、ビルとビルの間を縫うように走っているのが面白い。競馬場がよく見える。日曜日だからか、車も人通りもほとんどない道路にワクワクした。

無事に流通センター駅に到着し、すでに人の多い道を歩いて2分で「東京流通センター

f:id:one-time:20191130214921j:image

出店者のための列がもうできていて、しばし並ぶ。会場へ進む大階段がレトロでよかった。

文学フリマの開場の1時間前から出店者は準備を始めて、各々ブースの設営。

 

1時間あれば、と考えていたけど、あっという間に過ぎる1時間。

よし!ディスプレイ完成!と思ったら。スペースを広く取りすぎていて、お隣の方を戸惑わせてしまうというハプニング。申し訳ないやら情けないやらで、開始前から焦る。すごく焦る。

長テーブルの半分が自分のブースのスペースになることを理解できていなくて、長テーブル1つ分で作ってしまっていた私。開場20分前にして、立て直すといういきなりのミッションに早々に心が折れかける。

“旅にハプニングはつきもの”という言葉と相容れなかった私は、徹底的な先回りとリスクヘッジで回避してみせる。をモットーにしていたのに、序盤からこの出遅れ。

焦りから自分への苛立ちになりかけて、いやいやここで自分で機嫌を悪くしてどうすると、落ち着け…落ち着くんだ…と心に言い聞かせてなんとか気持ちを立て直し、もう一度ディスプレイをつくる。

そして完成!文学フリマがスタート!

 

ほどよい落ち着きの空気感で、人通りもある場内。

座っている方が近づいてきやすくていいのか、立っていた方が近づきやすいのか、それすら手探り。とにかくウェルカムを醸し出すことだ…!と、姿勢よく、和やかに。お出迎えの姿勢を保つことに集中。

ふと我に帰って、この目の前に並んでいる本…自分が書いたやつ…それを自分で売ってる…?これは一体…?と不思議すぎる世界に飲まれそうになった。

ブログに載せる文章は、読むも読まぬも瞬間的に自由に決められるけど、この場所まで交通費をかけてやって来て、気力も体力も使って。本を手に取ってくれるというのはとんでもないことなんだと、この日を迎えてここに座った途端に実感して、これまで感じたことのない、よくわからない気持ちになった。

 

本は買ってもらえるだろうか。どんな人が手に取ってくれるだろうか。

朝ごはんを食べていないのに、お昼になっても気持ちがそれどころではなくて、買っておいたおにぎりも食べる気にならない。水分だけは摂らないとと小まめに飲んで、ウィダーでしのぐ。14時ごろになってようやく、おにぎりひとつを食べた。

ブースの前へと来てくれる人、ひとりたりとも見逃したくなくて、お手洗いに行く時間すら惜しい。

 

どうか…誰か来てくれますようにと心細さを飲みこみ座り続けていると、近づいてきてくれた人。

「ブログを読んで」と言ってもらえることがこんなに嬉しいことだとは。こうして目の前にいてくれる人が、書いていく先に確かに居たんだと実感になっていく。

文章をどんなに書いても、いつも、誰かが読んでくれているのだろうかと、ふっと顔を上げたら何もない砂漠なんじゃないかと思ったけど、そんなことはなかった。

はじめはどうお話ししていいかわからなくてぎこちなくもなったけど、お話ししたいと思うなら、話題はこちらから一歩入りこんで質問を投げかけることだ!と心に決めてからは会話が続くようになって、ずっと気になっていた“何をきっかけにこのブログを知ってくれたんですか?”という質問もできた。

思いがけないきっかけだったり、そんなに前から今の記事にいたるまでジャンルが変わっても読んでいてくださっていたんだと知って、

自分で想像できる広さなんて限られていて、思いもしないところで思いもしないことは起きてくれているんだと確信できた。

 

それからはあっという間に。

11時から17時まで、ずっと同じ場所にいたはずなのに、一瞬だった。

常に忙しくしていたわけではないけれど、緊張も嬉しさも一緒に抱えたまま、時間はすぐに過ぎ、文学フリマは幕を閉じた。

 

 

お隣同士でなにか会話ができたらいいなーと思いながら文学フリマに参加していたら、憧れの本の見せ合いと買い合うことができて、すごく嬉しかった。

周りのお店を見て歩く余裕はなかったけど、それぞれの方法で本を並べている様子を通りがかりに見て、見習いたいところもいろいろあった。

 

持って行った本が、全部売れたわけではなかった。

宣伝の仕方、本の内容、ブースのジャンル選び、もっと何か出来たはずだと思う。好みに合うかどうか、まず本を開いて、2行3行読んでもらわなくては、きっかけも掴めない。

数字だけを自信に変えるつもりでは来ていないけど、それでも悔しいと思った。

これだけ体力も使って気力も使うシビアなことなのだと知って、次々とイベント出店していく人たちのフットワークには圧倒された。

今はまだ、なんとかやり遂げた!という余韻の中で、通販で買いたいと思ってくださる方へ一生懸命に配送するので手一杯だけど、もう少し時間が経ったら、いろんなことへの実感が湧いてくるのかなと思う。

 

f:id:one-time:20191130214522j:image

 

今回、テーブルに掛けたクロスは、布博で購入したもので、「nocogou(ノコゴウ)さん」の布。

やっぱり素敵な柄で、爽やかに暖かい。

座っているあいだ何度も眺めては落ち着いた。

 

f:id:one-time:20191201104341j:image

「大阪滞在記」の表紙デザイン、そしてイラストを描いてくださったのは、ぷぁるしぇんこさん。

ブースの前を通ったお姉さん方が、「クリームソーダだー…!」と言ってくれていた。

この本にこの絵があってくれてよかった。緑のグラデーションに中崎町駅の看板、しゅわしゅわとのぼる泡のこの絵は、私にとっての宝物になると思った。

 

 

片付けを終えて、少し軽くなった鞄を肩にかけ、東京流通センターを後に。

朝ごはんに食べよう、それかお昼に。と持ってきたメロンパン。あっそういえばと鞄から取り出してみたら、座布団もびっくりなぺっしゃんこになっていた。

参加できてよかった。課題はあるし、悔しさもちゃんとあるけれど。

 

今回販売した本「大阪滞在記」の通販は、BOOTHというサイトで行っています。大阪滞在記 - 宛名のないファンレター - BOOTH

 

文学フリマに来てくださった方、「大阪滞在記」を手にしてくださった方。ありがとうございます。

来られなくても、行きたかったと思ってくださった方、通販で購入してくださった方。気にかけてくださっていた方。どんな形でも思いのなかに置いてくれて、ありがとうございました。

嬉しいような、くすぐったくてふがいないような。忘れることのない日になりました。

きっとまだ続いていくはず。がんばる。がんばります!