Hey! Say! JUMP「ファンファーレ!」歌詞に溢れる可愛らしさと、ダンスに見える躍動感

 

セミは、カブトムシの次に、無理な虫のはずだった。

なのに今は、夏の終わり、まだ聞こえてくるセミの声にほっとして、その音が止まってしまう日を恐れている。

 

テレビ朝日金曜ドラマセミオトコ」

山田涼介さんがセミ役?!という謎の宣伝からして、ついて行ける気がしなかった。猫とか、狐とか、そういうのではなくて、セミ!?なぜ虫の中でも難易度の高いセミを選んだの?と、しっかり戸惑った。

でも「セミオトコ」を見てみてわかる。セミが人になりました!だけで済まないメッセージを持っている。

ほんわかと優しい空気のストーリーのなかで、おかゆさんこと由香が抱えるものは、優しく描かれてはいても、かなり深刻なもの。“うつせみ荘”に暮らす人たちそれぞれに、過去から抱えてきたものがあって、そんな中でも楽しいと感じられる瞬間を大切にして生きている。

今では大好きなドラマになった。毎週、金曜日が待ち遠しい。

 

そのドラマの主題歌、

Hey! Say! JUMPファンファーレ!

作詞:辻村有記さん 作曲・編曲:辻村有記さん、伊藤賢さん

本編のエンドロールに流れる“ファンファーレ!”の文字が可愛くて、フォントのチョイスが素敵だと思ったのが第一印象だった。

歌詞には“The beginning of Summer”と出てくるけど、「セミオトコ」を見ているからか、夏の始まりというよりは終わりの近く夏の切なさを感じる曲だった。サンセットのオレンジが滲む景色で、最高に楽しいから最高に寂しい、きっと二度とない時間。

歌詞の一つ一つが「セミオトコ」の世界観ともリンクする。

 

ダンスの振り付けをされたのは、「s**t kingz(シットキングス)」

shojiさん、kazukiさん、NOPPOさん、Oguriさんの4人からなるダンスグループ。

Nissy→関ジャニ∞「Black of Night」Oguriさん振り付け→関ジャム出演→音楽の日での「太陽は罪な奴」のダンスパフォーマンスと、関心はどんどん高まって、そして今回「セミオトコ」の主題歌になった曲の振り付けを、s**t kingzが担当。こんな嬉しいことがあるのかと感動している。

曲の魅力はもちろん、ダンスの細やかさを感じられることが嬉しくて、体幹と重心の置き方が腰から太ももにかけてクッと力を入れる感じや、手のひらの見せ方、腕のストロークの使い方にs**t kingzのエッセンスを感じて、それをHey! Say! JUMPが踊っていることに感動した。

 

一音も無駄に溢すことはしないのがs**t kingzの印象で、「ファンファーレ!」でもイントロのピアノの一音さえのがさない振り付けになっている。

その証に、“考えるより 動きだせ”と中島裕翔さんが歌ったあとわずかに鳴るピアノの一音に合わせて、中島裕翔さんが右手をふっと動かす振りがあって、なんて細やかなんだと感動した。

歌詞にぴたりとはまるダンスになっているのを見ると、曲と歌詞が先に出来ていて、そこから振り付けを考えたのではと思う。ドラマの放送が始まっていない状況で、どんなオーダーを受けたのだろうと想像する。

セミなんです!王子で!と例えば説明を受けたとして…戸惑いはあるはずの状況で、こんなに爽やかにかっこよく魅せられるダンスを考えたことがすごい。

はじめの、“ちゅるるちゅ”のフレーズで跳ねながらひらりと右手を動かすダンスからは、パタパタと羽をひるがえすようなジェスチャーにも見えて、自然なセミ感をしのばせているのかもと思うと、見ていていつまでも楽しい。

 

 

ピアノの儚げなイントロから、山田涼介さんの生命力に満ちた力強い声で始まるこの歌。

「考えるより動きだせ」 もうそんな気にさせるくらい

なんて素晴らしい世界なんだ あれもこれもキミも

 

「考えるより動きだせ」をストレートなメッセージにせずに、“もうそんな気にさせるくらい”と言い表すことで、心境が変化していく過程を感じられた。

特に好きだと思ったのは、“もう”という言葉が出てくるところ。“そんな気にさせるくらい”だけでも意味としては成立するのに、“もう”と付け加えることで、言葉にひとまとめに出来ない胸の中の衝動が伝わってくる。

“なんて素晴らしい世界なんだ”は、ドラマで山田涼介さんが演じるセミオが繰り返し口にする言葉。

初めて聞いた時は、あまりに無垢すぎるとちょっと冷静に距離を取ってしまったけど、セミオの言う“素晴らしい”は、完璧であることではなくて、もっと日常にある、なんてことないものについてなんだと回を重ねるごとに思うようになった。

そのフレーズをドラマと同じく山田涼介さんが歌い、“あれもこれもキミも”と歌うことへのときめきは計り知れない。

 

このまま Flash Flash 僕ら輝いて

夏の合図にトキメク心踊る

With you 夕焼けに染まった キミの姿に恋だと気付いた 

 

サビの語感すべてが心地いい。

トキメク心” のダンスの音の取り方が、一音のがせばズレてしまうほどの緻密さで、s**t kingzの素敵なところが出ている!と嬉しくなった。

さらに“With you”の前にくる全員揃ってのジャンプ。踊っている合間でのジャンプとは思えない真上への飛び上がりで、高さに驚く。その後またすぐに足位置を揃えてゆったりとしたステップに移動するところは見入ってしまう。

“夕焼けに染まった”の歌詞のステップがすごく好きで、妖艶な歩み寄りにドキッとさせられる。

続く“キミの姿に”の言葉に合わせるように、さり気なく“姿”のシルエットをなぞって自分の胸をトンっと叩く振りがいい。テーマを動きに取り入れたり、歌詞を動きで表現するけれど、それがあからさまではなくおしゃれにナチュラルに取り入れられているところが、s**t kingzのダンスの魅力だと思う。

 

 

「ファンファーレ!」が楽しいのは、ページをめくるように曲の印象が変わっていく転調があるからで、テンポの変化がおもしろい。

有岡大貴さんの歌う、“きっかけの言葉を きっと今も覚えていて ずっと大切なまんまで 変わらず”の変則的なリズムが、曲にもダンスにも緩急をつける。この歌詞の“ずっと大切なまんまで”という表現も好きなポイントで、次にくる歌詞にも“大切なまんま”という歌詞がくる。

表記では大切なままにして、“まんま”と歌うことはあっても、口語調の通りに歌詞を表記することはめずらしいことだと思う。日本語の正しさを選ぶよりも、時には崩した言葉を使うことで、等身大な幼さが伝わる。

“奏でるリズム…”と八乙女光さんのパートから、さらにラテンなリズムへと変わる。

このパートのダンス。足のステップが大好きで、畳み掛けるリズムのあとで、そこから“oh oh oh…”とゆったりしたテンポに落ち着いていく流れが美しい。有岡大貴さんと山田涼介さんの声の相性が、子守り歌みたいに穏やかだった。

 

 

あの日の Flashback 僕らは泣いていた

夏の星座にこぼれ落ちる流星

 

大サビ前の落ち着いた雰囲気のなかで歌われるこの歌詞がとても切ない。

頬をつたう涙ではなくて、“夏の星座にこぼれ落ちる流星”と表現されているところが素敵で、二人の世界が大きな空での出来事のように景色が広がる瞬間だった。

“Flashback”(フラッシュバック)と語感を繋ぐ、“Bring back”(ブリングバック)には【戻す・呼び返す・思い出す】という意味がある。どちらにも共通するのは、【思い出す】こと。

 

セミオトコ」は、次回の放送で第6話。

全8話で、残りはあと少し。

「ファンファーレ!」の2番の歌詞には“ふわりと甘い香り”とあって、それを聞いてメープルシロップをイメージしてしまうほどには、セミオの一喜一憂の表情や愛くるしさが頭から離れない。

8日目を迎えた時、セミオは一体どうなるのか。

二人のこの先がわからない今聴いているから、歌詞の一つ一つが切なくも輝いて見える。ハッピーエンドに終わってほしいけど、由香とセミオはどうなるのが幸せなんだろうか。思い出だけになって、由香はこれからを歩いて行けるだろうか。

 

ある時、暑さをさけて入ったカフェでクリームソーダを飲んでいると、外でセミがミーンと鳴く声が聞こえた。

夏の中に居るんだなあという実感と、私にとっても全く同じ二度目のこの夏はやってこないんだと身に染みて、切なくなった。

あれほど苦手だったのに、今はセミの声が恋しい。